第五話 虜囚
罠に落ちたピック。
これからどうなるのか・・・。
・まずは今回の登場人物の紹介だったりする。
◎ロデリック2世(16才、♂)
国王の息子にして騎士である。人一倍優れた直感の持ち主。
外見はあまりぱっとしないように見えるが、右目の下から左の頬まで
一直線に深い傷が走っており、凄味を見せている。
もともと性格は血気盛んで先走りやすいのだが、ひとつのことに執着
しないことから飽きっぽい性格といえる。
第五話 虜囚
「・・・ん、ここは・・・うっ!」
ピックは、気が付くと周りを見回してみた。そして、起き上がろうとした
とき、体が何かに固定されて動けなくなっていた。手足には鉄の枷がはめら
れており、ピックは衣服以外の装備を取り上げられていた。
しかもピックは怪我をしているが、手当てはされなかったようだ。体中の
傷がずきずきと痛んだ。特に、グレッツから受けた傷はひどかったようだ。
ピックの視界が効く範囲で周りを見回してみると、そこはどうやら牢屋か
何かの部屋のようで、床は石畳になっており部屋の隅に何かの道具らしいも
のが並べられている。部屋自体は松明がかかっていて、あまり明るくなかっ
たが、見えないくらいに暗くはなかった。
この部屋にはピックの装備はなさそうだった。
「くそっ・・・せめて動ければ・・・」
手足を動かそうと試みるが、枷はしっかりと固定されていて動かない。逆
に下手をすれば血が止まってしまいそうなくらいに絞めてあり、感覚がなく
なりつつある。
その時不意に部屋の扉が開いて数人の人が入ってきた。部屋の入り口付近
は暗がりであまりよく見えないが、足音や話し声で4、5人だとピックは判
断した。
「ここにいるのが実験体3号です」
どうやらピックのことを言っているらしかった。
「おまえ達には苦労をかけたな、もう戻ってもいいぞ」
どうやら今のが隊長だろう。部下に対して言葉をかけている。
「それでは失礼します」
部下の1人と思われる人物がそう言うと、がちゃがちゃという鎧の音をた
てながら部屋から出ていったようだ。
隊長と思われる人物が、部屋のなかに入ってくる。
「おお、もう気が付いているようだな。調子はどうだね?」
ピックは、その人物を見たとたんに驚愕していた。
「これは何の真似だ?大体、どうしておまえがこんな所にいるんだ?」
「こんな所だと、おまえはここがどこだか分かっているのか?」
その人物、ロデリックは蔑んだ目でピックを見ていた。
ロデリック、この人物はカルミール王国の王子であり、したがってあのラ
イデルク11世の子供なのである。
ピックはロデリックのことをよく知っており、というのもピックがロデリ
ックの武術の先生であったからである。
しかしピックは、この時点でロデリックがいつもの彼でないことを察知し
ていた。まず目付きが違っていた。
ロデリックは、こんなに人を見下したような態度を取ることはなく、いつ
も澄んだ瞳をしていたはずだ、そうピックは思った。
「どうやら知らないようだな、だったら教えてやるよ。ここはな、ミンテス
の王城にある地下牢だよ、くくくっ」
ロデリックの言葉に嫌悪感を感じながら、ピックは考えを巡らせていた。
「どうした、俺の言ったことがそんなにショックだったか?まぁ無理もない
な、かつておまえはここで王のために国を守っていたのだからな」
ピックは黙ったまま何も答えようとはしなかった。まるでロデリックの言
ったことの意味を推し量ろうとするかのように・・・。
「まあすぐに楽にしてやるさ。その前にちょっと聞きたいことがあるんだが
・・・」
ロデリックはくくくっと低く笑いの声を漏らしながら、
「盾はどこにある?」
と聞きつつ、部屋の隅に向かっていった。そこには先程ピックが見たこの
部屋の道具があった。おそらくはそれが拷問の道具だとピックは初めて気付
いた。
「盾だと?」
今度はピックが逆に聞き返す番であった。
「そうだよ、おまえは知っているはずだ。さあ、どこにあるのか言ってもら
おう」
「盾って言ったって、何の盾なんだよ?」
「おまえは“霧の盾”を知らないのか?いや、そんなはずはない」
ピックは霧の盾について聞いたことがあった。霧の盾とは伝説の武具でカ
ルミール王家に伝わる家宝だと聞く。その盾にどのような能力があるのかは
王家の者にしか分からないと言われている。
「そうか知らないのか、だったらもう用はない」
そう言いつつ、ロデリックは部屋の隅にあった道具を幾つか手にしていた。
「そんなことより、これから俺をどうしようというんだ?」
ピックが言った。
「それは、後の奴らに任せることにしているんでな」
ロデリックが不敵な笑みを浮かべる。
ピックは今、袋小路に追い詰められたネズミのような気分になっていた。
続く・・・
ちょっと間があいてしまいました。
とりあえずなんとか5話までこぎつけることが出来ました。