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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第八章:新たな国の霊峰へ
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第八十四話:世界の真実に気づく者

「さて、ルーク君。君はまず自分の限界を知らないといけない。今日は私が付いて行ってあげるから、君の力で行けるところまで行ってみようか」

「わかったよサニィ先生。お、お願いします」


 あの後、レインの思惑通り大樹は聖女が生やしたと話題になった。

 誰ひとりとして目撃者が居ないものの、その樹の美しさと神々しさから天変地異の類だとは思われず、かと言って人の仕業とは思われない。となれば、あれを行ったのは聖女しかいない。

 なんと言っても、その大樹が生えてから30分の間に山頂から麓にかけて噂の青い花が一本の道の様に出現したのだ。それは聖女の象徴の一つだった。聖女が通った所には青い花の道が咲き乱れる。

 隣の国から流れてきた噂だった。


 エイミーもあの後、少しの変化を見せた。

 彼女は目を覚ましてしばらくするとルークを心配した。

「体は大丈夫? 痺れとかない? あんな風に飛び出して行って、必死に探したんだよ?」

 そんな言葉をかけていた。

 

 一方ルークはそんな先生に向かって必死にお願いをした。

「僕はこのサニィ先生に教わりたい。少しだけでも良い。お願いします。何かが掴めそうなんです」

 そんな内容だった。


 二人は一度研究所に戻ると、しばらくしてサニィ達に会いに来た。

「この子をお願いします。迷惑をおかけするかもしれませんが、魔法の才能は一番です。こんな所でこの子を失うわけにはいけません。どうか、生きる術を教えてあげてください」

 想定外だった。手荒なことをしたし、サニィが聖女と知るやいなや暴走を始めたし、頭は硬いしで、二人共許可など下ろさないと思っていたのだ。

 しかし、彼女は実にすんなりとルークをサニィに預けてきた。


 その実、彼女の頭の中はこうだった。

 かの聖女様は夢の中、サニィさんの体を使って私に語りかけてくれた。最初に彼女が言った言葉はこうだ。

「迷惑などではありません。この子には才能があります。それを常識に当てはめて押さえつけていればこうなります。子どもを正しく躾けるのが大人の役割でしょう」

 それに自分は反抗して、山に連れて行かれた。その山で彼女に聖女である証拠を見せつけられた。

 それを見て盲信してしまった自分は下山後、彼女の代弁者たろうとまずは研究所の皆に熱弁を振るおうと考えていた。

 そんなことを考えていた矢先、聖女様は豹変した。まるで愚か者に罰を与える悪魔のように。

 押さえつけていればこうなります。子どもを正しく躾けるのが大人の役割でしょう。

 その言葉を、忘れていたのだ。

 目が覚めると、聖女の姿をした少女はこう微笑む。

「私は勇者レインと共に旅をしています。サニィと言います。あなたはとても優しい先生なのですね」

 あなたはとても優しい先生なのですね。そんな言葉をかけられたのは、初めてだった。

 今までは子どもたちの成長は大事だけれど、親御さんから預けられた命。成長よりも維持することが重要。そう考えていたのだ。その結果がルークの逃亡、そして事故。

 もちろん必死に探した。親御さんのため、ルークのため、学校のため、しかしなにより、自分の体面のため。

 それを、優しいのですねと言われるなどと、思ってもみなかった。

 そして少しばかり、信じてみることにしたのだ。子ども達を。子どもを救ってくれた聖女の様な女性を。

 確かに必死に探した、自分自身の心の一部を。


 先ずはルークの申し出、サニィに教わりたい。それを聞いてみることから始めてみよう。

 もちろん、預ける相手が彼女だからだ。これからは広い範囲で物事を見ていこう。

 奇跡は起こる。それと同時に、人の心は掌握出来なければ事故も起こる。

 それを認めていこう。

 

 そう、考えるようになっていた。


 ――。


 サニィはルークを連れて霊峰へと足を踏み入れる。

 今日はレインは付き添っていない。少しばかり、考えることがある。そう言い残して一人宿を取り、そこに篭っている。


「ふんふん、色々とルーク君のことが見えてきたよ。君は他のみんなよりもやっぱり魔法の使い方が上手いね。マナの流れが綺麗。でも、今日はまだ私にも君の限界が分からないから、一先ず教えるのは明日からね」

「……は、い」

「あ、ごめんごめん。集中してていいから」


 そんな感じで、二人は平和に修行をする。ルークの限界はかなり高かった。麓から1650m程まで。そこでサニィは下山を進言する。ここまで来られる者は現在いる修行者で1割程度。子どもは当然ながら皆無。

 山頂に向かうに連れてマナ濃度が高くなるということは、進むほどに出力の高い魔法を使わなければならないということ。体力や精神力があるだけでは不可能だ。

 尤も、サニィにとっては山頂すら大したことはないのだけれど。


 下山して、息を整えるとルークは口を開く。すごく悔しそうな顔をしながら。

 まるで認めたくないとでも言うように。


「サニィ、せんせ、なんで修行中にしゃべれるんですか? 魔法を使いながら、しかも、全然疲れてすら、ないし」

「ああ、それはね、私が少し特殊な魔法を使ってるから。明日から教えてあげる。魔法の基礎からね」

「基礎? 僕は他のみんなよりも魔法を使えてる自身あるけど……」

「ふむふむ、ちょっとこっちに来て」


 そう言いながら、サニィはルークを連れて人の居ない小道へとそれて行った。

 

「一番得意な魔法を使ってみて」


 小道を抜けて開けた場所に辿り着くと、サニィはルークにそんなことを言う。

 魔法の基礎と言う言葉を聞いて、流石に思い当たることがあったルークは言われた通りに魔法を使ってみた。

 水の魔法。空気中に漂う水蒸気から水を生み出す魔法。

 それで攻撃も出来れば、防御にも使える。サニィの得意なウォーターカッターはこれの応用だ。

 ルークは小型の杖を手に取ると、それを目の前に振りかざし、400L程の水を創り出す。

 10歳でこれはルーカス魔法学校であれば確実に特待生と言ったところだ。卒業時であれば主席も確実。

 それほどの水量だった。

 それをそのまま壁に見立てて地面に突き立てる。


「どう、ですか?」

「うんうん、凄いね。でも、私の魔法を見てて。ルーク君と全く同じマナ量で水を作るよ」


 ドバッ。水が溢れる。

 それは完全にサニィの想定すら超えていた。何も考えず、ただ単に、ルークに合わせただけだった。

 結果、辺り一面水浸し。

 サニィもルークも流され、二人は10m程離れたところで……。


「あはは、ルーク君のマナ量、かなり多いね」

「あっははは。先生、もう、めちゃくちゃだよ」


 笑い合っていた。

 

 「君もこれだけできるってこと、教えてあげる」


 ――。


 宿の中、一人青年は考えていた。

 薄々気付いていたことではある。

 しかし、それは今回のことで確信に変わった。

 それに気づいた理由はとてもシンプルなものだったけれど、今のレインはまだ知らない。

 世界でたった一人だけ気づいてしまった事実だった。


 ああ、やはりこれは【魔王の呪い】なのだな。罹ったものを【幸せ】にするためならば、人心すら操ってしまう【世界の呪い】


 残り【1558日→1549日】 次の魔王出現まで【320日】

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