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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第七章:グレーズ王国の魔物事情と
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第五十九話:見えるだけが真実ではない

「さて、俺達はここから一度狛の村に行ってみようと思うが騎士団はどうする?」

「予定よりも早く終わったから俺達も連れて行ってくれ。イフリート程度じゃ、お前には不足だろう? それに騎士団の為にもデーモンロードを見ておきたい」

「了解した。しかし、もう戻らないと言っておきながらたかが4ヶ月程度で戻ることになるとはな……」

 

 イフリートを始末し、ついでに火山地帯の観光も終えたレイン達は、一先ず首都に戻らなければならない。騎士団からの依頼で始末に動向した以上手続きに多少の時間がかかる。

 レイン達は首都に着いてすぐに火山へ発った。観光もなにもしてはいない。

 しかし道中、デーモンロードの生まれる気配を感じ、レインは狛の村へ帰還することに決めたのだった。

 サニィもそれに同意する。デーモンロードはともかく、レインが育った故郷というものに興味があった。

 ついでに寄れるならば是非寄っておきたい。そんなことを考えていた。

 もちろん本人はまだ”レインが育った”という点に興味を持ったと言うことは認めないだろうが。


「まあ良いじゃないですか。今エリーちゃんの武器も頼んでるんでしょ? それに、デーモンロードの出現時期をうっかりで忘れてたのもレインさんなんですから」

「それはそうだが……」


 別に帰りたくないわけではない。

 とは言え、意気揚々と旅立ってすぐに帰ることに少しばかり気恥かしさがあっただけだ。

 どちらにせよ、サニィが行きたいと言う以上、デーモンロード等出なくとも行くことは決まっていた。


 ――。


 死の山、そこはこの世界の地獄。世界で最も危険な場所。

 その意味は、入山して直ぐに理解できた。

 木々が生い茂り、極々自然に緑がある。動物達も十分に生息している。

 しかし、魔物がひしめいている。それはもう本当に、ひしめいている。

 木々で生い茂った視界の中でさえ常に10匹は何かしらの魔物が存在している。

 

「あれは?」「あれはリザードマンだな」

「あれは?」「あれはオークだ」

「あれはオーガですね……」「ああ」

「あれは?」「あれはデスマンバ。噛まれたら死ぬ」

「お、デーモンが居るな。しかも2匹か。お、あっちにはドレイクも居るぞ。サニィはどうする?」


 入口でこれだ。

 騎士団の精鋭5人は何度か入ったことがある。流石に動じてはいなかったが、新人達は違った。

 彼らも入団してから一度、死の山に入ったことがあった。そして各自一匹ずつデーモンを倒していた。

 しかし、そのルートは最も安全なルート。今回は火山側からの最短ルートだ。同時に最も危険なルートでもあった。

 レインとサニィがそんな会話を繰り返していると、すぐに目の前に死の山で最も危険なデーモンが2匹とそれに並ぶドレイクが現れる。

 流石に瞬時に構える騎士団メンバーだったが、レインとサニィは平常通りだった。

 サニィの目にも、最早それらが強い魔物に見えない。異常ではあるのだが、魔法使いにとってそれは同時に勝てると言うことでもある。


「私がやりますね。蔦の牢、槍、ウインドシールド、そして杖のグレイブ」


 デーモンは魔法は使わない。しかし、単純にオーガ120匹程度にもなる膂力と翼、そして5mもの巨体を持つ化物だ。人間等デコピンで死ぬ。どのように逃げたとしても、その翼で追いかけてくる。デーモンに見つかれば覚悟を決めろ。奴らは人類の天敵。

 それが通常、人間達に伝えられている一般常識だった。

 ドレイクもそれに近い。小型のドラゴン。頭の先から尻尾の先まで7m程だが、魔法を使う。その戦闘能力は単純に小さいドラゴンと言うだけではあるが、その強さはデーモンと同等。デーモンとは違い見かけると即座に襲われるということはないが、敵対心を見せればデーモンよりも激しく襲いかかってくる。ドラゴンと違って知性が低いことが救いか。


 ――。


 3匹の化け物にその他、サニィが認識出来ていた全ての魔物たちはまるで大人が子どもを蹴散らすかの様だった。最早語るまでもないほど瞬時にただの肉片と化した魔物たちを前に、騎士団連中は何度目の驚愕をしただろうか。

 

「ダメだ。50点だサニィ。見えるだけが魔物ではない」


 しかし、そんなレインの言葉とともに、サニィの首元が冷える。いや、それは痛みだった。突き刺された痛み。

 

「うっ」

「強くなるというのも困りものだな。流石に一度にここまで強くなればお前であっても油断も生まれるというものか」


 レインが動いた先には、カメレオンの様な魔物がいた。舌先を刺状にし、その先端を1mm程サニィの首に食い込ませている。そいつはとても弱い。槍を持った農夫と変わらない。その程度。

 しかし、その迷彩能力は魔物の中でも随一。油断していたサニィに見破る方法等皆無だった。


「ここは死の山だ。それは別にデーモンが居るからではない。強いからといって油断すればこんな雑魚にすら殺される。そういう世界だからだ」

「は……、はい」

「まあ、俺が守るから問題は無いけどな」

「嫌です。わざわざ刺さってから守ってくれたのはそういうことですよね……?」

 

 ディエゴや精鋭5人はそれに気づいていた。しかし、新人達はまだ気づいては居なかった。

 自分達よりも遥かに強いと認めたサニィすら、レインが居なければ即死するのがこの死の山。

 改めてそんな事実を確認して、新人達とサニィは、気を引き締める。


 これから戦うデーモンロードは以前レインが倒したドラゴン並み。それを見ていたのはサニィだけとは言え、ここ、死の山の支配者であるという実感は、彼らの覚悟をより強固なものへと変えていく。

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