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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第七章:魔物殲滅へ
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第百八十二話:綺麗な海

 魔物の殲滅を考える様になって、真っ先に向かったのが南の大陸南東部に広がる荒野『何もない土地』だったのは、エイミーの魔法の影響だった。

 ドラゴンとの戦いが終わり倒れている間から密かに念話を応用して語りかけていたエイミーによって、なんとなくそちらに向かった方が良い気がしてしまったのが発端だ。

 それに対して英雄達は、『何もない土地』にある第二の狛の村の状況を知っているが故に何も言わず、魔物殲滅の出発点としてそこに行くことを認めた訳だ。


 それからしばらく。

 いくつかの問題があったものの、『何もない土地』の魔物は殲滅され、その地から陰のマナ、もしくは魔素と呼ばれているものが消え去った。

 剣の幼女マナが魔物を食べることにより、陰のマナはその地を避ける様になるらしく、実際に魔物の出現は一切無くなった様だ。

 エイミーの抱える呪いこそ解く方法は未だ見つからないものの、第二の狛の村の住人達は突如すぐ近くや家の中に魔物が現れるという恐怖を経験することがなくなって、一先ず安心して過ごせる様になったと喜んでいた。

 それをきっちりと確認してから、三人は再び旅立っていた。

 何もない土地から北に真っ直ぐ、山を越える。

 当然ながら道中の魔物を処理しつつ更に進むと、海に出た。


「おおー、綺麗な海だねー!」

「わあー!」


 エメラルドグリーンに輝く珊瑚礁に、サラとマナは感動を覚えて走り出す。

 大陸北方の船着場とは違うとても透き通った海の色は、確かに今まで見たこともない様なものだった。


「ここはレインとサニィも見たこと無いんだろうな……」


 クラウスもまた、感動を覚えながら二人の後に続く。

 その予想は当たっていた。

 ここは美しいビーチの三方向を山岳に囲まれた様な巨大な湾で、秘境と呼べる場所だった。

 山を越えて西に行くと荒野が広がっており、南は何も無い土地、北はそれ程広くない砂漠から海が直接海に繋がっていて、少し沖に行けば強力な魔物がうろついている為に船を出すことすら困難。

 当然ながらワイバーン等が存在する山越えは非常に厳しく、極々限られた土地しかないと伝えられていたこの湾に行くメリットは、今までどんな人物にすら無かったと言える。

 即ち、今まで誰も確認をしていない土地だったのだ。

 レインとサニィも西の砂漠で、サンダルの修行を見に行く程度にしか訪れてはいなかった。


「クラウスー! 早くー!」


 綺麗なビーチを見たサラは既に旅行気分なのだろう、マナと手を繋いでパシャパシャと水面(・・)を走り回っている。

 既に波打ち際からは30m程離れた場所にいて、流石に膝ほどしかない浅瀬というわけでもないだろう。


「待て待て、僕は魔法は使えないぞ」

「泳いでおいでー!」

「おいでー!」


 それでも御構い無しといった様子で、二人ははしゃいでいた。

 確かに、はしゃぐのも分からなくは無かった。

 今の三人の目的は魔物の殲滅だ。それが出来るのは現状マナしかおらず、他の人が魔物を倒したとしても、それは世界へと還り再び生まれることになる。

 つまりは、間引くことしか出来ない他の者と違って、三人は一匹も残さず殺しつくすことが求められていた。

 当然ながら命のやり取りだ。

 時にはこうして気を抜くことも必要だろう。

 そう思いつつ、一つの懸念を抱きながらクラウスも上を脱いで海へと入るのだった。


 ――。


 当然ながら、海にも魔物は存在する。

 魔物は基本的に、マナに理不尽に食われることに恐怖を抱き襲いかかってくる。

 そんなマナが、サラに手を引かれながら海面上を走り回っている。

 もちろんサラが探知を怠る訳もなく、魔物は即座に補足され対処される。

 結果としてどうなるのか。


 綺麗な海は、いつのまにか辺り一面魔物の血で真っ赤に染まってしまうのだった。


「……」


 夕飯時になって、クラウスが魚を捕まえて戻って来てもサラは落ち込んでいる様子だった。

 どうしようもないと分かっていながらも、マナは魔物を引き寄せてしまう。

 あの場で魔物は処理した為にビーチの周囲から陰のマナは減っているだろうが、既に海の中にいる魔物は何度でも寄って来るだろう。

 となれば、その都度その魔物を倒し、マナに食べて貰わなければならなかった。

 それでも血は残る。

 曰く、流石に血を食い尽くすことは不可能で、陰のマナに戻るのを待つしか無いらしい。戻れば他のマナと共に逃げ出すらしいが、ともかく一先ずは残ってしまう。

 つまり魔物とマナがいる限りは、必ず海が汚れてしまうのだ。


 それはマナも分かっているらしく、申し訳なさそうな顔をしていた。


「サラ、魔物が居なくなったらまた来よう。マナも気にしなくて良い。魔物は居なくなるんだから」

「うん、ごめんねマナ」

「んーん」


 血生臭い生活が始まって久しく、せっかくの旅行気分だったのだ。

 サラが落ち込むのもよく分かる。

 特にドラゴンとの戦い以降、サラは自分で戦うことに固執していた節がある。精神的な疲労も蓄積していたのだろうことは、容易に想像が出来た。

 このまま戦い続けるのも危険だろうし、さてどうすべきかと考える。


 しかしここで、クラウスは一つの問題に気が付いてしまった。


 ここは海だった。

 海にも当然ながら魔物が居て、そして当然ながら海は広い。それはもう、陸地よりも。

 海に多く存在する魔物達を一体どうやって殲滅すれば良いのかという問題は、とても大きなものだった。

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