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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第七章:グレーズ王国の魔物事情と
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第七十五話:幕間の弐

 ドラゴンを討伐した翌日、サニィは休暇を貰っていた。とは言っても、ドラゴン戦の片付けを手伝おうとしたらレインに拒否されただけ。

「お前は死んだのだから、今日は休め」そんなことを言われたのだった。

 なので、ちょうど死んだ時に発見した魔法の新しい法則について研究することにしたのだった。

 触媒を消費して魔法を使う。それが出来るかどうか。

 しばらくそれを部屋の中で調べていると、ドアがノックされた。


「オリヴィアです。お姉さま、入ってもよろしいですか?」

「どうぞ」


 彼女は王女、ドラゴンの処理には流石に参加させてもらえず、サニィと同じく暇を持て余していた。

 透き通った真紅の髪に更に深い色の瞳、白磁の肌はまだ赤ちゃんの様にもっちりとしている。


「どうしたの?」

「あの、お姉さま。わたくし、その、お姉さまの秘密を知ってしまって、その、……」

「なんでも言っても良いんだよ。私はあなたの姉なんだから」

「は、はい。あの、ご相談と言うか、わたくしの秘密と言うわけではないですけど、少し、お話しようかと」

「うん、お姉ちゃんに言ってごらん」


 そうしてオリヴィアは、レインにも内緒にして欲しいと言って話し始めた。


「あ、あの。わたくしこの後修行して、強くなります。でも、オリヴィアって名乗ることも、姿を見せることも出来ませんわよね。なので、勇者としてのお名前、欲しいんです。でも、レイン様の弟子はオリヴィアなので、少し申し訳なくて」

「なるほど。でも、そんなことでレインさんは怒ったりしないから大丈夫。安心しなさい。ただ、勇者名は一緒に考えてあげるね」


 あろうことか、自分の愛用の杖に『フラワー2号』と名付けているサニィに相談してしまうオリヴィア。何故2号なのか、誰一人として分からない。


「やったあ! お姉さま大好き!」

「あはは、あ、ぴったりなの思いついたよ」


 喜び抱きつくオリヴィアを撫でながら、サニィは悪魔のネーミングセンスを発揮する。


「オリヴィアは凄い素早さと素直さ、そして必中、『サンダープリンセス』だね!」

「…………」


「クソダサいな」レインが居たら間違いなくこう即答していただろう。しかし、この場にレインはいない。

 

 オリヴィアは何も言わない。いや、言えなかった。

 そして数秒の沈黙の後、事件は起きる。


「……かっこいいですわ! 『サンダープリンセス』!! まだまだ雷の様な速さには足りませんけれど、その名に恥じない剣士となってみせます!! お姉さま!」

「あはは、良かった。レインさんったら私が名前付けようとするとすぐダサいダサいって言うんだけど、結局剣の名前も私が付けたんだよ?」


 オリヴィアが何も言えなかった理由は簡単だった。あまりにもかっこいいその名前に感動していたのだ。

流石、血は繋がっていないとは言え姉妹。

 壊滅的なセンスを共有していた。


「レイン様の剣はなんてお名前なんですか?」

「あの剣は『月光』って言うの。夜、月の明かりが反射した海の様な剣だからね。『心太』と迷ったんだけど、『心太』はダサいって言われて」

「確かに迷う二択ですわ……。でも、『心太』なんて可愛いお名前がダサいなんて、あんなレイン様でもネーミングセンスだけは少しよろしくないのかしら」


 散々な言い様である。『ところてん』と言う名前の絶対壊れない剣。それは最早意味不明だ。しかし、その辺り感覚だけで生きている二人には全く関係がなかった。


「あ、エリーちゃんは『ストームガール』ってのはどうかな。あの子は相手の心を読むから、少し特殊な戦い方を教えてたよ。撹乱する、みたいな」

「おお!! お姉さま天才ですわ!! 可愛い!! それ、もしお会いすることがあれば伝えておきますわね!!」


 可愛いは正義。それは女子にこそ適用される言葉なのかもしれない。


 ――。


「さて、お姉さま。次は今のよりももう少しまじめなお話です」

「うん」

「今、この国の王を継げる立場にあるのは、わたくししか居ないということは、知ってますよね?」

「もちろん。そこでレインさんを、と思ったけれど、って話だったんだよね」

「そうです。でも実は、仮に次代の王がレイン様になったとしても、その次が続かないのです」


 それは先ほどよりももう少し、どころではない話だった。


 オリヴィアは14歳。しかし、未だに初潮が来ていない。子どもを作れる体を持っていない。検査をしたところ、排卵機能が停止している。もしかしたら、その機能自体がないのかもしれない。

 そんな、内容だった。


 それを知った王達は、通常であればすぐに次の子どもを作るべき。国の為にも、血を絶やしてはならない。それが当然だった。

 しかし、優しい二人はそれをしなかったと言う。


 新たに子どもを作ってしまえば、オリヴィアが王女として役に立たないと言っている様なもの。いくら国の為にと考えても、二人にそれは出来なかった。

 もちろん、三人ともそうではないと理解している。

 しかし、勇者レインと一緒になりたい。ずっとそんなことを夢見て必死に修行を重ねていた娘を、子どもを作れないという理由だけで捨てる様なことなど、出来なかった。


「だから、あの時、レイン様がわたくしを泣かせた時、お父様は怒ったんです。

 お姉さまを側室って言ったのも、どさくさに紛れてわたくしの子どもと言うことにしちゃえば、と言う計画でもありました。

 そして、決闘であればわたくしが魔法使いになら絶対勝てると、お父様は思っていたみたいです。

 結果負けちゃいましたけど、お姉さまと姉妹の契りを交わせて本当に幸せですし、レイン様が諦めさせようとした理由も、今ならはっきり分かります。

 この後このグレーズ王国がどう進んで行くのかは分かりませんけれど、お二人に出会えて、本当に嬉しいんです。

 お姉さまもレイン様も愛しています」

「オリヴィア……」


 姉妹は抱き合った。

 この頃、既に王妃が子どもをその身に宿しているとも知らずに。

 決闘に敗れはしたものの、サニィと姉妹の契りを交わして幸せそうなオリヴィアを見て、憧れのレインの弟子になって幸せそうなオリヴィアを見て、つい気を抜いて作ってしまった子どもがいるとも知らずに。

 その子どもが後に善王として歴史に名を残すことも知らずに、血の繋がらない姉妹は抱き合っていた。


「なので、もしお姉さま達にお子ができてしまっても、わたくしが育てますわ。と言うより、普通にお姉さまのお子が欲しいです。レイン様のお子も欲しいです。だからご遠慮無く!」

「あ、あはは、なるほど。じゃ、じゃあ、その時はお願いするね」

「お任せ下さい!! ところで、わたくしの愛剣のお名前なのですけれど」

「私が付けちゃっていいの?」

「もちろんです!」

「じゃあ、……『ささみ3号』ってどう?」

「天才ですわ!!」


 こうして姉妹は夕飯時まで盛り上がった。

 たまにオリヴィアがキスをせがんで蔦で締め付けられ、それでも喜ぶなどのハプニングもありつつ、二人の相性はとても良かった。

 もちろんクソダサい名前のことも、子どものことも、レインにはしばらく秘密だと約束して。

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