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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第四章:三人の旅
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第八十八話:盗賊達の拠点

今更ですけど三部のテーマは人です。

 クラウスはただ生きているだけで成長する。

 本人は決して気付かないそんな事実と、新しく加わった力。

 勇者がにおいで分かって追跡出来るなんて、まるで優秀な犬みたいだ。

 なんてことを思いながら、サラは前を走る幼馴染の様子を観察していた。


 まず一目で分かるのは、静かに怒っているということ。

 先程から森の中はざわざわと落ち着かない。

 それはクラウスの静かな怒りから来る殺気を、敏感な動物達が肌で感じ取って逃げようとしているからだろう。

 

 この様子は犬と言うよりも、熊かな。

 獲物をみかけた途端に走り出しそうだ。

 幼馴染が怒りに震えている分なのか、元々の性格なのか、サラは冷静だった。

 地面に鼻を押し付ける様子もなく、ただ歩きながらにおいを感じ取る様子は犬よりも嗅覚が鋭い熊により近いし、肉食動物の中では最大種なのも、何処かクラウスの威圧感に似ている気がする。

 それに、幼馴染である自分にしか分からない程に表情が変わらないのも、また表情筋の少ない熊に近い。

 なんて下らないことを考えられる程度には、サラは落ち着いていた。

 ただ、落ち着いているからと言って拭えない心配もある。


「クラウス、落ち着いて。もうちょっと殺気を抑えないと、遠くからでも盗賊達に気付かれる可能性あるから」

「……確かに、さっきから動物達が逃げてるな」


 クラウスが周囲を見渡すと、再びざわざわと森そのものが警戒しているかの様な音が聞こえてくる。

 その目は完全に、獲物を狙う肉食獣のそれだ。


「うんうん。ほら、心強い私が居るから、失敗はあり得ないから。ね?」


 そう、敢えておどけて言ってみせるサラを見て、クラウスは今の自分が少し冷静さを失っていることに気づいた。

 普段なら何を言っているんだ、とツッコミの一つでも入れたいサラの言葉が、逆にいつになく真剣で、少しの心配を孕んでいる様に見えたからだ。


「ふう、……そうだな。今は一人じゃなくて、サラが居る。敵は殲滅では無く捕縛。そして何より優先すべきは、人質の救助だ」


 下手に刺激して絶対勝てない戦力が来ると思われれば、生き残りの人質も皆殺しにあってしまう可能性がある。

 盗賊達の主な目的は非合法の人身売買だろうが、それも盗賊達が商品として扱えばこそ生きていられるはず。

 自らが死ぬのに商品を大切にする様ならば、そもそも盗賊などに落ちぶれないだろう。

 救出に向かった結果、手を拱いている内に人質が全滅、なんてこともしばしば起こる世の中だ。

 それでも、最近は魔物に対する戦力が減ったことで盗賊被害は割と落ち着いてきたらしいのだけれど、少し油断していれば平然とこんなことが起こりうる。

 相手は魔物ではなく、思考力のある人間。

 それも、後先を考えない無法者だと考えれば、冷静さは何より大切だろう。

 改めてそれを考え、足を止めてサラを見る。

 そして、油断では無いけれど素振りを三回。


「……よし、落ち着いた。ここからは並んで行こう。においも大分濃くなって来てる。あっちの方角を探知してみてくれないか」

「りょーかい」


 言葉通り、クラウスの様子が落ち着きを取り戻したのを見て、探知を始める。

 既にクラウスの速度に合わせて2時間程移動している。

 盗賊達は随分と前からミラの村を狙っていたのだろう、それだけ歩いて、ようやく探知に人の集団が引っかかる。


「大体7kmくらい先かな。まだ遠いから詳しくは分からないけど、あれは人の集団だと思うこの付近に村ってある?」

「……あるな。あんまり愛想が良くない村だったけど、王都に向かう途中で一度寄ったことがある」


 確か、母オリーブが王都へ向かう道中の中継地点として一度だけ立ち寄った村。

 国の要請だから泊めるのは仕方ないが、余所者はあまりうろちょろはしないでくれという割と排他的な村だった。

 英雄は人を救いなんかしない、俺達の生活は聖女だろうが魔王だろうが現れても何も変わらない。

 そんな声が漏れ聞こえて来た村だった。


 嫌な思い出は記憶に残りやすい。

 たった一度のそれだけで、オリーブも以降は別のルートを通る様になったものの、クラウスはそれを良く覚えていた。


「なるほど、村ぐるみ……」


 あのお人好しの英雄、オリヴィアがたった一度だけ立ち寄っただけで近づかなかったということは、きっとよっぽど嫌なことを経験したんだろう。

 そう口にしそうな所を、サラはなんとか抑える。

 もしも口にしてしまえば、隣のマザコン幼馴染は速やかに血の海を作り出してしまうことが想像に難くない。

 

 全く、厄介な幼馴染もいたものだ。

 それはお互い様かも知れないけど。

 そう小さな溜息を吐いて、二人並んでその村へと向かった。


 そこは、割と小綺麗に整備された村だった。

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