第五十九話:マナの中では
第二試合第三試合と、戦いは続く。
この世界最強決定トーナメントは第一回戦を一日十六組試合を行い、四日かけて一回戦を終え、五日目、六日目に第二回戦、その後は毎日一回戦ずつ行う。
年に一度とは言え、計十一日間をかけて行われる大規模な祭りだ。
敢えて祭りと言い切ってしまうのは、これの目的は世界の年々低下する勇者出生率に対して減らない魔物に対する人々の士気を上げる為。
出場選手は128名中75名が魔法使いで、残り53名が勇者となっている。
魔法使いと勇者の比率は年々魔法使いの方へと傾いていくが、いつものベスト4の内3名は勇者。
それもあって、最近は毎年の様に勇者か魔法使いどちらが優秀なのかという無駄な議論は盛り上がりを見せている。
実際のところ、一回戦だけを見る限りではどちらが優秀なのかは分かりづらいものだった。
遠くにいる間に完封すれば魔法使いの勝ち、なんとか近づくことが出来れば勇者の勝ちというパターンが大半を占める。
それは当然のことで、魔法使いは如何に距離を取るか、勇者は如何に距離を詰めるかが戦い方の基本で、多少は短調になってしまうのも仕方ない。
しかし、少しだけ面白いことがあった。
それは真円ではなく楕円形であるということ。
アリーナは長径が80m、短径が57mに設定されており、二人は長径側の50m離れた位置から戦闘を開始する。
これはある程度の戦略性を想定した設計ということで、短径側では距離が近くなる為勇者が有利と言えば有利なのだが、カーブが緩い為回避も多少容易だ。逆に長径側では距離が取れる為に魔法使いが有利と言えば有利にはなるが、追い詰められた場合にはカーブがキツくなっている為に脱出が難しい。
とは言え勇者でもサンダルの様に距離が稼げる方が有利な場合もあれば、魔法使いでも短径側の方が得意な者も居る。短径でも60mもの距離があるのでそこまで大きな効果は無いまでも、人によっては位置取りを重視する者も居る為に必ずしも近づけば勇者、離れれば魔法使いとはならないのがこの闘技場の特徴だった。
場所によってはアリーナの中に四本の柱が立っていて視界を遮ることが出来たり、段差があったりする場所もあるらしい。
今の魔法使いならばすぐに直せるという力の孤児の目的もあるのかもしれないが、ともかくエンターテインメント性にも優れているということで、会場の仕様に関しても注目が集まる。
ベラトゥーラの闘技場は、その中では最もシンプルな内の一つ。
実はそれはベラトゥーラ出身の魔法使いルークが居る為で、ルークは大規模な魔法での殲滅を得意としている。
つまり、何かのオブジェクトがあってもルークにとっては邪魔でしかないわけだ。
そんなわけで、短調とガチンコと、少しの戦略性という試合運びを楽しむ大会となる。
「マナ、誰か良い選手は居たかい?」
「んー、すとーむはーと?」
一日目の日程を全て終えて宿でクラウスが尋ねると、即座に答えるマナ。
その試合は、ある意味で最もハイレベルで、最も地味な試合だった。
二回戦以降は勇者同士の殴り合いや魔法使い同士のぶっぱなし合い、間合いの測り合い等派手な試合が続いたのだが、クラウスから見ればレベルはそれ程高いものではなかった。
と言っても見た目が派手なので面白いかと思ったのだけれど、マナは意外なことに一番地味な試合が面白かったのだと言う。
「すとーむはーとかっこよかった。つよかったしたおした人おこしてたし」
「なるほどね」
「うん、あとはくらうすのがつよいもん」
何やらマナは以外とシビアな所を見ているらしい。
派手さを喜びそうな年頃かと思いきや、実際の強さやその姿勢を格好良いと思うとは見た目に反して意外と渋い趣味を持っている様だ。
「くらうすも見たかったなー」
とまで言う始末。
二日目は注目選手がサンダルだけで、他は聞いたことがない選手ばかりなのであまり面白くはないかもなと思いつつ、「僕も出たかったな」と賛同しておく。
「でも、僕は出ちゃいけないみたいだから仕方ない。見に来られただけでも、実は結構嬉しいんだよ」
「そうなの?」
「うん、僕は英雄が大好きだからね。明日のサンダルさんはまた会ったことも無いし、明後日のイリスさんもめちゃくちゃ強い。最後のルークさんなんか他の魔法使いと違いすぎるし、エリス様やサラもどれだけ強くなったか楽しみだ」
「そっかー。じゃあまなも楽しみだなー」
膝によじ登りながら言うマナを抱き上げてから、もう一度出場者名簿に目を通す。
「エリス様とサラ、両方一回戦突破できると良いな」
他国のレベルを見る限りでは、二人共突破は可能だろう。
それでも、戦いに絶対は無い。
エリスはともかく、サラは魔法使い。何かの表紙で焦ってミスをすればあっさりとやられてしまう可能性も有り得なくはない。
そもそも、ルークが八連続準優勝という結果は魔法使いであるということを考えると異常すぎる結果だ。
だからこそ、心配と言えば心配になる。
それはストームハートの試合を見たからこそ。あの、魔法の威力を著しく落とす力が相手なら、例え万全なら格下が相手だろうとあっさりと負けてしまう可能性も高い。
それが、クラウスの抱える懸念だった。
ところが、マナはぶんぶんと左右に首を振って言った。
「さらはわたしのままになるんだから勝つもん。くらうすがおうえんすればぜったいだいじょうぶだから」