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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第八章:新たな国の霊峰へ
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第七十六話:世界と弟子と、ダサい名前

 レインは国の防衛でいくつかの違和感に気づいていた。

 一つ目は魔王の発言、二つ目はグレーズ王の発言、そして、三つ目はサニィの発言だ。

 サニィの発言に関してはその中でもいくつか気づいたことがある。

 更に自分自身の不可思議な特性。

 よくよく考えてみれば、魔王より強い者が魔王の呪いにかかるのかという疑問がある。

 しかし、レインは呪いに罹っている。その時点で、レインは魔王よりも弱いということが確定しているのではないか。


「なるほど、サニィ。俺はお前が世界を変えると言ってきただろう」

「そうですね。確かに魔法関連に関しては少しばかり変えられると、最近は思ってきました」

「ああ、俺もそのことに関しては確信していた。しかし、問題はむしろ俺の方だったのかもしれない」

「どういうことですか?」

「問題点さえクリアすれば、俺とお前は、世界を救うことになる」


 しかし、それが本質的に世界を救うことになるのかは分からない。

 人間を救うだけで、世界に対しては悪影響を及ぼす結果になるのかもしれない。

 それでも、これは恐らくすべきことだろう。

 魔王が生まれると言うこと、勇者レインとサニィが生まれると言うこと。

 それが共に世界の意思(・・・・・・・)であるのならば。


「まあ、まずお前がドラゴンに、俺が魔王に負けてちゃ話にならない」

「そうですね。私は後一歩でしたけど、レインさんはどの位でしたか?」

「同じ魔王になら恐らく互角。能力の差で俺の勝ちだろう。ただ、ほかの魔王は分からん。あれと同レベルで別の戦い方をしてくるのならば勝てない可能性も高い」

「あと1年、その間に確実に勝てる様になれないとですね」

「…………ああ。確実に勝たなければならない」


 王の発言の違和感。一つの言葉のその言い方。

 その他の違和感、そこから出せる結論は一つだった。

 

「サニィ、お前は必ず守る。だから側にいて欲しい」


 レインの真剣な眼差しをサニィは正面から受ける。

 オリヴィアとのやりとりで、自分は既に自覚しているはずだ。

 でも、それでもサニィはまだ狼狽えてしまった。


「な、なんですか突然。ま、まあ、同じ日に死んじゃうんですし、当然一緒にいますけど? まだ恩返しもしてないですし? 私だって世界を変えるつもりありますし? その為の一番の近道がレインさんと一緒にいることですし?」


 頬を染めてきょろきょろと目を泳がせながらそんなこと言う。

 王都の北、グリフォンが飛び交う巨大な山々の中、人間はレインとサニィの二人だけ。

 二人きりになってもまだ、サニィは素直になれなかった。


「ところでレインさん、エリーちゃんとオリヴィアはどっちが強くなりますかね」

「どっちもディエゴは軽く超える。才能はオリヴィアだが、より幼い頃から高みを目指しているのはエリー。どうなるかは俺も楽しみだ」

「あはは、そうですね。オリヴィアがディエゴさんを超えるのはいつくらいになるでしょう」

「実は既に超えてる。王女だから最前線に出てはいけない。そんな意識の差だけだな」

「それも弟が出来ることで解決しそうですね。エリーちゃんは師匠と居られた時間が短かったから、早く会えると嬉しいです。妹弟子が姉弟子に教えることになるってなんか不思議な感じもしますけど」

「エリーには面白い才能があった。飲み込みも早い。オリヴィアが変なことをしなければ互いに良いライバルになるだろうさ」

「オリヴィアなら大丈夫です。とても優しいですし、ちゃんとエリーちゃんの能力とレインさんがどんなことを教えてたか、伝えてありますから」

 

 二人は弟子について語り合う。

 その表情は最早カップルを超えて親の様だと、見ていた者が居たなら言っていただろう。

 その様子は、サニィがつい余計なことを言ってしまってレインの機嫌が悪くなるところまで同じだった。


「オリヴィアの『ささみ3号』も王家の宝剣だけあって、とても良い品ですからね。彼女ならドラゴン討――」

「まて。お前今なんて言った?」

「へ? オリヴィアならドラゴン討伐も夢じゃないって」

「いや、その前だ」


 そこで、はたと気づく。

 レインが気になったポイント、確かに余分なことを言ってしまった。


「……お、オリヴィアの持つ王家の宝剣も、とても良い品ですからネッ?」


 サニィは精一杯可愛らしく、上目遣いでそう答える。

 しかし、それで誤魔化せるレインではなかった。というより、誤魔化していること自体がバレバレだった。


「その名前は?」

「ま、まだ決まってません!」

「『ささみ3号』ってなんだ?」

「お、オリヴィアの持ってるひ、ひよこのぬいぐるみの名前です。わ、私が付けてあげました」

「……」


 レインは思う。

 こいつ、実は自分のネーミングセンスが悪いことを自覚しているのではないか、と。


「さて、一旦王都に戻るか。真相を確認しなくてはな。確かオリヴィアの部屋に招かれたとき、ひよこのぬいぐるみなどなかった気がしたが……」

「え、え? ちょっと待ってください! さ、先にすすすまないと。っというか、オリヴィアの部屋に入ったんですか? 確かにひよこのぬいぐるみはなかっ……」


 そこでふと気づく。レインの口元がにやりと笑ったことに。

 この男、ふっかけただけだ。本当はオリヴィアの部屋など入ったこともなければ、『ささみ3号』が何かも分かって言っている。


「お前の弱点は、言葉の揺さぶりに弱いところだな。まあ、どんなクソダサネームを付けていたとしても、オリヴィアが納得してるなら良いんだが……」

「た、確かにそこは弱いかも……。でも、オリヴィアは私のネーミングセンスを天才って言ってましたよ! さ、『ささみ3号』だって凄く喜んでましたし!」

「…………」

「……な、なんですか」

「……いや、流石は姉妹と言ったところだと思ってな。ところで、他には変な名前付けてないだろうな?」

「つ、つつ付けてませんよ?」

 

 しばらく秘密とはなんだったのか。あっさりとバレてしまったサニィは心の中でオリヴィアに謝罪する。

 それはともかく、レインはその日からしばらくサニィが何かを名付ける行為そのものを禁止した。

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