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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第七章:魔物殲滅へ
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第百八十九話:一周した時

大変お待たせしました。

 勇者と魔物は相容れない。

 何故ならその二つは、そういう風に作られた存在だから。

 神の真似事をしてしまった一振の剣によって、歪められてしまった人が勇者。無理矢理作られた命が魔物。


 そんな区分けだったのならば、きっと彼ら(・・)はまだ、幸せだったのだろう。


 しかし実際には少しだけ違う。

 現在の真実は二振に別れてしまった剣の片方が担当した者が勇者、もう片方が担当した者が魔物である。


 つまり体内に陽のマナを宿した人が勇者で、陰のマナで造られた擬似的な生命が魔物だ。

 もっと言えば、陰のマナを体内に宿してしまった哀れな人々は魔人とされる。陰のマナを持つが故に勇者に殺意を抱き抱かれ、人であるが故に魔物からも狙われる哀れな人々。

 これが、彼らがとても不幸な理由だった。


 ――。


 クラウス達が大陸を一周した時に見た光景は、あるいは自分自身が勇者ではないことをクラウスが認識していたのなら、未然に防ぐことが出来たかも知れなかった。


 何も無い土地には、数えきれない程の勇者と魔法使いが存在していた。

 彼らは一様に同じ方向を向いて、殺意を剥き出しにしている。

 そしてその先にあるものを、クラウスは当然ながら知っていた。


「村が! サラ、先に行くぞ!!」


 待ってとの声も聞かず、クラウスは勇者達の中心へと突撃した。

 紙切れの様に飛び交う勇者と、時折見える赤い飛沫と肉片。

 サラがそれを力の弱い勇者や魔法使いの物であることを理解するのは簡単なことだった。

 幸いなことにか意図してなのか、首が飛んでいるのは確認出来ないのがクラウスがまだ冷静である証拠だろう。

 しかし剣を握る腕らしきものは飛んでいる様だった。

 大陸を一周して力を蓄えたクラウスの、久しぶりの本気。

 それを止められる者など弱小の軍には居るはずも無く、クラウスの移動跡もまた、瞬く間に見えなくなって行く。


「ごめん、マナ。私じゃあの軍を相手に綺麗に制圧するのは少し無理。追いかけたいけど……、私が怪我するわけには行かないから」


 サラが言うと、マナは勇者達の群れを睨みつけたまま静かに頷く。


「うん、隠れてて。クラウスの為に」


 そう呟くと、姿を無骨な鈍色の剣へと変化させる。

 クラウスに感応しやすい五歳児のマナを抑えて冷徹な世界の意思の部分が出てきたのだろう、そのまま沈黙するマナを抱えて、サラは魔法で姿を隠すことにした。


「大丈夫。まだ彼らが到着して間もないはずクラウスならあの大軍にすら負けるわけがない。村のディエゴさん達がそう簡単に屈するとは思えない。何より、村にはエイミー先生がいる」


 英雄達が手を焼くエイミー先生が、魔法使いの頂点の一人が、有象無象の群れに遅れを取ることはあり得ない。

 自分を落ち着かせながら、サラはゆっくりと移動を始める。

 探査系の魔法で状況の確認は敢えてしない。

 クラウスが力を付けている今、複数の魔法を使うことの難しさは日々増しており、クラウスはより優先的にサラの魔法を吸収する様になっていた。

 それを気づかれない様にと日々出力を高めるのも大変だったけれど、今は何よりも隠密だった。

 顔が知られている自分が軍の正面に出てしまってややこしいことになっては、エイミーにとってもクラウスにとっても、更には英雄達にとっても不利な状況になってしまう。


「今の私が出て行っても狛の村の人達とこの軍を宥める様な力はない。あーもう、どうしたら良いの……」


 父なら狛の村の人達を一気に安全な所まで運ぶだろう。

 母なら訳が分からないうちに有耶無耶にしてしまうだろう。

 オリヴィアならそのカリスマで平和的な解決が出来るだろう。

 エリーなら力で両成敗にするだろう。


 きっと、聖女サニィなら全てを納得させられるだろう。

 そしてレインなら、ただそこに存在するだけで誰も動けなくなるだろう。


「クラウスと先生だとどうなる? 私に何が出来る? こんな時を想定して私は何を考えてた?」


 第一に、クラウスが本気で暴走をしない為に自分とマナが傷付かないこと。

 第二に、いざという時は命がけでクラウスを止めること。

 第三に、……英雄に頼ること。


 明らかに、力が足らなかった。

 クラウスの為と言いながら、結局自分の身を守ることが最優先だというその矛盾に、サラはかつて英雄達が言ったことを思い出す。


 クラウスといると、必ず辛いことがある。


 ふと思い出すと、少しばかり冷静になる様だった。


「ふぅ、大丈夫だ。クラウスと先生なら大丈夫。全ての勇者の大元のクラウスと、英雄達も頭を悩ませる問題児の先生なら、何も起こらない。とりあえず私がすべきは、誰にも見つからず狛の村の人達を救出すること。英雄の娘の関与を下手に悟らせないことだ」


 魔法使いは弱い。だから、集団戦では絶対に狙いを定められないことが大前提。


 サラがそんな自分の考えの矛盾に気付いたのはそれからすぐのこと、ようやく狛の村が目視できる位置まで来た時のことだった。


 先生なら大丈夫。どれだけそう思っていても、やはり魔法使いは勇者ではない、か弱い肉体の人でしかないということを、自分自身は隠れていたにも関わらず、忘れていたのだった。

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