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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第八章:新たな国の霊峰へ
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第八十八話:成長の証と変わらないもの

 大会も終わり、サニィの力が知られたことで、彼女の教えを受けたいと言う人が殺到した。

 それは嬉しいことではあるのだが、二人はそろそろ出発しなければならなかった。彼らにとっては既に、旅そのものが生きる目的の一つになっている。特に理由は無いけれど、出発しなければならない。そんな風に。


 その為サニィは己の研究成果を再び軽くまとめ、殆ど全てを叩き込んだルークと、資料を渡した研究所へと任せることにした。エレナは大会の後ルークと共に少しだけサニィから学び、周囲から羨ましがられていたが、彼女はそんなことは全く気に留めてなど居なかった。

 もしかしたら大物になるのはルークではなくエレナなのではないか。悪い意味で。そんな心配をしてしまうほど、エレナは自分の世界を持っていた。

 あれ以来、彼女はルークがサニィにデレる様な顔をしているとレインの幻影を自分の背後に出現させ威圧している。立派な角を生やしたそれは、本当にただの魔人だった。


 それはともかく、彼らは後に大魔法使いと呼ばれることになる。

 10年後の彼らの通り名は【天才ルーク】と【悪夢のエレナ】二人の関係性は変わらない様だ。

 彼らはエリー達と出会い、伝説のパーティと呼ばれる様になるのも、また別の話。

 その時一番苦労するのは、天才ながらも真面目なルークだと言うのも、また別の話。


 ――。


「さて、私達はこれで出発するね。魔法の鍛錬は心の鍛錬。ルー君もいつかはレインさんの威圧に勝てる様にならないとね。エレナちゃんもルー君を支えてあげてね」


 出発の時、エイミー達には先に挨拶を済ませ、その場に居たのは四人の師弟。

 サニィ達は呪いのことを二人には伝えていなかったが、ルークもエレナも、二人の旅を止められないことは分かっている様だった。


「先生! 僕、サニィ先生に出会えて良かったです。あの日、僕にかけてくれた元気になる魔法、いつかは僕も習得してみせます!」

「え? 元気になる魔法?」

「山で死にかけてた僕にかけてくれましたよね。元気になぁーれって。あれ、とても効きました。生きなきゃ。そう思いました。あんな魔法があるなんて、知りませんでした」

「ウ、ウン。アレはワタシの特別な魔法ダカラネー」


 相変わらずサニィは締まらない。そこがまたサニィの魅力でもあるのだが。

 レインはそんなサニィとルークを微笑ましく見守ると、エレナに語りかける。


「エレナ。元気になる魔法の正体を教えてやる。それはな。――」

「……なるほど。流石は聖女様。それはえっちなルー君が極めるのは無理ですね。ふふ」


 レインがエレナに何を教えたのか、それは二人のみぞ知ることだった。

 しかし、確実に言えることがあった。先にこの魔法を極めたのはエレナ。ルークが覚えたのは、随分と遅れてのこと。

 何せ、ルークの相手は随分と、図太いからだ。


――。


「レインさん」

「なんだ?」

「私達がやってきたことって、無駄じゃないんですね」

「勿論だ」

「私、町が滅ぼされて、オーガ達に、……このまま、早く命が終わらないかなって思ってました」

「……」

「でも、生きてみるものですね。まあ、死ねませんでしたけど」

「……」

「ありがとうございます」

「……そうだな、俺もお前には救われている」

「あはは、そうですか」

「お前が側に居るだけで、な」

「はは、もう。このままちゃんと側に居ますから。変な嫉妬とかしなくて良いですから」

「ありがたい。俺も、今は呪いにかかっているせいかな、お前が離れると考えただけで恐ろしい。あり得ないと分かっていてもな」

「そうですよ。あり得ないです。私達は二人で一つ、一緒の時に、死ぬんですから。私だって一人は怖いですもん」


 霊峰マナスルを出発して落ち着いた頃、二人はしみじみと想いを語る。


 サニィは思っていた。

 今まで色々なことがあった。呪いにかかるのがもっと早ければ、町も無事だったかもしれない。そんなことを思ったことも、一度や二度では足りない。

 自分が戦う覚悟さえあれば、町の被害は抑えられたかもしれない。そうも思った。

 結局のところ、今まで殆ど実感もなく、ただ強くなってきたけれど、ここに来て初めて小さな命を自分の手で救うことが出来たことが、とても嬉しいと思った。

 今までずっと出来なかったことが、ようやく出来た。それだけで、たった一人生き残ってしまった罪を、洗い流してくれるような、そんな気がしていた。

 隣には、そんな罪深い自分を必要だと言ってくれる人がいる。

 そうして改めて落ち着いて心の中を整理してみると、本当は最初からだった。

 ただ命を助けてくれただけではない。最初から、隣に居る人は、こんな罪深い自分を必要だと言ってくれていた。

 それで救われたのは、実は命だけではなかった。


(よくよく考えれば、私も最初っからレインさんのこと好きだったな)


 サニィの心は、出会いから300日を超えてようやく、それを認めた。


「ところでサニィ、このネーミングセンスはあり得ないだろう。なんだよ、『まよねーず』って。弓とマヨネーズになんの関係があるんだ?」

「んもうっ! レインさんは本当に分かってないですね。本当に分かってないです。もうっ! 私の感傷を返してくださいよ! 私の大切な思い出を汚さないで下さいよ! エリーちゃんの弓は白いじゃないですか!」

「……確かに魔王の腕の骨を使うとは聞いてるが……。と言うか何を興奮してるんだ? いや、それより『まよねーず』はないだろ。下ネタか?」


 まあ、こう言うあえて空気を読まない所は、嫌いなんだけれど。レイン本人に素直になれる日は、まだかかりそうだ。


 残り【1549日→1509日】 次の魔王出現まで【290日】

今回で文字数が『サノバボッチ』を上回り、最長となりました。

割と途中でどう書こうか迷ったりしたサノバボッチと違って勝手に手が動きます。残り時間だけで見ればまだ1/5も行ってないので、まだまだ続きますが、引き続きお楽しみ頂けると嬉しいです。

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