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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第三章:王妃と幼馴染
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第七十二話:サラ対エリス

 困ったな、とサラは思う。

 答えられたらかからないと言うのは嘘にしろ、一度破られれば少なくともその戦闘中は勝利の魔法は使えない。

 動揺して負けることはないけれど、確定していた勝利を白紙に戻されるのだから、使えなくなるのは当然だ。

 幻術は使えるけれど、それほど上手くはない。

 比較対象があの悪夢なのだから仕方ないにしても、勝ち負け以外のネガティヴな精神系の魔法を相手にかけるというのはサラには抵抗があった。

 それはきっと、英雄の娘として生まれてしまったからだろう。

 少なくとも両親は、サラにとって誇りだった。

 十八歳になってもパパママなんて呼んでしまうくらいには偉大な両親で、自分はその娘であり続けたい。

 そんな意識が、サラがエレナの様な戦い方を出来ない理由。


 いつかエレナが、サラはどちらかと言えばルーク似だと言ったのは、それが理由。


 母の様に好きな人が居ればあとはどうでも良いという所までは突き詰められない。

 両親の素質を引き継いでいるなんて言われても、どちらも共中途半端と言えば中途半端だ。

 唯一の精神魔法はただ勝利を確定させるだけのもの。

 それは母にすら出来ないらしいのだけれど、だからと言って母に効くかと言えば、あの悪夢が相手ではもっとシンプルにやる気を削がれてしまう。

 それでいてそれ以外の魔法も、父には敵わない。

 両親は聖女に祝福を施されている為に魔法の出力そのものがそもそも桁が違う。本人達は改造魔法使いなんだ、なんて冗談の様に言うけれど、だからと言って同じ出力でも父の巧さには到底及ばない。


 ただそれでも、サラは両親が持っていないものを持っている。

 それは英雄である両親と、父には無い精神魔法と、母には無い大規模魔法だ。

 例え器用貧乏であろうと、それがサラのアドバンテージ。

 必勝の手段は既に消え去ってしまったけれど、それがどうした。

 そんな風に開き直ってみる。

 エリスの強さは恐らくここからが本番だろう。

 宝剣も白黒の方【ことりぺんぎん】しか使っていなかった。

 前三戦では一度も使っていなかっその能力は、幸いにも両親が英雄であるおかげで把握している。

 もう一本は【天霧】で、ただただ高い斬れ味と高い耐久性。

 ことりぺんぎんにも蔦が斬られたことからして、天霧には蔦では効果が無いだろうと予測出来る。


 さて、どうやって勝とうか。


 まだ何も決まっていないけれど、と思いながら、そろそろ踏み込んできそうなエリスを警戒する。

 幸いにも二手目でジャングルを顕現させることが出来た。

 エリスがクラウス並みなら詠唱を完了するまでに勝利の魔法も破られて詰められていたはずだけれど、そこまでではないらしい。


「よし、決めた。ジャングルは私の、たまらんタマリンのフィールドだ。エリスさん、勝たせて貰いますよ」

「それは私のセリフ。行きます!」


 ――。


「何も見えないな。エレナさん、分かります?」


 見えていないだろうに「お母さまー!」「さらー!」と応援する少女二人を横目に見つつエレナに尋ねると、「うーん、良い試合」と満足気に頷いている。


「サラはジャングルを使っていつもみたいに。エリスちゃんは遂に宝剣の力を使い始めたわ。うーん、殺して良いならサ――」

「ちょ、子どもが居ますから」


 器用に二人には聞こえない様にしているのだろうか、子ども二人は反応しないながら、遮っても言い切るのを聞いてしまう。

 生死問わずなら、サラにチャンスはいくらでもある。最悪森そのものを閉じて燃やしてしまえば良い。

 なんてめちゃくちゃなことを言っている。

 ついでに、抜け出しちゃうかもだから息の根が止まるまで気は抜けないけど。などと余計なことを言いながら、状況を説明し始めた。

 

 ――。


 サラにブリンクのイメージは少し難しい。

 あの空間跨ぎの瞬間移動は未だにルーク専用と言って良い魔法だ。流石に30年も経てば世界で出来る者も出てきているが、それを実践レベルで使える者はまず居ない。

 余裕がある時ならまだしも、無い時には逆に敵が近くに見えてしまい引き寄せてしまうという悪影響をもたらしてしまう可能性がある。

 魔法は完全に制御しきれなければ、いつ妙な悪影響を与えてしまうか分からない。

 その為ブリンクを戦闘中に使う者はルーク以外にも何人か居たものの、その殆どが戦闘中に命を落としてしまっていると言う。

 サラもその例に漏れず、集中していれば使えるものの戦闘中に平気で使える程には習熟していない。

 図太いサラは使える場合と使えない場合の境目を明確に判断出来る為に、まず戦闘中に使うことはないが、一つの例外がある。


 それは、ジャングルの中に居る場合だ。

 聖女の遺品であるタンバリン、サラの魔法道具【たまらんタマリン】はどうやらジャングルで手に入れたものらしく、それに関連したものと抜群に相性が良い。

 聖女の遺品は、それ自体が宝剣の様に力を帯びているらしい。

 その奇妙な名前が付いているタンバリンはまず、それ自体が再生能力を持っている。

 魔法使いに勝つ方法はいくつかあるが、その中でも特に確実なものといえば魔法道具の破壊。

 魔法道具はアンプの役割を持ち、これを破壊された魔法使いはまともに魔法を使うことが出来なくなる。


 しかしそれは、サラにだけは通用しない。

 再生の魔法がかけられたそのタンバリンは破壊されても元に戻り、幼少の頃からそれで遊んでいたサラはそのタンバリンと深く同調している。

 それはつまり、サラの特殊な魔法の一つに自己再生があるということ。

 サラはタンバリンと相当な距離を開けない限りは、自分の傷を自動的に癒していく。

 魔法使いながら極端に近接戦闘が強い理由はここにある。


 そしてもう一つ、ジャングルで手に入れたと言われているこのたまらんタマリンの特殊な力は、ジャングルでの戦闘を特別有利に進める力を有している。

 それは、ジャングル内の戦闘ではサラが使える魔法はほぼ最高の状態を維持して使えるということを表している。

 普段は使わないブリンクもジャングルの中でなら自由に扱えると言って良い。


 しかしそれでも、戦況はサラ有利とはならなかった。

 エリス・A・グレージアは、流石に英雄達が認めるだけのことはある。

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