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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第七章:魔物殲滅へ
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第百八十六話:ドラゴンのシロ

 二週間程して、シロが靄の状態で戻ってきた。

 定期的に殺されたり、肉体の維持を止めて帰ってくるマーマンはマナが言わなければ誰も気付かない。

 ところがドラゴン程にもなれば、それは視覚化できる程のものになるらしい。

 現在はビーチから更に北上している。

 これは下手に街に滞在するのは難しいなと思いながら、靄が戻るのを見届ける為に三人は脚を止めた。


 曰く、リヴァイアサンを見つけて挑んだものの勝てず、捨て身で致命傷を負わせて来たとのことだった。


「リヴァイアサンっていうのは80メートルのドラゴンでも勝てない程に強いのか」


 80メートルと言えば、ドラゴンでもかなり大きな部類だ。

 レインやサニィが殲滅した中にはそれ以上の個体も多くいたらしいが、自然に生まれるドラゴンで最初からその大きさであることは殆どない。

 最初は40メートル程度で生まれ、長く時を生きる内に大きく強く賢くなっていくのがドラゴンという魔物の大半だった。

 その中で生まれながらに100メートルもあったシロは異例中の異例なのだが、マナに吸収され力を落として80メートルとなっても、ドラゴンの中で上位層にいることは間違いない。


 つまり、基本的にドラゴンが全滅しているこの世界では、シロが魔物の頂点に立っていると言っても過言ではないはずだった。


 例え海というリヴァイアサンに有利な場所での戦闘だったとしても、80メートルのドラゴンで勝てないのならば、最初に少し考えた船での戦闘は無謀なことだったのかもしれない。

 サニィの日記の中にはリヴァイアサンを一撃で倒した記述があった為に少し楽観的に捉えていたけれど、思い返せば120メートルのドラゴンすら瞬殺してしまう異次元の強さを持った人物だった。

 シロが居ればなんとかなると考えていたことが甘かったと、二人は反省した。


 そんなクラウスとサラの複雑な表情を見て、マナはゆっくりと首を振った。


「んーん、60めーとるどらごんくらいのりばいあさんはいるけど、こんかいのはちがうよ。じかんがなかったからじばくしたんだって」


 マナが召喚したドラゴンは、動けば動く程にその肉体を構成しているマナを消費していく。正確にはマナへと戻っていくのだが、肉体の維持が難しくなるということは変わりない。

 つまり、激闘を繰り広げる程にシロは体力が残っていたとしても不利になっていく。

 しかも今回は相手が海性の魔物だった。

 途中で潜られれば、シロも不利なことを知りながら海へと潜らなければならなかったらしい。

 すると、呼吸の維持の為に無駄な魔法を使うことになり思考は制限される。

 圧倒的に有利な状況下でのリヴァイアサンの魔法は強力で、海に入ってからも負けることは無いものの、肉体維持の制限時間は目に見えて減ってしまったとのことだった。

 リヴァイアサン程の脅威が持つ縄張りに他の魔物が入り込むこともなく、魔物を食べて肉体の補給すら出来ない。


 ドラゴンがそこまで不利な状況で戦うということは本来あり得なかった。例えシロに近い状況であっても、肉体を維持出来なくなるということはない。

 つまりは持久戦に持ち込めば、勝ちの目はいくらでも見えてくるのが本来のドラゴン対リヴァイアサンの戦いだった。

 しかし今回は違う。

 肉体の維持には時間制限があって、敵が強ければ強い程に長く戦えない。遊ぶ時間が無いどころか、窮地に追い込まれていた。


 シロはそんな状況で、一つの決断をした。

 このまま肉体の維持が出来なくなれば、リヴァイアサンは元気なままに居場所を変えるかも知れない。

 例えそうでなくとも、周囲の魔物を食い尽くして体力を万全に整えても、今回のことから学習して持久戦の構えを取るだろう。

 もしかしたら、それを他のリヴァイアサンに伝えられてしまうかも知れない。

 そうなれば海の攻略は非常に難しいものとなってしまう。

 だからこそ、シロは決断をした。

 それは海中では本来使うことが出来ないブレスだった。

 超高温のブレスはそもそも隙が多い。ドラゴンの弱点として、ブレスを吐いている間はそれに意識を取られてしまうことが挙げられる。

 一撃必殺の威力こそ持っているものの、その隙を突かれることを嫌う個体は多く、それはブレスの最中は意識が飛ぶに等しい程。故に、長生きする個体程使わないとすら言われている。

 ましてや水の中では絶対に使うことがない。

 大量の水が突如として超高温に晒されれば瞬時に水は水蒸気へと変化し、その体積の変化は大爆発を巻き起こす。海の中で使えば、その爆発が自らの顎を吹き飛ばす程だということを、彼らは本能で知っていた。

 それを知っていたからこそ、シロはあえてそれを行った。

 リヴァイアサンの土手っ腹に噛み付くと、全力のブレスを放つ。


 大爆発の後、シロの下顎は消し飛び上顎もマズル部分は丸ごと無くなっていた。

 薄れ行く意識の中で目にしたのは、シロの顎の五倍程の大きさで腹を抉られた、瀕死のリヴァイアサンだった。

 例えドラゴンの魔法ですら修復が難しい欠損。

 死ぬことは無かったとしても、それを治すには最低半年は魔法を使い続けて直さなければならないことを、シロは知っていた。

 同時に、それは他のリヴァイアサンへの連絡など出来はしないことを表している、


「だから、こんかいはシロのかち」


 帰ってきた靄を取り込んで、再びシロを召喚すると、マナはその巨大な鼻先を撫でながら自慢気に言った。

 話の様な激闘の後など微塵も感じさせない綺麗な姿で、シロはマナに首を垂れてされるがままにしている。

 しばらくして満足したのかマナが手を放すと、シロは今度こそリヴァイアサンを仕留めに飛び立っていった。

 獲物を持ち帰ってくるのも、時間の問題だろう。


 ――。


 一方で、サラは戦慄していた。

 ドラゴンの捨て身の攻撃にではない。

 それはこれからマナが持つことになる、圧倒的な戦力に対してのものだった。

 倒しても倒しても無傷で再生する、無限の命を持つ魔物達。

 今はまだドラゴン一頭に加えて弱小の魔物達だけだが、これから先はいくらでも増えていく。

 そして、これは始まりの剣の力の、たった片割れでしかないことに気付いて、サラは初めてその力に恐怖を覚えたのだった。


 本当に、始まりの剣は今まで人間を滅ぼす気などまるで無くて、やろうと思えばいつでも出来たと気付いたのだ。


 同時に、ここまでの力を持った始まりの剣が唯一怯えた『不壊の月光』とは一体なんなのか、疑問を持たずにはいられなかった。

新作を考えて数話分書きためています。

明るい話にしたかったけど……。

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