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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第七章:グレーズ王国の魔物事情と
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第五十八話:騎士団の転機

 火山地帯のイフリートを一掃する。その過酷な作業はあっという間だった。

 サニィが次々にその場所を発見していき、距離がある場所はレインが瞬時に駆けては倒していく。

 近場はサニィや騎士団員が倒す。もちろんその様子は素早く戻ってきたレインも見ている。

 最期の一グループだけは、流石にディエゴからのクレームでレインも皆が見える戦いを行った。


 皆の士気は非常に高く、新しい目標に向けてのその戦闘は、非常に充実していたと後に語る。

 一方、肝心のレインとサニィはのんびりとしていた。

 その戦闘速度も行動も尋常ではないはずなのに、どこかまったりとした雰囲気が漂っている。

 そんなギャップも、騎士たちは次第に気にしない様になっていった。


 真実を、知ったからだ。


 二人は共に、両親を魔物を殺されて尚、誰かを守る為に強くなっている。

 二人は共に、残りたったの5年の命で尚、新しい可能性を育てている。

 二人は共に、世界を変える為、少ない時間で何かを研究している。

 それを、知ってしまったからだ。


 ある日のキャンプ、彼らは各々自分達を鼓舞しようとするものの、二人のあまりの強さにどうしても落ち込んでしまっていることが目に見えていた。

 そんな時、レインが切り出したのだ。


「ディエゴは俺を可能性だと言ったが、正確にはそれは違う。俺は殆ど完成している。可能性というのはここにいるサニィの5年間を除けばお前達を指し示す。サニィ、良いか?」

「はい。これから先を創っていくのはみなさんです」


 レインやサニィが何を言っているのか、彼らには理解できなかった。

 しかし、次に出てきた言葉は彼らを驚愕させる。


「俺もサニィも、残りは5年も無い。魔王の呪いに罹っているんだ。残り1710日程で死ぬ。俺達が強くなれるのはあと5年だけだ。しかし、お前達はまだまだ生きる。このディエゴを見てみろ。もう35歳を超えてまだ強くなっている。それはきっと、お前達も同じだ」

「はい。私達が旅をする理由は簡単です。残りのたった5年を有効活用する為。たった5年間、何もやらずには死ねません。だから、生きられるあなた達に何かを残せたらと思って、今、私は魔法の本質を研究しています」


 二人の話に騎士達は驚愕した。

 サニィは控えめだったが、レインなんかは特に性格も悪く才能だけで強くなった嫌な奴。一時期はそんなことを思っていたのだ。尤も、彼ら新人はディエゴから喧嘩を売ったと何度説明しても理解しようとはしなかったのだけれど……。


「私たちは両親も魔物に殺されてしまって居ませんので、同じことが起こるのが許せなくて」


 そんなことを聞けば、甘いことを考えていたことを反省する。

 才能だけで強かったのは自分達だった。

 厳しい騎士の訓練を乗り越え、団長に期待されるまでになったのだ。

 そう思っていた。

 しかし、それはあくまで騎士であれば誰しもが乗り超えたものだ。そこから更に何か特別なことをやったわけではなかった。 

 三人の内二人は家柄も裕福、代々騎士の名門。残る一人だけは厳しい環境で育っていたが、それでも死が確定しているわけではない。

 いつしか彼らは、そんなことすら忘れていた。騎士の栄誉に飲まれていた。


 話が終わったあと、反省をしていた新人達にディエゴは声をかける。

 

「ま、あいつらは異常さ。上にも下にも、お前達とは違う才能を持ってしまった。私達はまだまだ生きられる。彼らには続けることは出来ん。いつか抜けば良い」


 ディエゴの言い回しはともかく、新人達も流石に意図は汲み取った。

 それからというもの、彼らは驕りと迷いを捨てた。


「勇者レイン、イフリートに踏み込む時、彼らの炎を避けられません。何かダメな部分がありませんか?」

「お前は体幹が僅かに左にズレている。一先ずは剣の持ち方をこうしてみろ。お前は踏み込みが0.03秒遅い。お前は視線を下げる癖がある。マイケルはもう少し柔軟な筋肉をつけろ」


 相も変わらずマイケルと呼ぶレインを、もう目の敵のようにする者は居なかった。きっとほんの少しでも隙があれば、レインにとって彼はマイケルなのだろう。そんな、愛称なのだろう。

 彼がディエゴをマイケルと呼ぶ限り、まだ強くなる余地が残されていると言うこと。

 ようやくそれを理解した。


 ――。


「みなさん頑張ってますね。あのレベルの体術になると私には全く分かりませんけど」

「徐々にではあるものの成長してるな。精鋭なだけあって、俺が彼らに教えられる事は多くはない。ただ、考え方一つで変わることもあるもんだな」

「いつかドラゴンの襲撃があっても大丈夫ですかね」

「それはその時次第さ。お前の書く魔法書が大きな役割を果たしているのは間違いないけどな」

「もう、隙あらばプレッシャーかけてくるんだから! でも、私だって彼らには負けられません。強さだってレインさんに追いつくのが目標なんですから」


 そんなサニィの宣言を聞いて、レインは思わずはっとする。

 よくよく考えれば、村に居る頃は思ってもみなかった。

 それを今回の遠征で実感することになるとは。村にいてはレインは守護神のような存在。


「まさか俺を目指そうなんて言う人間が二人も居るとはな。でも、残念ながらそれは決して叶わん。俺もまだ強くなろう」

「あはは。私は世界を変えるんでしょ? 負けませんからね?」


 二人は更に強くなることを誓い合う。

 そんな二人は、気づいていなかった。

 ディエゴや騎士達が、そんな二人の光景を生暖かい目で見守っていたことに。

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