表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第七章:グレーズ王国の魔物事情と
70/601

第七十話:両手でほっぺを叩く

「さて、サニィ。一つだけアドバイスがある。今回に限っては街への被害を考えるな。全力でやれ」

 

 訓練も終わり、遂に明日にはドラゴンが攻めてくる。

 戦う場所は郊外、王都の東西に分かれての戦闘になる。東側にレイン、西側にサニィだ。

 レイン一人であれば自分から攻め入って一頭を倒し、即座に反転する予定だったが、サニィが戦うのなら両面同時戦闘で問題ない。到達時間に差はあるので、一応レインが先に到達する東側。

 そこで、レインは一つのアドバイスをした。


「それは、どういうことですか?」


 今までサニィの戦闘を見てきて、サニィには致命的な弱点があることに気付いた。

 簡単なことだ。サニィは手を抜く。

 魔物に対しては容赦無い攻撃を行うものの、そこに人が関われば途端に傷付かない配慮をしてしまう。

 今回は、それが致命傷となる。


「後ろの都市を気にしていてはドラゴンには勝てん。お前の力はまだ、恐らくドラゴンに劣っている」

 

 都市から離れて戦闘すれば、上手く行けば都市に被害は出ないだろう。

 しかしサニィの速度では突破されたら追いつけない。一度の死亡ならばまだ取り返せるかもしれないが、二度死ねば引き離される。確実に。

 よって。都市を背後に戦うしか方法がない。

 その場合、後ろの都市に配慮してしまえばドラゴンには勝てない。


 これは、賭けだった。

 上手く行けば、守るべきものがあることによってより強くなる。

 失敗すれば、都市を配慮して負けてしまう。


「分かりました。全力ですね……」


 そんな時、都合良く通りかかったのがオリヴィアだった。

 もちろんストーキングしていたのだが、今回ばかりは都合良く通りかかった、という事でいいだろう。


「お姉さま、大丈夫です。戦闘余波から王都を守るのはわたくしとディエゴの騎士団にお任せ下さい」


 ここ一ヶ月弱の訓練によって、オリヴィアは飛躍的に強くなっていた。ディエゴも強くなっているので今はほぼ互角。能力の差でディエゴの方が多少強いと言ったところだろうか。

 オリヴィアの必中も、物理法則を無視した回避には今だ対応出来ていない。

 しかし今となっては、彼女達は誰よりも心強い味方だった。

 騎士団は一週間経ってから参加したとはいえ、共にレインの地獄の訓練を抜けた仲間達だ。

 魔王に会ったことで精神的なショックを受けていた精鋭以下8名も、オリヴィアが地獄の訓練をしていると聞き、騎士としての誇りを取り戻す為に色々とドラマがあったのだが、それはまた別の話。


 ともかく、彼らが後ろにいるのであれば、背後への配慮などせずとも全力で戦うことができる。

 そんな風に思えた。


 両手の拳を胸の前で握りしめ、覚悟を決めているサニィをうっとりと見つめるオリヴィアにレインは近づくと、とても優しく(・・・・・・)囁いた。


「愛しの弟子オリヴィアよ、今回のストーキング、無事都市を守れればお咎めなしとしよう」

「ひっ、ば、ばれ……は、はい、必ず。…………あの、罰の場合は……?」

「二度と俺にもサニィにも会えぬようお前を隔離する」

「……」


 何かを期待するオリヴィアに、最も厳しい罰を考えることなど、隙が見えるレインには容易いことだった。

 ようやくのことレインの本当の怖さを知ったオリヴィアは、覚悟を決めた。

 少しばかり格好いい所を見せようと軽率に飛び出してしまったのだ。軽率な行動に対する罰と、まともな覚悟もなく戦場に出ようとするオリヴィアの気を引き締める為に、それはちょうど良かった。


「か、必ず守ります。ディエゴ、騎士団を集めなさい!」


 そうして全員の覚悟が決まる。

 今回のドラゴンは恐らく前回レインが倒したものよりも強いだろう。

 

 ――。


 敵が一頭であれば、レインさんの負担は随分と減るはずだ。ほんの少しでも助けになりたい。

 相手は恐らく今の私よりも強い。

 でも、それでもレインさんは私が出ることを許してくれた。

 後ろにはオリヴィアとディエゴさんが構えている。戦いの余波ならば、間違いなく防いでくれるだろう。


 都市の反対側では、既に戦いが始まっているのが見える。その個体はやはり自分よりも強い。それもかなり。

 予言によればあちらの方が強い個体の様だけれど、ここまで差があるとは……。


「お姉さまあーーー!! もしも負けたらレイン様はいただきますからねえええ!!!」


 ……。

 全く、一体どこがレインさんを諦めたのだか……。

 でも、これで恐怖は消えた。

 あの娘にレインさんを渡すなんて、あり得ない。


「よしっ」


 両手でほっぺを叩く。

 敵がどれだけ強くても、レインさん程ではない。そして何より、今回は私に大きなアドバンテージがある。

 レインさんの様な例外さえ除けば、戦士よりも魔法使いの方が巨体に強い。

 尤も、それがデーモンロードとドラゴンが同等であってもドラゴンの方が脅威だと言う理由でもある。魔法使いの身体は弱い。だから巨体の魔法も飛行も使えるドラゴンは、デーモンロードに負ける個体であってもデーモンロードよりも脅威なのだ。


 ただし、私の身体は強い。

 今回の修行で、主に鍛えた面はそこだった。毎日毎日全力のレインさんにあらゆる身体的いじめを受けてきた。いや、修行だけれど。合法だけれど。でも、そうとでも言いたくなるレベルの鍛え方をしてきたんだ。


 ……。遠くに、巨体が見える。

 以前見たドラゴンよりも、更に大きい。

 翼を広げた大きさは70m程もあるだろうか。

 オーガ並みの膂力しか持たないディエゴさんで、あれをどうやって倒すんだろう……。

 いや、一人で倒せないのが普通なのか。

 いつの間にか、そんな風に思う位には余裕が出来ていた。

 大丈夫。正直レインさんの方が怖い。


「さて、行こっか、『フラワー2号』」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ