第4話 『聖女の暗殺者』を語る
今回は朔月さん作『聖女の暗殺者』~処刑されてしまったが、転生してでも妹は守るつもりだ~ 第一章 フォーンバルテ公国編まで読了
作品URL http://ncode.syosetu.com/n6646ea/ の紹介です。
夢の図書館 クロスベル主任の事務室 ────
応接用のテーブルを囲んで、向かい側にマルちゃんとベルが談笑している。どうやら前回のダイエット話から、意気投合したようだ。
クリムは、お茶会セットの準備が終ると私の隣に座る。心なしか不機嫌そうな顔をしていたので、頭を撫でてあげると微笑みながらピタリとくっついて甘えてきた。ふと前を向くと、マルちゃんがなぜか複雑そうな顔をしていた。
何かが渦巻いているわね……。
「ごほんっ……では、四回目の勉強会を始めます。事前に通知しておいたけど、今回はこちらの物語よ」
私は、いつものようにテーブルに一冊の本を置いた。
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タイトル:
聖女の暗殺者~処刑されてしまったが、転生してでも妹は守るつもりだ~
作 者:朔月
ジャンル:ファンタジー
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「さっそく概要説明と言いたいところだけど……この作品に関しては、サブタイトルが全てを物語っているわね。まず主人公が処刑されてしまう所から始まるわ」
「わかりやすいタイトルは正義ですわ。これは図書館でも人気ジャンルの『転生モノ』ですわ」
マルちゃんはきらきらと輝く満面の笑みで胸を張っていた。どうやら彼女は、タイトルがわかりやすい作品が好きみたいだ。確かに私たちのような物語を探す仕事をしていると、わかりやすいタイトルは、とてもありがたく感じる。
「主人公が一度死んで、神様に転生させてもらえるのところは同じだけど、この物語は一番多いジャンルの『異世界転生』ではないわ」
「何が違うんですか?」
その二つの違いがわからず、ベルが首を傾げて聞いてくる。
「ジャンルとしては『転生』の中に『異世界転生』があるのだけど違いは簡単。転生先が別の世界か、死亡した世界かの違いだけ」
「ふむふむ?」
「簡単に言ってしまえば、基本的に何も生前のしがらみもないのが『異世界転生』。自分を殺した相手や以前の家族や子孫のような接点が存在するのが『普通の転生』、今回は後者に当たるわけ。もちろん例外はあるけどね」
ベルとクリムは納得したように頷いていた。私は話が脱線しそうだったので、一つ咳払いをすると概要説明に戻る。
「ごほんっ、それで……主人公は妹を遺して死んでしまうのだけど、転生時にいくつかのスキルを与えられ、十年経過して本当の『暗殺者』になるの。新しくできた可愛らしい妹と共にね」
「闇に生きるヒーローって感じでカッコいいですよね!」
ベルは立ち上がって、腕をクロスした謎のポーズで取っている。暗殺者のポーズなのかな? 可愛い、まだまだ子供ね。
「この主人公たちが、世界を護っている『聖女』の暗殺依頼を受ける事から、大きくストーリーが動き出すわ。ここまでが概要ね」
◇◇◆◇◇
「それじゃ……いつも通り、どこが良かったかを聞いていこうかな?」
まず謎のポーズを取ったままのベルが口を開く。
「僕は、やっぱり暗殺者の戦いかな~。素早い動きや技術もいいんですけど、結構頭も使ってますよね」
「そうね。神様から与えられた三つ内、二つは戦闘向けのスキルだから、それを上手く使って立ち回っている感じが、単純に主人公強い! というのより面白かったかな」
「そうですよね! それに悪を裁く悪って感じが格好良いです!」
ベルは、小さくガッツポーズをしてからソファーに座る。続けてマルちゃんが、少し考えるような仕草のあと口を開いた。
「……わたくしは、やはり主人公である兄と妹の関係がよかったかしら」
「関係と言うと?」
「兄妹愛と言えばいいのかしら? お兄様と慕ってくれる妹は可愛らしいですわ。この子は、ちょっと怖いけど……それに兄のほうも妹をとても大事にしているし」
クリムが、身を乗り出して話に割って入る。
「クリムも、兄が大好き過ぎな妹が可愛らしいと思いましたっ! 兄妹同士の禁断の愛もいいですよね~」
「まぁ……多少、倫理的に問題があることも物語内ならありよね」
しかし、この子の恋愛観の多様性は少し心配になるわ。
「それでクリムは、どこがよかったのかしら?」
「う~ん……そうですね。かなり危なっかしい妹がやっぱり良かったと思います。色々と手段を選ばないところとか、面白いし可愛らしいですよね!」
紅茶を飲みながらマルちゃんが頷く。
「貴女も手段を選らばなそうですわね。実は暗殺者に向いてるのではなくて? こんな感じで」
「……そうですか? そう言えば、この物語には『毒』の話も多いですよね」
クリムがニヤリと笑って、マルちゃんのティーカップを見ている。その視線に気が付いたのか、マルちゃんはゆっくりとティーカップから口を離すとテーブルに置いた。心なしか震えている気がする。
「と……とにかく、最後はクロスベル主任ですわね」
「私は、転生という設定を上手く使ったストーリー展開がよかったかしら。もちろんそれを織りなす個性的なキャラクターも魅力的だけど」
クリムが首を傾げながら聞いてくる。
「転生を……上手く使った展開?」
「やっぱり妹関連や一章でのボスなど、ちゃんと伏線を回収してまとめ上げてあるのが、好感が持てたわ」
◇◇◆◇◇
その後もしばらく物語談義が続いたが、そろそろ時間が差し迫っていたので、私はまとめに入ることにした。
「さて、そろそろまとめましょうか」
「は~い」
ベルとクリムの二人は元気良く返事をする。
「それでは、この物語の魅力的なポイントは……」
私は、メモに箇条書きで書き上げていく。
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・転生を上手く扱ったストーリー展開
・暗殺者ならではの戦闘シーン
・家族愛・兄妹愛に基づく人間ドラマ
・危ない妹をはじめ、個性的なキャラクター
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「今回は、こんな感じかしらね?」
頷くベルとクリムの二人に、私はやさしく微笑みながらメモを渡す。
「じゃ、頑張ってね? 二人とも最近良くなってきているわ」
「はいっ!」
ベルとクリムの二人は嬉しそうに返事をしてから、いそいそと図書館へ戻っていった。
本当はまだ未熟なのだけど、二人ともだんだん良くなって来ている。ちゃんと褒めるところは、褒めてあげなくては……。
そんな事を考えながら、四回目の勉強会は幕を閉じたのだった。