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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第八章:新たな国の霊峰へ
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第八十二話:鬼畜王よりも危険な存在

 「ところでレインさん、連れて行くのは別に良いんですけど、今回はどんな変なことを思い付いたんですか? 割とこの山に入ってから方針が変わりがちな気がしますけど」

 「それは簡単だ。お前の修行は新しい魔法を開発したおかげで終わりさ。後はお前の望みを叶える」

 「と言うと?」

 「この地に聖女を根付かせる」

 「いや、全然望んでませんけど。何言ってるんですか?」

 

 翌朝、いつもの様に沸いた疑問をレインにぶつけると、レインはいつもの様に適当な答えを返してくる。

 いや、目的があることは分かっている。しかし、その答えはいつも端的で届かない。


 「お前、勿体無いと思っただろう。せっかくここの人達は才能があるのにそれを無駄にしてるって」

 「あ、はい。あ、そういうことですか。いや、でも恥ずかしいんですけど」

 

 最近は割とすぐに理解できるようになってきた。

 レインがやろうとしていることは、修行に更なる意味をもたらすと言うことだ。

 何の意味も持たず魔法を使い、何も考えずマナタンクの容量を増やす。

 ここの修行者の多くが陥っている停滞。

 皆が安全のみを考え、殆どの者が到達可能地点よりも遥かに手前で引き返している。

 もちろんそれが100%悪いとは言わない。死ねば終わりだ。

 それでも、そんな状況に嫌気が差して無理しすぎてしまう少年が居たという事実がある。


 「安全に配慮しすぎれば、特に自分の能力が見えていない子どもは限界が分からず怪我をする。今回はたまたま運良く助けられたが、俺達が呪いに罹っていなければ見つけられず死んでいただろう。自分の限界を知るということは大切なことだ」

 「そこで聖女が二人を連れて登頂成功したって話が効いてくるってことですか……」

 

 この霊峰にも聖女の名声は届いていて、イコンを道具にする変態まで出てきている。そんな時に聖女が登頂成功したと言えば、その影響力は絶大だ。偶然にも、サニィはルークに自分が聖女だと名乗っている。

 尤も、そう名乗ってしまったことすら呪いの影響なのかもしれないが。


 「偶然にも、この職員は聖女に憧れを抱いている。最初はただの証人のつもりだったが、そこも都合が良い」

 「それで拉致とか、悪魔の様な作戦ですね……」

 「俺は元から下僕悪魔かもしれないという噂が立っている。問題ない」


 一体何が問題ないのだろう。

 職員はレインの脇に抱えられ手足口を縛られもがいている。

 ルークには連れて行くと伝えておいたが、彼女は納得しておらず抵抗した為にこの様な結果になってしまった。

 遮音とステルスの魔法で誰にも気づかれずに拉致してきた、と言うわけだ。

 

 「ぶわっ! あなたたち! 一体何をしているのか分かってもががっ……」

 「大人しければ拘束を解いてやろうと思ったが仕方がない。一人で帰れなくなる位置までは拘束したまま連れて行こう」

 「お……鬼……」


 山の中腹程、流石に可哀想になったサニィがレインに頼むと一先ず猿轡を解いてみるが、うるさかったのでという理由でまた口を塞ぐ。全く、容赦と言う言葉を知らない男だ。

 とは言え、一人分多くマナや空気環境を整えることなどサニィにとっては最早朝飯前。

 有り得ない速度で山を登る二人に、全く酔わない現実。寒さすら感じはせず、積雪のある山中にも爽やかな風が吹いている。

 山を登るにつれて、職員は次第に大人しくなっていった。


 「はあ、もう、煮るなり焼くなり好きにしてください。あなたが凄い魔法使いだということは分かりましたから」

 

 山頂までもう少し、標高7000m程まで差し掛かった所でようやく完全に暴れるのを止めた職員を開放すると、彼女はそんなことを言った。


 「あ、あの、私サニィと言います。一応グレーズ王国のアオシスでデザートオークの群れと、王都でドラゴン殺しをしました。よろしくお願いします」

 

 そういえば、まだ名前すら知らない。

 そんな事実に今更気づいたサニィはぺこりと挨拶をする。

 

 「ドラゴン、は俄かには信じられませんが、確かにこんなにも簡単にここまで登れるということは、砂漠の聖女様はあなたで間違いない様ですね。私はマナスル魔法研究所のエイミーと申します。……そちらの悪魔は?」


 エイミーと名乗る職員は礼儀正しくサニィに挨拶をすると、次いでレインを睨みつける。


 「こちらの悪魔は死の山、狛の村出身の勇者レインです。ドラゴンを軽くあしらう化け物なので、抵抗するだけ意味が、ないんですよぉ……」


 サニィもがっくしと頭を垂れながらレインの紹介をする。


 「心中お察し致します。ルークを助けて頂いたこと”だけ”はこの悪魔にも感謝しておりますが。当然私も道具を持ってきておりますので、この悪魔に魔法で抵抗を試みたのですが、全てキャンセルされましたし……」

 「あ、あはは。まあ、鬼畜王とも言われていますから」


 二人で言いたい放題言うが、拉致は事実なのでレインも苦笑い以上の反応はできない。

 

 「ま、まあ、俺はどうでも良かろう。もう少しで山頂だ。さて、エイミー。一つ質問がある」

 「気安く名前を呼ばないでください」

 即答のエイミー。

 「……聖女の象徴といえばなんだ?」

 「金髪碧眼とバーチとルビーの杖、そして美しい開花の魔法です」

 即答のエイミー。

 

 サニィが目を丸くして「え、なんで答えてるの?」等と言っているが、その答えは簡単だった。

 彼女の道具は『聖女のイコン』。胸のポケットに入れられたそれが、即答の理由。

 サニィが気づいていて、あえて無視していたことだった。


 「麓の人達にも聖女が登頂完了したと分かる様にするには?」

 「山頂に美しい光と共に大樹を生やすのが良いかと思います」

 「お前の得意な魔法は?」

 「あなたに答える理由がありません」

 「山頂に大樹を生やして認可は取れるのか?」

 「命に替えても」

 「お前の好きな食べ物は?」

 「死んでも答えません」

 「実物の聖女と会った感想は?」 以下括弧内、読む必要なし。

 「死ぬほど感激しています。とても可愛らしく美しい。その金髪はとても輝いていて繊細、手入れも完璧です。とても良い匂いがするのは何故なのでしょうか。もっと近くで嗅ぎたいです。はい。そしてその碧眼はとても惹かれます。青い海の様な透き通ったその瞳で溺れてみたいものです。肌もとても綺麗で赤ちゃんの様にもちもち、真っ白で、ああ、舐め回したい。出来れば三日三晩に渡って舐め回したいです。でゅふ。ささやかなお胸もとても可愛らしく、私の無駄な贅肉が如何に無意味なものなのかと思い知らされます。私の持っているイコンも聖女様に似せて作っていますが、あくまで想像画、本物には遠く及びません。拘束もそこの悪魔ではなくて聖女様自らがやっていただけたのなら喜んでお受け致しましたのにとても残念です。是非帰り道では聖女様自らが引きずって行って下さると嬉しいです。ああんっ。この世に生まれてから28年間、魔法使いがオークの群れ500匹を森林開花の魔法一撃で倒すなど聞いたことがありませんでした。それはもちろんただの都市伝説的なことだと思っていましたが、火のない所に煙は立たないとも言います。と言うことは少なくともオーク250匹程度の群れなら倒したのではないかと思いまして。私、この年にして恥ずかしながら、憧れを抱いてしまったんですよぉ。なので直ぐにイコンを買って、あ、もちろん持ち運び出来る様に小型の物と、部屋に飾る物と、あとは布教用にいくつか、どれも一番可愛らしく描かれている物を選びました。結構な金額になってしまいましたが後悔はしていません。毎日添い寝させていただいています。ぐふ。何せ聖女様は魔法使いの可能性の象徴ですから。あ、言い忘れていましたが本当に美しい杖ですね。白樺で出来た柄に見事な彫刻が施されていて、ルビーの純度もとても高い。シンプルながら最高の杖の一つではないかと思います。もちろん金をかけただけの杖ならいくらでもありますが、それにはとても深い愛が込めてあります。今度それを参考にレプリカを作らせていただいてもイイですかね。うへへ。ここまで来る為の魔法も、本当に見事の一言でした。リッチなんかが出てきても完封ですし、マナ濃度どころか空気や気温の操作も完璧で、山を登っていると言うのにとても快適です。あ、もちろんこの悪魔に抱えられていたことだけは本当に屈辱ですが、聖女様のおかげで人類史上四番目、あ、いや、聖女様の後なので五番目と言うことになりますかね。山頂を拝めると言うことで、これはとてもとても光栄なことです。大樹の魔法、本当に楽しみにしていますねっ!」


 あ、こいつやばい。平静を装っていたが、本音はヤバいやつだ。やっぱり縛っておいて欲しい。

 サニィがそう思ったときには、既に山頂に大樹を生やすことが決まった後だった。

 ちなみにレインはエイミーの回答の途中で帰ろうとしていたので、環境整備の魔法を解除して拘束した。

オリヴィアとの差別化を図ろうとしたら何故かこんなことに……。

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