始まり
プロローグ
真っ白の壁紙に一つだけの窓。約十二畳ぐらいの牢獄に、テレビや冷蔵庫があるだけだ。僕は医者には嫌だと言ったが緊急入院という逮捕状を出され病室に収容された。だから、ここは病院の病室に自分はいるではなく、刑務所の牢獄にいる自分の方が正しい。本当にそう本気で思って無理矢理収容させた医者を恨んでいると言うと嘘になってしまう。何度も再入院を繰り返し、もう疲れたのだ。もうガンは治らないんだと言ってくれるとこっちも寂しいが心の準備が整う。だが、看守たちは、注射だとかレントゲンだと言って聞かない。どうせ治療費が欲しいだけだ。どうせ治らないのに。ベットのシーツは気が付けば整った白紙からクシャクシャの雑紙のようになっていた。彼らは金が欲しいだけなんだ。そう言い聞かせていた。それしか自分の拠り所がなかった。その医者に対する疑心暗鬼が日に日に増していくにつれ一分ずつ、医者は僕が死ぬ前に金を剥ぎ取ろうとしていると考え始めた。その日から手の震えが日に増していった。しかしこの日を境にベットのシーツは白紙のままであった。
僕はあることにきずいた。窓からの日の光を見ると安心する気がした。いつもの手の震えが止まる気がした。手首にある赤い線を増やそうと考えなくなった気がした。吐き気もしなくなった気がした。日の光を見ると死への絶望が和らぐ気がした。全ての心配を忘れさせてくれる気がした。死が怖くない気がした。死は快楽である気がした。死が迎えに来てくれる気がした。死は、死は、死は。死への絶望を全て日の光が包み込み、温め、心を解放してくれた。死の恐怖が日の光によって死への歓迎に変わり、死を崇拝し、この身を死へ捧げる考え方に日の光は変えた。「死よ死よ聞こえますか。自分を死に神託する準備は出来ました。畏れながら死は何者ですか?」
手の震えではなく右手からだんだん力が抜けるのがはっきりとわかった。左手、左足、右足と力が入らない。日の光がより輝いている。「あぁ死よ…ありがとうございます。わたしは死に近いところに行きます。死よ希望をあり…」口にまで力が入らない。その瞬間僕は初めて安心して眠ることが出来た。
序章 初期症状
「えー一部の分野で問題を解決する上で問題の発見や命題の整理をするため、さまざまな思考を研究する。このことを哲学と言う。」
だだっぴろい講義室の黒板に立っている僕。そして大学生、いやカカシはやる気がなさそうにこっちを見ている。それらはとても個性があって金髪やロングといった個性を持っている。あーなにをいっているんだ。講義中だそ。集中集中。僕もカカシにはなりたくはないし。まー哲学の最初の方はおもしろくはないだろう。僕のときも最初の講義はサボってたし...結局カカシじゃないか。自問自答をしている間に21600秒の講義を終えた。長くて短い二時間の講義。でも今日は午前中には帰れる。アパートの階段を一段一段上がるたび心が踊る。昼間からビールも飲める。ps4の新しいソフト「battle place 1」もできる。至福のシリアスタイムに浸りながら鍵を開け、ビールが入っている冷蔵庫を開けると突然携帯が目覚まし時計のようになりだし、それを朝起きる時と同じようにとった。「お留守番サービスに接続します。合図の音がなりなしたら……」「おい、お前だろ。今日は患者に聞くんだろ。死に際の気持ち。」すっかりわすれていた。大学での自分の研究を忘れるほど浮かれていたことと玄関から冷蔵庫まで靴のままでいたことがわかった。「わかったよ。今から行く。決して忘れていたわけではないぞ。」「見え見えの嘘つくなって。病院のホールで待ってるよ白馬の王子が。」「お前を見たら本当に眠りから覚めないって。」電話の相手は軽く笑い「待ってるぞ。」あ...切りやがった。せっかくいつつけたかわからないps4の電源を落とした。また出かける準備をし、ドアノブに手をかけたとき胃をナイフで刺された痛みが走った。本当に刺されたと思い、反射的に目をつぶった。恐る恐る腹を見ると何回か着たよれよれのワイシャツがあるだけだ。…気のせいか。手にかけてあったドアノブを回した。だか、ドアが開く音は生気のない音であり、まるでドアと言う体の一部のどこかが悪い予兆であるかのようだった。