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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第八章:新たな国の霊峰へ
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第七十八話:霊峰と魔法使いの関係

 霊峰マナスル 標高8163m

 道中立ち寄った町で情報を調べてみると、世界で8番目に高い山だと言うこと。

 マナの濃度が異常に高く、魔法を使ったそばからマナが溢れる程に流入する。出現する魔物は倒れた者の魔法力に依存するアンデッドのリッチやスケルタルメイジのみ。

 非常に生活し難い山であり、そこで生活する者は魔法の修行者のみ。


「なるほど、この資料を見る限り確かに陽のマナ濃度が高い環境っぽいですね。天然の魔物が出ないって」

「陰のマナが自ら魔物を形作れる程はないと言うことか。しかし、非常に生活し難いと言うのが気になるな」

「魔物が殆ど居ないのに生活し難いって、死の山とは逆ですね。あっちはあり得ない村がありますけど」

「こっちは修行者しか入らない、か」


 そんな会話をしながら辿り着いてみると、その理由は明白だった。


「う、これはなんとも……、気持ち悪いな」

「レインさんでもですか……、本当に陽のマナ濃度が濃いですね、おぷ」


 陽のマナが人の細胞に混ざることで勇者や魔法使いが生まれる。そしてそれは魔法の元でもある。しかし、薬も飲み過ぎれば毒となるではないけれど、過剰な陽のマナを含んだ空気は、人を狂わせる。


 ―修行者への注意―

 霊峰マナスルは非常に濃度の高いマナに満ち溢れた聖域である。

 入山した者は必ず日帰りにすること。

 領域に踏み入れると最初は車酔いの様な症状が出るが、次第に酒に酔った様に呂律が回らなく、終いには幻覚や幻聴を見る様になる。幻覚の症状が現れるまでは平均して6時間、幻覚を見始めたら20分以内に領域を出なければ命の危険がある。

 軽減する為には出力の大きい魔法を放ち続け、少しでも周囲のマナ濃度を減らすこと。


 一度適当に入山して、30分ほどで住み難い理由を理解し下山した二人は、麓の村でその様なことが書いてある看板を見つける。


「うへぇ、これじゃ、確かにここで勇者を産むのは無理ですね」

「これを見る限り寝たら死ぬからな……。身重の妊婦に入山させるなどあり得ん。胎内の子どもも耐えきれんだろうな」

「私達にとってはこっちの方が死の山っぽい気が……」

「まあ、無茶をしなければ死なないだろうさ。とは言え、魔法を使えない者は入ることすら許されない領域か。面白いな」

 

 二人は一度入って覚えた感覚と、その注意書きから推測する。

 修業の効果も、蛇口を開きっぱなしにして出力向上を狙うことと、常にマナタンクに溢れんばかりにマナを入れ続けることで容量を拡大するのが目的、初めて入る者はこのラインから500mまで、等と書いてある為に生命維持には細心の注意が払われている様だ。

 尤も、二人は大抵の地形を関係なく進めるおかげか変な位置から入山した為に、この村の存在に気づいたのは下山してからだったのだが。


「さて、修行の目標が決まったな」

「あ、もしかして、登頂ですか?」

「ああ、俺とお前の二人で登頂だ。お前は二人分の周囲のマナ濃度を操作し続けるというわけだ」

「なるほど。私一人で行ってもし倒れた時にレインさんが運んでくれるというわけですか……」

「いや、二人で居るという約束をしただろう」


 レインはサニィの微妙に期待した目に対してきょとんと返事をする。

 本当にサニィの心配をしていたわけではないらしい。


「え、そんな理由なんですか?」

「ああ、ここでの修業はあえて無理をしない。お前が強くなる修行と同時に、魔法についてもう少し考える必要もあると思うんだが」


 レインはそう言いながら看板の修行の効果について書かれた一文を指し示す。


「……あ、もしかして、蛇口を開いて出力向上と書いてありますけど、私がオリヴィアから聞いた話がマナタンクが大きいってだけだと言うことですか?」

「まあ、お前が言い忘れていただけな――」

「いえ、ちゃんとオリヴィアに確認しました。この国の人達は出力は誤差程度な代わりにマナタンクが大きいと」


 サニィの魔法研究の一つ、道具は蛇口ではなく増幅器である。

 その研究は今だ途上にある。サニィはマナタンクを持っていない故に、それを自分自身の体では証明出来ない。王都で関わってきたのはあくまで戦闘に有利な騎士団とのものが中心で魔法使いとは殆ど触れ合えなかった。そこについての研究は滞っている。

 グレーズ王国に渡した分の研究資料にも、その部分は要検証としてある。


「ここでは修行中の魔法使いとも関わりを持ちながらそこについて研究しよう」

「そういうことなら了解です」

「お前なら登頂そのものは難しくないだろう。頂上に行くほど空気は減って気温も下がる。使う魔法の種類も増えるから簡単ではないと思うが、難しいわけでもなかろう」

「でも寝たら死にますよね」

「それは一日で登るか、寝ながらマナ操作する術を身につければ良い」

「……それって難しくないんですか?」


 やはりレインの感覚は少しおかしい。

 今更ながらそんなことを思ってしまうが、そろそろ不可能とは言えなくなっている自分も人外の領域にいるのだろう。サニィはようやくのこと、自分の能力の異常さを自覚し始めた。

 と言うのも、修行者達を見ると、その体内に溜め込んでいるマナは非常に少ない。自分が普段使っている魔法の一発分程度だ。そして、入山した者を見ると、サニィの魔法の百分の一程度の出力の魔法で十分の一程もマナを消費しているように感じる。

 それは誰もが、だ。もちろん差はあるが、その燃費が非常に悪い。

 

「ここに居るのは魔法使いだけ。ちょっと、面白いですね」


 久しぶりにルーカス魔法学校での出来事を思い出しながら、サニィは一歩、霊峰に足を踏み入れた。


 残り【1569日→1560日】 次の魔王出現まで【331日】

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