第1話 『西方辺境戦記』を語る
今回は金時草さんの『西方辺境戦記 ~光翼の騎士~ 』
作品URL:https://ncode.syosetu.com/n0587eg/ の紹介です。
夢の図書館 クロスベル主任の事務室 ────
背の低い応接用のテーブルを囲んで私の隣にマルちゃん、向かい側にベルとクリムが、それぞれソファーに腰をかけている。
テーブルには、クリムが用意してくれた紅茶とクッキーが置かれており、議事録用にメモ用紙と万年筆も用意してあった。
「さて、それでは勉強会を始めましょうか? 今回題材にするのは、こちらの物語よ」
私は、テーブルに一冊の本を置いた。
──────────────────────
タイトル:西方辺境戦記
作 者:金時草
ジャンル:ファンタジー
──────────────────────
「この物語は、主がとても気に入っている作品の一つよ。みんな、予め読んできたと思うけど、念のために最初におさらいしてから、意見を出し合う感じで進めましょう」
三人が頷くのを確認してから、私は物語の概要を話し始める。
「この物語は、正統派の西洋風ファンタジーで、開拓村の少年たちが騎士に憧れ、様々な困難や事件を越えて成長していき、騎士を目指していくのが大筋となっているわ。物語中には騎士だけでなく、貴族や村人など色々な身分の人々が出てくるので、その複雑な人間模様も見所ね」
私の概要説明が終わると、クリムが小さく手を上げる。
「主が気に入ったのは、やっぱりファンタジーだったからですか?」
「そうね。主はファンタジーが好きだから、ジャンルはとても重要な要素だわ」
彼女は正解だったのが嬉しかったのか、笑顔になって喜んでいる。
「アンタたちの主って、本当にファンタジー好きよねぇ」
マルちゃんに呆れ顔でそんな事を言われたので、私はちょっとだけムッとする。それに彼女の主だって、ツンデレと令嬢モノをこよなく愛している変わり者だったはずだ。
しかし、そんな事を言っても意味はないので、私はそのまま話を続けることにした。
「ファンタジーと言っても色々あるけど、この作品はかなり正統派で、剣や魔法などが出てくる王道ファンタジーになるわね」
「この図書館では、珍しいタイプですよね?」
「ええ、この図書館は異世界モノと呼ばれる作品が多いけど、この作品は少し硬派な感じかな。昔ながらと言うか……」
ベルが勢いよく手を上げながら、ソファーから立ち上がる。
「はい、はーい! 僕は主人公たちが、頑張って成長していくところが格好良かったです!」
私は物語の少年たちをイメージしながら、彼女の意見を肯定するように頷き。
「確かに、彼らは『訓練馬鹿』と言われるほど、強くなる事に対して努力を惜しまない。そこが愛おしいのかもね」
「主人公の成長……まさに王道ですわね」
マルちゃんが何故か満足気に頷いている。ベルが、そのまま興奮気味に身を乗り出して、剣を腰から抜いて剣を掲げるポーズを取りながら
「それに戦闘シーンがいいですよ! 巨大なモンスターと戦うところや、人間同士の戦いもいいし、戦場での集団戦の描写も臨場感があって燃えました! 僕的には、やっぱり騎士たちが格好いいです!」
「クリムは、騎士ならやっぱり女騎士の隊長さんがいいと思うな~。主任と同じように出来る女って感じで素敵です!」
目を輝かせているクリムの意見に、ベルが肯定するように続ける。
「確かに、主任が騎士の鎧なんか着たら格好いいだろうな~、こんな感じで!」
二人が想像してキャーキャーと騒ぎはじめたので、私はパンパンっと手を叩いて意識をこちらに向けさせる。
「はいはい、期待してくれているところ悪いけど、私が騎士の鎧なんて着たらまともに動けないわよ。さぁ話を戻して、他に良かったところはなかったかしら?」
「はーい。それじゃ……クリムは、騎士たちのロマンスが素敵だな~と思いました」
今度は、クリムが目を輝かせながら語り始める。
「身分違いの二人が徐々に、でも確かに進展していく……幾多の困難を越えた結果。その姿に女の子なら憧れて当然です!」
クリムが熱く語る中、隣で何故か顔を真っ赤にしたベルが俯いている。その事に気が付いたクリムが、意地悪そうな顔で彼女の耳元でささやく。
「あー……ベルちゃん、そういうの苦手だものね~。どのシーンを思い出したの? やらしいな~」
「うわぁぁぁぁ!」
ベルは叫びながらソファーから飛び跳ねるように立ち上がると、私の後ろに回り込んでソファーの陰に隠れてしまった。ベルはその手の話が苦手のようだ。アレぐらいは物語のスパイスなのだけど……。
「二人とも程々にね……。それでマルちゃんはどうかしら?」
私が隣を見ると彼女はパァッと明るい顔になった。どうやら、出番が来たことが嬉しいらしい。
「そ……そうね、わたくしの意見としては……」
少し考えてから急に真顔でつぶやいた。
「主人公が地味ね」
考えた結果が、それ!? 確かに、この物語の主人公であるユーリー君はあまり華やかさがあるタイプではないけど、最近は結構活躍しているんだけどな……。
私は念のためにフォローを入れておくことにした。
「序盤でも主人公は要所要所でちゃんと活躍してるけど、そう見えるのはサポート役にまわる事が多いからかな? でも成長した後は、数々の強敵を撃破したりしてるし地味って程ではないと思うな」
私のフォローに、クリムは首を傾げながらも
「確かに活躍をし始めましたけど、この図書館にある物語の主人公たちは物語中で飛びぬけて強いケースが多いですから、そういうのに見慣れちゃうと少し物足りないと考える人もいるのかもしれませんね~。クリムは主人公のロマンスが、もっとあれば目立つと思いますっ!」
「あー……序盤の主人公の周りには、色気も何もなかったですわね。途中まで女の子に興味がないのかと思ってしまいましたわ」
マルちゃんが呆れたような顔でそう言うと、クリムは顔を少し紅潮させると
「クリム的には、それでもいいですよ? 少年達の友情……素敵です」
真顔で何を言っているのよ、この子たちは? それにしても今日は、クリムがよく喋るわね。いつもは物静かなのだけど……興味がある事には止まらないタイプなのかしら?
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて……その手の話は一切物語になかったでしょ? ちゃんと可愛らしいヒロインも現れた事だし、きっと大丈夫よ。」
私は興奮するクリムを宥めつつ、喉が渇いたので紅茶を一口飲む。
恋愛話から話を変えようと思ったのか、私の後ろに隠れていたベルがいきなり話しかけてきた。
「そんな話は、もういいじゃないですか! 主任は、どこが良かったんですか?」
「私? そうね、私は世界観が良かったかな?」
「世界観ですか?」
「主人公たちだけじゃなくて、そこに住んでいる村人や動物たちの生活感というのかな? それに歴史や国家間の軋轢とかそういったものまで、しっかり考えて作りこまれてる感じが好感が持てたわ」
紅茶を片手にマルちゃんがこちらを向いて
「相変わらず、ペケちゃ……クロスベル主任は、変なところを見ていますわね」
「そうかしら? 物語のディテールは重要だと思うけど……それに個性的なキャラクターも良かったわね」
「確かに格好いいキャラが多いですよね!」
その後もしばらく物語談義は進み、気が付いた時には結構な時間が経過していた。
◇◇◆◇◇
「あら、いい時間ね。そろそろまとめましょうか?」
「は~い」
ベルとクリムの二人は元気良く返事をする。
「この作品のポイントは……」
私は、万年筆を持つとメモに箇条書きで書き上げていく。
────────────────────
・王道西洋ファンタジー(剣と魔法の世界)
・よく考え込まれた世界観
・圧倒的な描写で描かれる戦闘シーン
・魅力的なキャラクターたち
・恋愛も含めた人間ドラマ
────────────────────
「こんな感じかな?」
書かれたメモを覗き込みながら、うんうんと頷くベルとクリムの二人に、私は笑顔でメモを差し出した。
「それじゃ、二人ともその辺りを考慮して、新しい物語を探してきてね」
「わかりました!」
元気良く返事をしてメモを受け取ると部屋から飛び出していく。二人を見送った後、横を見てみると紅茶を飲む振りをしながら、チラチラとこちらを見てくるマルちゃんと目が合った。私は首を傾げながら
「マルちゃん、どうしたの?」
「つ……次は、い……いつやるのかしら?」
どうやら、次も参加したいみたいね。
「次やることがあったら、ちゃんとマルちゃんにも連絡するから安心して」
「ホント!? あっ、ど……どうしてもって言うなら仕方ないわね。次も参加してあげますわ!」
その様子に私は笑いながら、テーブルのティーセットを片付けはじめる。こうして私たちは、初めての勉強会を終えたのだった。