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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第四章:三人の旅
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第九十八話:森の中

 すっかりと打ち解けた女性陣に比べて、一人蚊帳の外になっているクラウスは既に別のことが気になり始めていた。

 それがたとえ強がりなんだとしても、サラに向けて笑顔も見せ始めているミラの女性達ならば、一先ずはこの先向かい合わなければならない現実にも手を取り合っていけるだろう。

 そんな風に見えてとれたからだ。

 しかし一方で、クラウスが気になり始めていることは、クラウスの目では当然見ることの出来ないものだった。


 クラウスは恐る恐る女性陣に近づくと、彼女達を先導しているサラへと声をかける。


「サラ、マナはちゃんと無事なんだろうな?」


 そろそろミラの村にマナを寝かしつけて13時間程が経過している。

 森は既に真っ暗で、サラの魔法が無ければ一寸先を見ることすら叶わない漆黒。

 もしも魔法を使わなければ木々のざわめきと動物の鳴き声だけがそこが森だと主張し、随分と恐怖に駆られるだろう状況だ。

 そんな中でも、女性陣は休むこと無く歩き続けていた。

 サラの魔法でのサポートと、彼女達の村へと帰りたいという思いが、一時的に疲れを忘れさせているのだろう。

 それに比べてマナは、一人放置しているのと殆ど変わらない状況だった。

 一応は低級の勇者だという一人の青年が隣にいるものの、眠っているのだから居ないも同然。

 加えてマナが眠れば魔物が寄ってくるこれまでの状況を考えれば、無事とは言えないまでも人名を救出できた今、クラウスにとって最優先すべきことが変わるのも当然だった。


 その質問に対して、サラは笑顔で答えた。


「大丈夫だよ。私の森だからなんとなくならずっと見えてるし、パパ達を呼んできた時にも目で確認してきたから。寝言でドラゴンのハンバーグおいしーって言ってたよ。一応体調管理の魔法もパパがかけてくれたし」


 勇者よりも思考が多く体力も無い為疲労が溜まりやすい魔法使いにも関わらず、サラはこれまで一切疲れた様子を見せていない。

 本当はかなり疲れているだろうことは顔色を見れば分かるが、それでも女性達を心配させない為にか笑顔を振りまく。

 それまでは除け者にされた疎外感を感じていたクラウスだったが、それを見て考えを改める。


「……そっか。なら、ここらで一度休憩しようか。みんなも気付いていないだけで相当な疲労が溜まっているはずだ。帰ってからも大変なことは多い、少しでも気を落ち着けたほうが良いだろう」


 自分でも以外なことに、サラが大丈夫だと言うのなら大丈夫だと素直に思えることに気付く。

 ハンバーグはともかく、きっちりと寄って見てくれたこともありがたい。

 転移のポイントである花の川はミラの村付近にしか無いのだから、そちらの方向からサラが両親と飛んで来たことは見ている。

 クラウスを置いてあの場からすぐに転移していった理由はそこにもあったのだと思うと、頭が上がらない思いだった。

 結局自分はただ少し盗賊村を恐慌状態に落とし入れただけ、それ以外は全てサラがやってくれている。

 その上で、そんな笑顔を振りまけるのだ。


 相変わらず、この幼馴染には戦闘では勝てる様になっても勝てないな、とクラウスは思う。


 そしてサラはそれを聞いて、素直に頷いた。

 一応、休むけどマナは見ないといけないから眠っちゃったら起こしてね、と一言断って。

 サラが休憩を皆に進言したことで、女性陣も一斉にその場に腰を下ろしていく。

 皆もサラが疲労の中頑張っていることと、自分達も本当は疲れていることを自覚していたのだろう、一人一人と、サラのライトが薄明かりを照らす中、眠りに落ちていった。


 ――。


「クラウス様」


 木の上に登り周囲を警戒していると、足元からそう名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

 サラは見える位置でぼんやりと気を抜いている。

 サラではない誰かの声、聞き覚えはあったが誰か分からず下を見ると、木の根元には旅人の片方、勇者の女性が立っていた。


「えーと、どうしました?」


 サラは気さくに話しかけていたが、怯えられていた記憶しかないクラウスはどう返して良いか分からず思わず敬語になってしまう。

 歳は少し上程度に見えるのでそれでも良いのだろうが、サラを見る限りは間違っている様な気がしなくもない。


「え、と、ですね。私も勇者なので体力は全然大丈夫でして……」


 共に見張りをするということだろうか、と考えていると女性は恐る恐る言葉を続けた。


「あの、怯えちゃってごめんなさい。クラウス様も、英雄の子ということでしたのに……」


 きっとサラが話したのだろう。

 思い返せば、紹介の時に私達(・・)は、と言っていたことを思い出す。

 その先が続かないことを考えれば、誰の息子なのかまでは聞いていないらしいけれど、流石にクラウスからそれを言うことは出来ない。

 母は、英雄としては死んだ人間。

 今は普段はどこにでもいる宿の美人仲居で、時に国の軍事特別顧問。

 そんな変わった職業の、一般人だ。


 そのまま、しばらく無言が続く。


 今までのクラウスの周囲の女性たちは皆堂々としていて、むしろ来て欲しくない所にも踏み込んでくる様な、強引な女性ばかりだった。

 そんなクラウスが突然恐る恐る話しかけられるというのは、完全に想定外の未知の領域。

 何か会話をしなければという妙な使命感が、いつの間にやら口を動かし始めていた。


「え、えーと、……そう、そう言えば、なんでサラを知ってたんですか?」


 そんなクラウスの頭からふと浮かんだ質問には、予想外の答えが帰ってきた。

 いや、クラウスにとって予想外だっただけで、よくよく考えればこの国では当然のことなのだろう。

 世間から隔離されて育ったクラウスが、その人気を知るはずもない。


「サラ様がエリス殿下を破ったというのは、その日の内に国内のほぼ全員が知ってたはずですよ。殿下の参加理由も、誰かに負けたからだって」


 思えば、当然のことだ。

 転移の魔法によって少し呪文を唱えれば、世界の反対まで行ける世の中。

 そんな中でも特にここグレーズ王国は聖女の出身地なだけあって、転移先である花の川が最も多く張り巡らされている。

 情報がまわる速度は、クラウスが思うよりも速かったのだろう。


「……そういえば、サラは勝っちゃいましたね、殿下に」


 あえて、参加理由の方には触れず答える。

 しかし勇者の女性は、そこの追求を止めなかった。


「殿下の参加理由って、クラウス様に負けたから、ですよね? もしかしてクラウス様って……」


 それにクラウスは答えなかった。

 目の前でデーモンを素手で屠るという、この女性勇者が手も足も出なかった青年を仕留めてしまったのは事実だし、違うと否定したところで、サラがクラウスも英雄の息子だと言った時点で信憑性が無い。

 ところが、次にその女性が口にした言葉は、クラウスが全くもって想定していない突拍子も無い言葉だった。


「あの……、怒らないで欲しいんですけど、クラウス様って、あの英雄レインの息子さん、ってことはないですか?」

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