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プロローグ

 夢の図書館────

 様々な物語が、蔵書として無限に増え続ける図書館。


 私の名前は、クリスティーナ・クロスベル。

 

 愛称は、ペケ。

 残念ながら、最近はあまり呼ばれなくなってしまったけど、(あるじ)が付けてくれた、お気に入りの名前。


 ここは夢の図書館にある一室で、私の職場になる。

 私の執務用の机があり、その前には背の低い応接用のテーブルを挟んで、三人掛けのソファーが2脚、入り口のドア側と、執務机の後ろにある大きな窓を除けば、ほとんどが書架に囲まれている。観葉植物やティーセットが入った食器棚、簡易キッチンなどもあり、それほど大きくはないけど比較的快適な空間だと思う。


 主任に昇進した時、(あるじ)から、この部屋を与えられたのだ。

 かつては私もこの図書館中を駆け回り、(あるじ)が気に入る物語を探し回っていたが、今の仕事は新人たちが届けてくれる物語の選別。つまり届けられた物語から、(あるじ)が気に入る物語を探すのが仕事になっていた。


 そんな私にも最近少し悩み事があった。

 主任になった時に可愛らしい部下が二人出来たのだけど、その子たちが持ってくる物語のジャンルが偏っているのだ。


 私が整然と並べられている書架を眺めながら、そんな事を考えているとガチャっという音と共に黒い制服の少女が二人入ってきた。


「主任~!」

「ベルちゃん、ノックしないと怒られるよ~」


 元気のよく入ってきた赤いショートカットの子はベルリーナといい、ベルはその愛称だ。その元気な声の通りに、とても活発な子で戦闘描写やアクションシーンがある物語が好きな子だ。逆にちょっとでも性を思わせるシーンが入ると、顔を真っ赤にしてしまう可愛らしい一面もある。

 

 ベルに引っ張られるように入ってきた青髪を後で小さく纏めたポーニーテールの子はクリムという名前だ。ベルに比べて大人しい性格で、恋愛小説が好きなようだ。持ってくる物語の傾向から、どうやらカップリングの対象は性別・種族は問わないらしい。


 私はベルに頭に軽くチョップを当てると

 

「こらっ、入室時はノックしなさいと言っているでしょ?」

「はぁ~い! ……それより、これはどうですか?」


 ベルは叱られてもめげずに持ってきた本を差し出してくる。


「それに『魔法の栞』を使い方も教えたでしょ?」


 『魔法の栞』とは、繋がりを記憶した栞で本に挟むと、その本の物語を複製して、指定した書架に転送される魔道具だ。この子たちの栞は、この部屋の書架と繋がっているので、わざわざ持って来る必要はないのだけど……。


 私は受け取った本をペラペラと捲り内容を確認する。残念ながら、この本も(あるじ)の趣味には合わない内容だった。キラキラとした目をしながら返事を待っていた彼女に本を返す。


「う~ん、もう少し違う感じの物語がいいと思うわ」

「そっか~……正直(あるじ)の趣味って、よくわからないんですよね~」

「それなら……」


 私は書架から、以前(あるじ)が気に入った物語を数冊引き抜き、彼女たちに渡した。


「この辺りがお気に入りだから、読んで傾向分析してみるといいかな?」

「分析か~あたし苦手なんだよなぁ~」


 確かに新人が分析するのは、大変かもしれないと思った私は


「それじゃ、みんなで勉強会をやりましょうか?」

「勉強会ですか?」


 今度はクリムが首を傾げながら聞いてくる。


「実際に気に入ってくれた物語をみんなで読んで、どんなポイントが良かったのか、そんな分析をするのよ」

「主任とお話できるんですか!? それ、いいです! やりましょう!」


 私は二人の勢いに押され、数歩下がりながら


「そ……それじゃ、一週間後にこの部屋でやりましょうか? 貴女たちも、さっき渡した本を読んでおいてね。その本から始めましょう」

「はぁ~い」


 二人が元気よく返事した瞬間、再びバーンとドアが開き一人の少女が入ってきた。金髪のツインテールを左右に振りながら歩く、その姿は……


「あ~……二人とも、あれが夢の図書館でも人気ジャンル『悪役令嬢』というものよ、覚えておいてね」

「誰が、悪役なのよっ!」


 その少女の抗議に、私はため息をつきつつ。


「それでマルちゃん、今日は何しに来たの?」


 この子の名前は、カタリナ・クライス。

 マルちゃんは私が付けた愛称で、今では部下にも「マル様」と呼ばれているらしい……。

 仕えている(あるじ)は違うけど、役職は私と同じく主任。

 私の同期で前から何かと突っかかってくる。……と言っても、別に仲が悪いわけではない。


「ペケちゃ……主任同士の、おは……じょ……情報交換に来たのよ!」

「情報交換?」

「そ……その勉強会! わたくしも参加して差し上げてもよくってよっ」


挿絵(By みてみん)


 聞いていたのか……。


 つまり、この頬に手を当てて威張ってる姿がとても絵になる彼女は、典型的なツンデレさんなのである。


「別に構わないけど、それじゃマルちゃんも読んで来てね?」

「えっ、いいの? ありがとう、ペケちゃん! あっ……ごほん……わかったわ、クロスベル主任」


 別に言い直さなくてもいいと思うのだけど……。

 

「え~ごほん! ……では、一週間後に勉強会を開催するので、それぞれ課題の本を読んでおいてね」

「はぁ~い」


 こうして私たちは、物語の勉強会を始めることにしたのだった。

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