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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第五章:最古の宝剣
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始まりの二話

 魔物達の知識も、異人達の力も、どうやら巡り巡って剣自身の力に還元されるらしい。

 魔物対異人の構図が成立してからしばらくして、剣の知能は飛躍的に伸びることになった。


 その結果分かったことがいくつか。


 まず、一度ランダムに設定してしまった魔物や異人のシステムは、自力で解除することが出来ないということ。

 なんの事前知識も無しに行ってしまったそれは、いつのまにか人間の呼吸や心臓の様に無意識に働くものになってしまったらしい。

 一時的に止めることは出来るけれど、どちらか片方しか止めることは出来ず、下手に止めるとバランスが崩れてしまうことが目に見える。


 二つ目は、その体は剣としての姿を失って不可視のまま世界を包んでいるということ。

 散ってしまった肉体を再び剣に戻す為には厄介過ぎる条件があって、それを満たすのは容易ではないということ。

 これも一つ目と似た様なもので、後先考えずに望んでしまった結果なのだろう。分離したのも、どうやら矛盾を治める器が一つでは足りなかったとか、そんな感じなのだと予想出来た。

 念のために死にかけの人を魔物に変化させた村を作ったのも、この頃のこと。


 三つ目は、魔物や異人が死ぬと、そこから溢れ出た不可視の肉体は徐々に混ざり合い、消滅してしまうということ。

 とは言え、不可視の肉体は次から次へと湧いて出てくる様で、現状では尽きる様子はない。

 人間の細胞の代謝の様なものなのだろうか。


 そして最後、どうやら剣自身の力というものは、願いに呼応するものだということ。

 そもそも親の願いの元に意思を持っている様だし、持ち主だった狂人は、圧倒的な兵器として使おうとした。

 一人一人に勝手に応じてしまうことは無い様子だけれど、剣自身が願えばそれは殆どなんでも叶うと言っても過言では無いらしい。ただし、一度願ったものは簡単には覆らない。


 最初に願いを元にしてドラゴンを作ったのは、それを無意識に理解していたのかもしれない。またドラゴンは願いから作った為か、人の意思に応じて生まれてくるらしい。

 知能が高いせいか個性も様々で、最初のドラゴンとは違い、敵対しながらも人々を守る存在というわけでも無いのが玉に瑕だ。また、知能が高い故か、軽度の命令である大都市は狙うなという指示を無視して、勝手に人類を滅ぼそうとする者も現れた。

 それらは全て最初のドラゴンが始末してくれる為、人類が滅びることは無い。


 そんなこんなで、内に芽生えた知能を元に剣が世界や自身のことについて考える様になった頃、遂にしばらく平和だった人々の世界は再び動き始めてしまった。


 ――異人と魔物などという化け物達の勢力争いに、我々は巻き込まれた被害だ。


 そんな考え方が、人々の間で生まれ始めた。

 力を与えていない人々は、魔物に対する抵抗力を殆ど持たない。

 もちろん、死を覚悟して武器を取れば倒せることも多いし、全滅することは決してない様に調整しているはずなのだけれど、彼らは全くそれをしなかった。

 遂には日夜命を賭して戦い始めた異人達を、彼らは街中に迎え入れること無く弾劾し始めたのだ。

 そんな運動は、瞬く間に世界中に伝染した。


 人間の愚かさと結束力を、まだ甘く見ていた。


 素直に、そう、思った。

 剣にはまだ、人の心は分からなかった。

 人を殺して芽生えた自我故か、自身が人を殺す剣であるが故か、剣は死に対する抵抗感が非常に低い。

 それは魔物も同じなのか、異人を殺すと、二つに分かれた剣の肉体が混ざり合ってしまい、死ぬことが分かっていても喰らい始める種族というのも生まれ始めていた。

 そして剣自身、それを代謝か何かだと勘違いしていたのだ。


 剣は悩んだ。

 人と人が争わない様にと魔物を作ったと言うのに、結局は人同士が争い始めてしまう。

 もしも全員に肉体を分け、全員を異人としたとすれば、全員が魔物と戦ってくれるだろうか。

 そう考えて試そうとしてみると、既に自動化して叶った願いは変えられなくなっていた。新たに自分自身の意思で異人を創り出すことは、不可能になっていたのだ。


 剣が生まれた理由である願いはあくまで人の為のもの。

 異人を生みだすというだけでも大き過ぎる願いだというのか、それ以上は過干渉となってしまうのか、理由は分からなかった。


 それからしばらく考えた後、肉体が半分に分かれた事で、それぞれに出来ることの質が大幅に落ちてしまったのだと、剣は結論付ける。

 僅か三振りで大陸を割ることなど、到底不可能だと思えたからだ。


 そこで考えた作戦は、人間とは違い、自らが作った魔物に干渉するという方法。


 世界には、その時二匹の頭抜けた魔物が居た。

 一匹は、最初に作った魔物である翡翠竜。150mの体躯と高い知能、そして人間寄りの思考をする傑作。

 本能では魔物らしく人間を敵として認識しながらも無駄な殺しをせず、戦争の仲裁をしたり、時には人類の強大な壁として立ちはだかる、精神的にも人間を超えた大物。


 そして一匹は人に取り入る女狐。本体の戦闘能力は大したことが無いにも関わらず、人々に取り入って内側から瓦解させる、愚か者。

 人々の争いを無くすのが目的のはずが、この女狐の行動は、人々に争いを齎らす原因になっている。

 それでも、崩壊した国家の次に出来る国家は何故か民が愚かな王の二の足を踏ままいと結束するのだから、処分するにも困ってしまう問題児。

 この二頭が、現状の魔物達のトップだった。


 最初の試験に使うのは、より優秀な者の方が成功率が高い。愚かな方を使った結果失敗し人間を滅ぼす結果になってしまえば、魔物どころか剣自身の存在意義が無くなってしまう。


 考えが纏まれば、実行に移すのは迅速だった。

 

 優秀な翡翠竜を操り人形へと変質させて、人々を襲わせる。

 存分に被害が出た辺りで、必死に迎え撃って来た人々の連合軍、特に異人に仕留めさせれば、異人は讃えられ、魔物の脅威は強く認められ、人と人との争いは強制的に無くなるだろうという、賭けにも似た愚かな試み。

 魔物に都市を襲わせる設定を加えてしまえば勝手に滅ぼしてしまうかも知れないが、自身が操るのならば安心だ。

 人類の考え方を思えば、勝算はあった。


 化け物の勢力争いなどと言われる理由は、大半の魔物は都市は決して襲わず、魔物達の元へ異人達が出向いては戦うことが殆どだったことが理由だろう。

 都市を襲おうとするドラゴンも、優秀過ぎる翡翠竜に阻止されてしまえば、何も出来ない。

 ならば、異人が居なければ人類は滅びるのだと、彼らの心に刻み込んでやろう。

 

 そんな、安易な案だった。


 本当に平和を望んでいる人々からしたらたまらない、これ以上に無い盛大なマッチポンプ。

 それでも、人を殺して目覚めた剣は、殺す以外の平和の造り方を、何一つ知らなかった。


 だから、願いの力で、干渉出来る限り、魔物の肉体と精神を変質をさせていく。抵抗を続ける翡翠竜をゆっくりとゆっくりと。

 それは大陸を割るには程遠い力なれど、本当に人類を滅ぼせる力を纏わせて、盛大に散らせる人類の天敵。

 ちょうど都合も良く、強く干渉すれば魔物達は活発になる様だった。不可視の肉体の半分を意識して使うのだから当然かもしれないが、僥倖だった。

 弱い魔物すら、一時的に都市を襲い始める様になったのだ。


 そうしてしばらく。完全に支配権を得た頃、竜を操った自分は名乗った。


 定期的にやるつもりの一匹目、ならば。


【我は緑の魔王。滅びろ、愚かな人間どもよ】


 渾身の演技で一国を火の海へと沈め、滅ぼした。

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