第3話 『残念イケメン教授が、乙女ゲームの中でいろいろやらかしてます』を語る
今回は木野二九さん作
『残念イケメン教授が、乙女ゲームの中でいろいろやらかしてます』
作品URL https://ncode.syosetu.com/n8313ei/ の紹介です。
夢の図書館 クロスベル主任の事務室 ────
今回も前回と同じ……じゃない!
いったい、誰? 私の許可なく、こんなところにホワイトボードを持ち込んだのはっ?
「えっと……このホワイトボードは?」
「わたくしが、取り寄せましたわ!」
声がした方を見ると、マルちゃんが腰に手を当て胸を張ったポーズで、得意気な顔をしていた。
「それより、今回はこの作品ですわっ!」
彼女はホワイトボードの粉受けからマジックを取ると、キャップを抜いてボードに走らせる。
書き終わった後、注目を促すようにバンッとボードを叩いた。
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タイトル:
残念イケメン教授が、乙女ゲームの中でいろいろやらかしてます
作 者:木野二九
ジャンル:VRゲーム〔SF〕
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「あら、今日はマルちゃんが司会をやってくれるの?」
「ペ……クロスベル主任が、ど……どうしてもと言うなら、やってあげてもよくってよっ?」
マルちゃんはチラチラと、こちらの顔を見ている。
この感じは……たぶん、やりたいんだろうな。
「じゃお願いしようかな?」
「ホント!? あっ……任せなさいっ!」
多少不安はあるけど、今日はマルちゃんに任せることにしよう。それより……この物語は課題のものと違うわね。
私はテーブルに置かれていた本を拾い上げて、ベルとクリムの二人に表紙を見せる。
「今日はこの物語をやろうと思うのだけど、二人は読んだ事あるかしら? 私は読んだことあるから大丈夫だけど、もし読んだ事がなければ……」
「僕たちも大丈夫です!」
「前回の終わりに、マル様主任が『この本をオススメしますわ!』と言って渡してくれたので……」
なるほど、すでに手配済みという事か……意外とマルちゃんも抜け目無いわね。
私がそんなことを考えながらチラッとマルちゃんの顔を見てみると、ドヤ顔でこちらを見ていた。
「私が読んだ事なかったら、どうするつもりだったの?」
「大丈夫! ペケちゃんの読書歴は把握してますわっ!」
「え?」
なにか聞き流してはいけない事を、言われた気がするのだけど……。
◇◇◆◇◇
「さて、それでは概要説明から……いきますわっ!」
「はーい!」
ベルとクリムの二人は元気良く返事をしている。
「この物語は、わたくしの主のお気に入り! すなわち、可愛らしい『悪役令嬢』がメインに登場する物語になりますわっ」
私はマルちゃんの主を思い浮かべながら、苦笑いを浮かべる。
「確かに、章のタイトルに『悪役令嬢』って入っているわね」
「タイトルが、わかりやすいのはいいことですわ!」
なぜか得意気に胸を張るマルちゃんは、特に気にせずに話を進めるようだ。
「タイトルでわかる通り、天才イケメンというハイスペックだけど、色々と残念な大学教授が、とある機関からVR対応の乙女ゲームの調査を頼まれる事から、物語は始まりますわ」「だからジャンルがVRなんですね?」
「クリムは乙女ゲームも大好きです」
ベルとクリムの返事に、マルちゃんは頷くとさらに話を進める。
「その教授は、可愛らしい『悪役令嬢』に悪魔召喚されて、その世界へ来ることになるの
「……可愛らしいは、省略の方向で」
先ほどから自己投影しているのか、『悪役令嬢』に『可愛らしい』という形容詞を、さり気なく入れているので釘を刺しておいた。
「うっ」
マルちゃんは話の腰を折られて言葉に詰まるが、すぐに気を取り直して。
「とにかく『悪役令嬢』は、乙女ゲームの主人公に窮地に追い込まれていたのですわ。あんな素朴な村娘系のヒロインごときが、美貌も財力も兼ね揃える令嬢に勝てるとかおかしいと思いませんっ!?」
「マルちゃん、『悪役令嬢』に感情移入しすぎだよ。様式美! 様式美だよ!」
そう、乙女ゲーで『悪役令嬢』が追い込まれるのは、様式美なのである。そこを深く追求してはいけないのだ。
彼女は、ごほんっと咳払いをした。
「その教授が、ピンチの『悪役令嬢』のために色々やってくれるという話よ」
◇◇◆◇◇
「それじゃ、貴女たちが良かったと思う点を上げて頂戴!」
マルちゃんの質問に、ベルが立ち上がりボクシングの構えで左右に揺れながらパンチを繰り出している。
「ぽっちゃりになってしまった『悪役令嬢』がダイエットのために、ボクシングをするシーンが共感できました!」
「わかりますわ! わたくしも体型の維持には気をつけていますの。ボクササイズも始めようかしら? こんな感じで……」
マルちゃんは、あんな性格だけど結構な努力家だ。背はそれほど高くないけどスタイルは良いし、それを維持するために運動を欠かさないのも知っている。
「いいですね! その時は、僕もお供しますよ」
なぜか意気投合している二人に対して、なぜかムスッとした顔のクリムがボソッと。
「……クリム、食べても太らないけど」
クリムが、発した一言で場が凍りついたのが感じた。
頑張ってダイエットしてる人に対して、『食べても太らない』は禁句なのだけど……。
食べたら、全体的にマルくなるマルちゃん……。
食べたら、ある一部分ばかり成長するベル……。
食べても、一切成長しないクリム……。
どれがいいのかな?
そんな事を考えながら、私は凍りついた場を崩すように会話を進めることにした。
「えっと……私は、全体的にコメディ調だったのが、読んでいて楽しかったかな?」
その言葉にマルちゃんが、ハッ! っと気を取り直して動き出した。
「そ……そうですわね。主が、パロディが多くて良かったと言ってましたわ」
ベルが首を傾げながら、マルちゃんに尋ねる。
「どの辺りがパロディなんですかね? 僕はよくわからなかったなぁ」
「『虎だ 虎になるんだ』とか『クロスカウンター』云々がそうみたいですわね。わたくしも、主に聞いただけで、よくわかりませんけど……」
ベルとマルちゃんが二人で首を捻っていると、今度はクリムが口を開く。
「それより、歳の差カップルって素敵ですよね~」
「教授と令嬢? う~ん、あれはカップルなのかな?」
改めて物語を思い出してみると、セクハラを受けているお嬢様のイメージしかわかなかったので、私は苦笑いを浮かべた。
「そこは今後に期待ですよ!」
「確かに、まだまだ謎は多いみたいだし、謎の機関やリアルとVRとのつながり、教授の助手とか? 今後どう展開していくのか、私も楽しみだわ」
◇◇◆◇◇
しばらく時が経ち、私が時計の方を見ていると、それに気が付いたマルちゃんが
「さて、そろそろまとめますわ!」
と言って、ホワイトボードに箇条書きで書き上げていく。
「この作品の魅力的なポイントは……」
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・悪役令嬢が出てくる(ひときわ大きな文字で)
・ラブコメで読みやすい
・フェチ好きな男キャラが多数でてきて面白い
・色々な作品のパロディがクスッと笑える
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「こんな感じじゃないかしら?」
「前回と違った作風で参考になりました」
ベルがそう言うと、クリムもウンウンと頷いている。
「そうね。たまには違う視点の作品に触れるのは良いことだと思う」
「はいっ!」
少しずつでも成長してくれるといいのだけど……。
私の不安は拭えなかったが、三回目の勉強会はこうして幕を閉じた。
皆、それぞれ仕事や部屋に戻ろうと動き出す。
私は、帰ろうとするマルちゃんの肩をガシッと捕まえて、とびっきりの笑顔を向けてから告げる。
「ホワイトボードは、持って帰ってね?」