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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第四章:三人の旅
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第八十九話:信頼

「村の広さは約180m四方。一見小さな集落ね。でも、人の数は……57人で、内18人が地面より下に居る」


 二人は村近くの木陰に身を隠し、村の様子を探ることにした。

 村ぐるみの陰謀ということで、ただの盗賊団相手よりも慎重に調査を進める。


「地下に空間があるのか」


 それならば、以前泊まった時にあまりうろうろするなと言っていたことも頷ける。

 見た端から問答無用で瞬殺していくだろうレインや、マナを把握出来る聖女なら、こんな遠回りをしなくても済むのだろうと思いながらも、サラと情報を共有する為にあえて細かく訪ねていく。

 その意図を汲んだサラもまた、事細かに状況説明を始めた。


「うん。……ダメだ。地下は魔法阻害のイメージがあるのか、いまいち把握しきれない。でも地上は私にとって丸裸。49人の内、村人……いや、盗賊は47人。2人は連れてこられた人だと思う。両方女の人。縛られて、お香の様なものが焚かれた部屋に裸でいる。意識はある様だけど抵抗する素振りがないから、お香には何か催眠効果のあるものが使われてるんだと思う。

 47人中男は41人。もしかしたらウアカリの様にとは言いたく無いけれど、男の割合が極端に多い村なのかも知れない」


 建物がサラの得意な木造ということもあるのだろう。丸裸と言った通り、詳細な状況が伝えられると、クラウスには再び怒りがこみ上げて来ているのが分かる。


「……なるほど」

「怒るのは分かるけど、先走らないでね。虚脱状態にある人達も、きっとママなら治せるから」


 女が少ないからと言って、他の村を滅ぼし女を奪うのは、魔物と全く変わらない。

 これまでどの様に隠れのびて来たのかは知らないが、それもここまでだ。

 クラウスはあえてそう考える。怒りのままに身を任せるのではなく、敢えて正義を語る。

 隠れている今素振りはできない。英雄に憧れるクラウスならではの心の落ち着かせ方をして、再びサラを見る。


「ああ、分かってる。戦力は分かるか?」


「マナの感知は出来ないから分からないけど、地下室の入り口に居るのは魔法使いだね。地下室を覗かれない為の呪文を使ってる。一人でずっとやるのは無理だろうから、2人以上いると思った方が良いかな。うーん、妙にしっかりとした指輪を付けてるのが居るな。これは魔法使いっぽい。武器は各家に何本もあるから、どれが勇者かは分からない」


 地面に俯瞰図を描きながら、ポイントを記していく。いくつも付けられた点の一つ一つが盗賊で、そこに印を重ねて行く。

 配置を見て、ウアカリの逆だと想定すれば、割合は恐らく勇者の方が多い。


「なら、少なくとも魔法使いが5人と、残り全員デーモン級の勇者の想定で行こう」


 今のクラウスならば、ドラゴン級でもいない限り負けることはあり得ない。

 クラウスの言葉を聞いて、サラは少し前のことを思い出した。

 地元の男の子に告白された時。

 なら戦おうと答えて、ちょっと不意打ちしてみたら直ぐに膝を付いて怒って来たから、私の好きな幼馴染は油断していても負けない様に育てられた、と答えた。

 そうしたら、そんなことはあり得ないと言われた時のこと。


「それはちょっと死人が出そうだね……」


 実際にどの位なのかは分からない。

 分からないけれど、デーモン級よりも強い勇者なら問題は無いが、デーモン級よりも弱ければ殺してしまうかもしれないという矛盾した不安。

 油断していても負けないクラウスは、逆に言えば手加減が下手くそだ。

 相手の強さは見極められても、相手の弱さは見極められない。

 生まれた時から強者となることが決まっていたクラウスの、変えられない才能。


「地下を隠蔽してる魔法使いも、それほど大したことはないよ。呪文まで唱えっぱなしなのに私に人数だけは筒抜けなんだから、デーモンより遥かに弱い」


 魔法は呪文を使ったものが最も効果が高い。

 それにも関わらず一部サラに見抜けるということは、その力は強くは無いということ。

 恐らく、地下に囚われている人達の洗脳か何かが完了するまでは誰にも悟られない様にと隠蔽しようとしているのだろう。

 地上に連れ出されている二人は、その前に捕まった者達か、つまみ食いのつもりか。

 どちらにせよ、魔法使いはその程度。


「英雄級には対抗しようも無いレベルってことか。なら逆に殺さず無力化は、僕には難しいな……」


 強いなら問題無いが、弱いなら手加減が難しい。クラウスはそれを自分で自覚していた。

 いくら正確な剣も、手加減が出来なければ正確に仕留めてしまうだけ。

 つい相手の回避距離を想定して踏み込んでしまう。

 そんな癖が付いているクラウスは頭を悩ませた。

 

 すると、サラはふと何か思い付いた様に提案した。


「それなら、私が種を植えよう」

「種?」

「そうそう。ママが開発した唯一の魔法でね、指定した条件と一致すると強度を増すってのがあるの。世間には発表してないし、ママもそれを広めることには興味無いから私の家族しか使えない魔法なんだけど」


 そもそも、その魔法が作られた理由はたった一人の為で、今更新しい魔法を発表したところでそれほど意味は無いのだけれど。

 そんな内心は隠しつつ、サラは人差し指を立てて解説する。

 理論も何もすっとばして、いきなりイメージ出来るエレナだからこそ作れた魔法。現代の理論重視の人達では恐らく習得に年月がかかる割に、使うのに随分と手間がかかる魔法だ。


「それは興味深いな……」

「一番上手く使えるのはママで、私もパパより上手いんだよ。唯一パパに勝てる魔法かもね」


 勝利の魔法はサラのオリジナルだけれど、それには元になったルールがある。

 そしてそのルールに、勝利の魔法は一切の効果が無い。

 幸いにも、クラウスは先の言葉に対して、「おお、凄いなサラ」と嬉しそうに微笑んだだけだった。


「さて、今回は逃げ出したり人質に危害を加えようとしたら急速に成長してその人を捕縛する植物の種を全員に植え付ける。気づかれない様にするにはデーモンレベルは少ししか動きを封じられないけど、それより少し弱い程度なら一切身動き取れない様な奴ね」


 サラの人差し指を立てた自慢げな様子で説明すると、クラウスは一瞬考えた後、はっとして納得する。


「……ああ、なるほど。手加減が難しいなら、いっそのこと一切の手加減をしないで良いってことか。本当、サラが居てくれて助かるよ」


 クラウス一人では、なるべく早く突撃して制圧するのが最良の選択肢。

 ひっそりと侵入するなら騒がれない様皆殺しにしなければいけないし、とてもでは無いが誰も殺さずに制圧は難しい。

 それが、優秀な魔法使いが一人いるだけで、全く違う戦法が取れる。

 しかもクラウスがやる事は、何よりもシンプルだ。


「ふふふ、私とクラウスなら絶対大丈夫って言ったでしょ。だからクラウスは、想定よりも強い奴が居たらそいつだけお願いね。地下の人達は私がなんとかするから」


 そして優秀な戦士が居れば、魔法使いもまたその力を存分に発揮出来る。

 サラもまた、自分の仕事以外は全てクラウスに任せておけば安心だ。


「了解」

「それじゃ、早速準備に取り掛かるから少しだけ待ってて」


 二人で大きく頷き合って、サラは早速全ての村人に種を植え付ける準備を始めた。

クラウスが手加減が苦手な理由も後々出てきます。

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