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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第七章:魔物殲滅へ
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第百八十五話:大海原へ

 戦闘とすら呼べない様な殲滅戦が終わると、巨大なドラゴンシロは役目を終えて消えていった。

 召喚時とは逆に、黒い靄の様になってマナへと戻って行く。

 一度マナが食べた魔物は肉体を維持できなくなった場合や損傷が激しい場合は、どんな場所に居たとしてもその様に戻って行くらしい。

 それが魔物を生み出すために世界に放った陰のマナと、マナが始まりの剣として完全に制御しているものの差なのだろう。


 それを加味して話し合いを進める間、残っているマーマン達をマナに食べてもらう。

 もちろん、今後クラウス達が直接海へ出る手間を極力省く為だ。


「それで、海の魔物はマナが召喚した魔物に任せる方法が良いんじゃないかって思うの」

「なるほど。確かに僕達が直接狩るにも海は広過ぎる。行ける場所も限られているとなれば、そうするしか無いな」

「問題としては、長く召喚した魔物には離れて貰わないといけないから、定期的に海の魔物を食べて肉体を維持してもらう必要があること。マナ自身の戦力は増えにくいことね」


 曰く、激しく戦ったり大きく肉体を損傷する程に召喚した魔物達は姿を維持するのが難しくなるとのこと。

 その度にマナへと戻って再び召喚すれば良いには良いけれど、時間のロスもまた著しい。

 となれば、なるべく強い個体はマナが食べる方が良いということになる。激闘を繰り広げた上にそれを召喚した魔物が食べてしまえば、その周囲では魔物こそ生まれなくなるものの、マナが召喚出来る魔物は減るだけだ。


「うーん。となると、マナには強い海洋性の魔物を食べて貰わないといけないか」

「そうなるね」

「かと言って、リヴァイアサンやクラーケンにそんな簡単に会えるものか……」


 海洋性の魔物で頂点に位置する魔物と言えば、リヴァイアサンだ。ドラゴンの系統に当たるリヴァイアサンは、個体数も少なく強力ながらそれほど人に会うものではない。

 マナの様に魔物を誘き寄せる体質ならば寄ってくる可能性もあるが、当てもなく彷徨うのはリスクも高い。その上高度な知能がを持っている為に、かつてのシロの様に殺意に耐える可能性すらある。


「マナ、リヴァイアサンの個体数っていくらくらい居るかって分かるかな?」


 サラが尋ねると、マナはうーんと首を傾げた後「えっとね、よんひきだけかな。でもいるところはわからない」と答えた。

 四頭となると、世界の七割を占めているという海の中で、会えるかどうかは運でしかない。

 ちょっと船に乗ってリヴァイアサンでも倒すか、という訳にはいかないらしい。

 かつての聖女サニィならマナを感知して見つけることが出来たのだろうが、そんな力を持った者は以降聞いたことが無かった。

 精々が、災害を事前に予知する勇者がいる程度だ。

 つまり、リヴァイアサンが暴れない限りは何処に現れるのかも分からないし、リヴァイアサンが暴れたという記録はサラが知る限り、レインとサニィの旅の途中に遭遇した個体を除けば150年も前のことになる。


「となると、クラーケンは?」


 時点で強力な魔物と言えば、超巨大な触手を持つというクラーケンだ。

 魔法を使うことも出来ず、リヴァイアサン程の強さも速度も見込めないものの、時折船を襲うことで知られている。

 しかしマナから返って来た答えは、更に残念なものだった。


「くらーけんはいまいっぴきしかいないの。きょうぼうだから、よくりばいあさんにやられてる」


 なんだそれは、と思わず言いたくなるのを二人は堪えた。

 リヴァイアサンに比べて目撃数が圧倒的に多いクラーケンは個体数が少なく、逆に個体数が多少多いリヴァイアサンは殆ど目撃例が無い。その理由が、リヴァイアサンに挑んで殺されているからだとは……。

 しかしそれは逆に言えば、希望を含んでいる様でもあった。


「クラーケンならリヴァイアサンを見つけることが出来るのか?」


 ところがマナの出した答えはまた、良いものとは言えなかった。


「んーと、くらーけんはいつもおよいでて、りばいあさんはあんまり動かないの。だからたまたまだよ」

「たまたまで一匹まで減るのか……」


 とは言え、クラーケンはその巨体と海上という強み故にデーモンロードを凌ぐと言われている。

 だからこそ、基本的には敵は居ないのだろう。

 その結果悠々と泳ぎ回っては時折船を襲い、リヴァイアサンの縄張りに入って返り討ちにあう。

 聞いてみれば、なかなかどうしようもない魔物の様だった。


「となると、どうするかな」


 マーマン軍団が一匹辺りの強さがデーモン級と言われているとは言え、それは水中というアドバンテージを加味してのこと。召喚すれば弱体化するというのであれば、同じ数のマーマンに勝つことすら不可能だ。

 一万程のマーマンを倒した中で、シロが補給の為に食べたマーマンは五匹程度だったが、それでも元の強さでも80メートルのドラゴンであるシロを相手には手も足も出ない群れだった。

 そしてそれは恐らく。


「あ」

「ん、どうしたサラ?」

「とりあえず何か強い魔物を一頭、シロに頑張って貰えば良いんじゃないかな。空を飛べば速いし、無駄な戦闘を避ければ肉体もそれ程消費しないんじゃない?」


 恐らく、水中で戦ったとしてもマーマンはシロからすれば烏合の集だろう。

 その理由の一つとして、ドラゴンであるシロは超強力な肉体と同時に魔法を扱える。

 その知能の高さを考えれば、水中呼吸すら出来るだろう。

 そして80メートルという肉体は、ドラゴンの中でもかなりの巨体だ。世界中の全ての魔物の頂点にはドラゴンが君臨すると言われている以上、四頭しか居ないリヴァイアサンの中にも勝てる個体がいる可能性が高い。


 何より、ドラゴンは空を飛べるのだ。

 空中からの索敵は船上からの索敵よりも遥かに遠くまで、より深くまで見渡せる。

 例え相打ちになったとしてももう一度召喚出来る以上、頑張って運んで来て貰えば良い。

 そんなことを伝えると、マナは再び体から黒い靄を出してドラゴンを形作る。


「シロ、できる?」

『問題ない。元々主に食われる為に生まれた身だ。幾度の死も厭わぬよ。まあ、命令されれば嫌とは言えないがな』

「じゃあ、おねがいね」


 余りにもあっさりとしたマナに苦笑した様な表情を浮かべると、シロは海上へと飛び立って行った。

 それから少ししてマナの食事も終わると、少々小型化したマーマン一万の軍勢を海へと解き放つ。

 雑魚の掃除と強力な海洋性魔物の発見の為の目として、一万と一頭は死をも恐れぬ尖兵として大海原の陰のマナの回収を始めたのだった。


 ――。


 そうして、一万のマーマンをマナが食らったことで随分と形が変わってしまったビーチからは陰のマナが消失した。

 これから起こるある事件の時に、この地は少しばかり、役に立つことになる。


 尤も、それよりも大きな後悔がクラウス達を襲うことになるのだが、それを知る由など今は存在しなかった。

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