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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第四章:三人の旅
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第百五話:幸福の妖精

 事件から1ヶ月と十日、クラウス達三人は遂に旅立つことを決めた。

 その理由は簡単で、一人の英雄がこの村を訪れることが決まったからだった。

 それが誰なのかという情報は無かったが、恐らく友好国であるルークやエレナだったり、もしかしたら母が来るのかもしれないと思って、クラウスはその部分の追求をしなかった。

 ミラの村からブロンセンはそれ程遠い訳ではない。

 事件に関わってから定期的にやりとりしているオリヴィアが来たとしても、何もおかしくはなかった。

 人々にも次第に笑顔が増え、惨劇からの復興としてはそれなりに順調な様だった。


 一つ問題があるとすれば、サラはいつのまにか女神が遣わした救世主で、クラウスはその従者の様に思われ始めていることくらいだろう。


 ただ、サラはそれを恥ずかしそうに否定していたものの、クラウスはそれを否定しなかった。

 信仰に身を置くのは人々の心を支える上で、時に大切な役割を果たす。

 その信仰対象が自分達というのはもどかしいものの、それで惨劇から少しでも心を癒すことが出来るのなら、喜んで従者になってやろうと考えていた。


 尤も、それはレインが聖女の従者の鬼だと言われていたことと自分を重ねて少しばかりの自己満足が混ざっていたのだけれど。

 何より畏怖の視線はいまだに残るものの、単純な恐怖を感じられることは無くなったことがサラの天使化の影響なのだとしたら、それは喜ばしいことだった。


 ついでにいつも笑顔を振りまいて走り回っていたマナは幸福の妖精などと呼ばれて、灰色と青の飾りが各家々に飾られることになるのは、これから更に1ヶ月ほど後のこと。


 そんな少々の予想外な展開もありつつ、三人の旅立ちには村人達は総出で見送りに来るのだった。


「それじゃ、また様子を見に来るね。マヤ、ソシエ、しばらくこの村を守るんだよ」


 サラの言葉に大きく頷くマヤは、クラウスに習ってその力を少しだけ伸ばしていた。

 身体能力がそれ程高くないマヤはクラウスの教える技術にはあまり適応出来なかったものの、一つだけ飛び抜けて得意なことがあった。

 どうやらマヤは的確に相手の苦手な部分を突くことが出来るらしい。

 しかしそれは考えて動けばそれ程高くない身体能力が邪魔をしてかあまり役に立たず、逆に本能に任せて戦うと的確に弱みを戦えるというもの。

 野生児だね、なんていうサラの言葉を受けつつ、マヤは最終的に身体能力を伸ばすトレーニングに全てを注ぐこととなった。

 結果的に一ヶ月後の今では勇者としてはギリギリ一流か、少し下といった所。

 後は身体能力の成長次第ということで、クラウス式のトレーニングを日々必死になってこなしている。


 控えめに頷くソシエは、サラに修行をつけて貰ったことでブリンクをマスターした。

 開発されてから20年以上経っても簡単にイメージ出来ず、マナ効率か悪過ぎるという理由で殆ど使用者が居ないこの魔法を、マヤは父から教わった理論をそのまま話した所、あっさりと成功させてしまったのだ。

 空間を跨ぐこの魔法をマスターしたソシエは、格段にその機動力を増すことになったことで、結果的に本能だけで戦うマヤに合わせて場所を変えることで、常に的確なサポートがこなせる様になった。


 その為、二人の見事な連携による戦いはいつのまにかデーモンを遥かに超え、あのドニ位ならば倒せてしまうのではないかという程になっていた。


「クラウス、これが連携だよ。分かる? これが正しい連携」


 二人の戦いを見たサラのそんな言葉にクラウスが傷付いたのはともかく、マヤとソシエはこのミラの村をしばらく守護してもらうには十分な戦力となっていた。


 そんなこんなで、三人は復興の進むミラの村を後にして、海へと向かった。

 西にブロンセンがあるのに対して、向かったのは東側。

 南の大陸に向かう船はそちらからしか出ていない。

 転移の魔法がある現在では、大陸間を渡る船は極端に少なくなった。

 海には少ないながらも魔物が生息しているし、そうでなくとも非常に危険な船旅をわざわざ選んで大陸間を渡る者は元より相当な変わり者。

 今では転移が出来る魔法使いが一人必ず乗組員に入っている為それ程危険は無いものの、転移よりも値段も高い上に時間かかかる船旅は人気が無い。


 もちろんクラウスは、そんな船旅を進んで選んだ変わり者だった。


「レインとサニィはクラーケンやらリヴァイアサンやら色々倒したみたいだけど、僕達は何を倒すことになるのかな」


 そんな風にわくわくして見せるクラウスを見てマナもテンションが上がっていなければ、サラは一人転移で大陸を渡りたいと思っていた所だった。


「私、船酔うんだよね。酔い止めの魔法に全力だから何かあったら頼むよ……」


 当然そんな『何か』はすぐに起こることになるのだけれど、サラはどうでも良いやと投げやりな気持ちで、船室に横になるのだった。

 その様子はつい先日までの天使サラとは真逆で、クラウスはついつい笑ってしまう。

 しかしそんなクラウスに鉄槌を落とす元気も無く、サラはうーと唸るだけだった。


 ――。


「私の故郷、朧気な記憶とは随分と違うな」

「そりゃ、30年経ってるんだ。同じな訳が無いだろう」

「いやー、それでもさ、良い記憶は無いにしろ、ほんの少しでも懐かしいって思いたいものよ。でも、久しぶりの故郷の感想言って良い? 何処だか分かんない、だよ」

「うーむ。ずっと城と漣っていう変わらない所で生きてきた妾には難しい感覚だな」

「なんか、久しぶりにサンダルさんを見たら熊みたいに毛だらけだった、みたいな」

「全く分からん……」


 ちょうどサラが倒れ始めた頃、ミラの村には、一人の英雄とその友人という立場の二人が久しぶりの場所にやって来ていた。

 忙しい友人を連れて来るのは申し訳ないと思いながらも、新しく入った新人に少し関係のあるこの故郷を一度見ておくことは必要なことだと思ったから。


 英雄エリーは、30年ぶりに生まれ故郷であるミラの村へと足を踏み入れた。

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