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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第七章:グレーズ王国の魔物事情と
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第六十五話:夜、二つの戦い

 夜、レインとサニィはそれぞれ王宮の一室を貸し与えられると、それぞれがそれぞれ、思う事について考えていた。


 レインが謁見の間で王女に反応しなかった理由は簡単だ。

 そんなことよりも重要なことがあったから。

 それはもちろん魔王のことだ。

 今まで、5歳の時母親を失った事件を除けば一切負けたことが無かった。当然ながらではあるが、魔王戦で初めて死んだのだ。

 ここ1年ほど身体能力の成長が無い様に感じられ、勇者レインははぼ完成していると思っていた所での死亡だ。最終的に魔王を殺している以上それは負けでは無いのかもしれないが、初めて死んだことは変えられない事実。

 戦闘の最中には集中していてそれどころでは無かったが、思い返せば未だに恐ろしさが抜けない。

 しかし、レインはその戦闘の最中、同時に手応えも感じていたのだった。1回目に死んだ時は瞬殺された。2回目は一瞬耐え、3回目はもう少し耐えた。そして4回目の命で魔王を討ち取った。

 その間はごく僅かではあったものの、レイン自身はもちろんその成長を自覚している。

 自分がここ1年ほど成長しなかった理由はシンプルに、相手が居なかったから。ほんの少しでも手応えのある敵が1匹たりとも存在しない次元まで辿り着いてしまって居たからだ。もちろんまだ見ぬ魔物の中にはレインに傷を付けられる奴も居たけれど、少なくとも最も危険な山には、既にそんな敵は居なかった。

 それが魔王に出会ったことで再び成長し始めた。同じ魔王になら、恐らくもう負けることはない。その程度には成長していた。


 そんな魔王のことを考えていたレインの部屋の扉を、コンコンとノックする音が聞こえる。


「いるぞ。開けると良い」


 ――。


 一方サニィは、全く別のことを考えていた。

 あの王女の熱い視線は尋常ではない。あの目は確実に、レインを狙っている。

 自分よりも幼さが残るものの、その容姿は自分よりも上だ。勝っているのは尻の大きさ位だろうか。

 流石は大国の王女とでも言うべきか。まあ、王女であることと美人であることには関係はないけれど……。


「レインさんの呪いを知らないとは言え、オリヴィア様は危険。私が勝てることは何だろう。レインさんが王女の方を向いちゃったら……」


 きっとそれはないだろう。

 あの人は繊細な心なんかは持ち合わせては居ない。王女の視線を無視したことも、単に敵意ではなかったから気付かなかっただけかもしれないけれど、あえて無視した可能性もある。

 何より、私に一目惚れしたと言っていた。

 例えアタックを受けたとしても惹かれることなんかないはずだ。

 あのレインのことだ。そのアタックにすら気づかない可能性すらある。

 

 でも、私の今までの態度を思い返すと……。


 それに、王の勅命なら逆らえない……。

 そんな風に部屋でもやもやとしていると、ドアがノックされる。

「どうぞ」レインさんかな? 魔王のことについて考えることもあったみたいだし。

 考えている間にもそのドアは開かれる。


「サニィさん、少しお話しましょう」

「あ、王妃様。は、はい」

「そんなに硬くならなくても良いですわ。……リーゼさんのことは、残念でした」

「ええ、生き残ったのは私だけでしたが、レインさんのおかげで葬儀は出来ました。きっと天国で過ごしていると思います」


 母親のことは私も辛いけれど、王妃様も辛いはずだ。

 それは分かっているサニィではあるが、ここで牽制をしておく必要があるように感じた。

 王妃はレインについてどう考えているのだろうか。少なくとも自分はレインに助けられた恩があるのだと、そう伝えておく必要があると感じた。


「レインさん、不思議な方ですね。あなたを守って下さって、とても感謝しています。あなたはリーゼさんに似ていますから」


 なるほど。レインの話題を続けながらもそれはあくまでリーゼ関係だと。

 曖昧な牽制では流されてしまう。ならば、もう少し踏み込んでみる。


「今は両親の教えを元に、レインさんの下で魔法を訓練しています。おかげで今はお母さんを超えることも出来ました」

「あら、レインさんは魔法使いではないのでしょう?」

「彼は勇者の力の関係で魔法使いの欠点を指摘してくれます。とても厳しいですけれど、その価値はあります」

「ふふふ、そうなのですね……。流石は次代の王になる方ですわね」

 

 かかった! あ、いや、違う。

 当然ながら、王妃様は私の敵だ。お母さんに惚れて護衛にしたとしても、流石にその娘よりは自分の娘の方が大切だ。いや、国だろうか。どちらかは分からないけれど。

 ともかく表情は読めないけれど、王の血族の王妃様であれば王の言葉に意見出来る。でも、それを否定することもしない。

 と言うことは。


「レインさんが次代の王ですか。なんか、嫌ですね。傍若無人なあの人が王って似合うような似合わないような。あはは」

「彼のお話はディエゴから聞いていますわ。とてもストイックな方ですってね。オリヴィアもとても尊敬していますし」

「あれ? 王女様がレインさんと会ったのは謁見の間が初めてでは?」


 あえて王女の視線には気づかなかったふりをして、そんなことを聞いてみる。


「オリヴィアは王とディエゴに剣の指導を受けていますわ。その合間にディエゴがレインさんのことをよくお話するものですから、憧れを持っちゃって」

「あ、あはは。王女様がディエゴさんのことをマイケルって呼んでたのももしかしてそれが……」

「ええ。王も豪快でしょう? 騎士団長を呼び捨てどころかマイケルなんて呼ぶレインさんがとても素敵だって。ふふふ」


 な、なんてこった。まさかレインの見た目とか強さよりも先に傍若無人なところが魅力だとは……。

 でも、昼のあの様子は完全に恋する乙女だった。

 きっとレインが予想以上に格好良かったのだろう。うん。分かる。いやいや、何を考えているんだ私は。

 そんな風に頭を振るサニィが王妃から見てどう見えたのか知らないが、王妃は更なる一手を繰り出してきた。


「今頃オリヴィアはレインさんのお部屋にお邪魔している頃。ふふふ。お似合いですよわね」

「っ!? ……あ、あははは」


 やられた……。

 王妃がこの部屋に来たのは、私の足止めが理由だったのか……。

 既成事実さえ作ってしまえば、逃れられない。

 しかし、レインならばきっと、どんなアプローチも意に解さないだろう。

 王妃が居る以上、急用などと言って抜けることすら許されない。

 レインを信じるしかない。


「さあ、お話をしましょう?」

「は、はい。……あはは」


 サニィは気づいていなかった。

 確かに、サニィを足止めしてレインとオリヴィアの既成事実をサポートすることも目的だった。

 しかし、それは王妃にとってはついでの目的。もしくは、自分の目的を進めるのに都合が良い。

 その為だと言うことに。


(ふふふ、レインさんが王になって下されば、サニィさんは私のモノ。ああ、本当にリーゼお姉さまに目元がそっくりですわ……はぁはぁ)

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