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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第三章:王妃と幼馴染
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第五十八話:経験値

「なるほど、魔法使いでは絶対勝てない勇者……。ジョンさん、普通に戦えばあのエリックって人はあそこまで弱くは無いんですよね?」

「もちろんだ。普段からあんなもので俺が負けたら先生はともかく鬼に殺される」


 クラウスから見て、エリックの強さはジョンよりも遥かに下だった。

 とてもではないがクラウスの目に映ったエリックは国家の代表に選ばれる程の強さがある様に見えない。

 それでもストームハートが敢えて落ちるまでに若干の時間がかかる25mの高さまで放り投げたのは、少なくとも国家代表クラスの魔法使いならば誰でも着地ができる時間の猶予がある様にとの配慮に見えた。

 弱いエリックにもその程度の実力はあるのではないかというテストを行ってみた。そんな風に見えたのだ。


 その予想は少し間違っていて、パニックに陥ってしまってきっちりと着地出来ない場合ストームハートがそれを把握して助けられる時間を稼ぐための高さ、なのだけれど、周囲には世界トップクラスの魔法使いしか居ない環境で育ったクラウスにそれを知る由はない。

 

 しかし観客達には魔法使いも居る。

 彼らは不意に投げ出された25mの高さから落ちる衝撃を打ち消して何事も無く着地するのは至難の技だということを知っている。

 試合に集中していたクラウスは、観客達から上がった悲鳴には気づかなかった。

 衝突時のスピードは80km/h。落ち始めてから到達までの時間は約2.25秒だ。

 パニック中の2秒はほんの一瞬だ。だから観客の中の魔法使いの多くは、未熟な挑戦者であるエリックは死んだのだと思っていた。

 魔法を扱うのは手足を伸ばすのとは違う。咄嗟に綺麗に着地出来るイメージや、蔦が伸びてきて自分を支える、なんてことを考えてもそう都合の良いことは起こらない。

 自分の中できっちりと理由付けがされた超常現象でなくては希薄なイメージとなってまい、例えばそれで生えた蔦は人の体重を支えうるものには成りえない。

 エレナの様に、そこに植わっている種は自分の味方をするに決まっている。という思考が他者にすら影響を与えてしまう程強い思念ならば別なのだが、ルークを含め殆どの魔法使いはその域に達することが出来ない。

 そんな状況で瞬時に思考を切り替え見事に着地したのだから、エリックという魔法使いは大したもの。

 自分の力を把握している魔法使い達は、そんな風に思ったのだった。


 つまり第一回戦の決着の感想は、個人個人で全く異なるものになった。


 まずはエリックの未熟さを疑った者。

 無知な者や、驕りのある魔法使いや勇者等は、エリックの未熟さに野次を飛ばした。

 尤もアリーナの両者はそれを聞き流し、ストームハートが倒れたエリックに手を差し伸ばすと、エリックはそれに応じて立ち上がる。


 二つ目はエリックが全く及ばなかったとは言え、瞬殺されなかったことを称えた者。

 今までのストームハートの戦いは殆どが一瞬で、サンダルやルークが相手でも1分も持った試しが無い。

 逃げに徹すれば両者は何十分も耐えることは出来るのだが、英雄には英雄で意地もある為、回避だけをし続けることは有り得ない。


 三つ目はストームハートの未知の力を訝しんだ者。今まで出鱈目な身体能力で戦っていたと思っていたストームハートが、魔法使いの魔法を弱体化させる力があるのではと疑った。

 そうでなくては、今までストームハートで最長の試合があんなに弱い魔法使いで実現することは有り得ないからだ。

 もしかしたらあの魔法使いは相当優秀で、ストームハートの真髄は身体能力ではなく勇者の力にあるのではと考えた者。


 そして最後は、目標が出来たと気持ちを新たにする魔法使いの青年と、それに満足気な女勇者と王と軍人達。

 あとは例外的に、ストームハートとエリー叔母さんではどちらが強いか等と一瞬考えた青年だろうか。


 ともかく一回戦第一試合は、ストームハートの一切危なげない圧勝で幕を閉じた。


「エリック、何か見えたか?」


 敗退し、控え室に戻ったエリックに、ノックもせずに部屋の扉を開けたジョンは尋ねる。


「はい。自分の未熟さが。英雄ルークを見ろとの助言もいただきました」


 因縁とも言える相手に負けたにも関わらず、エリックの顔は晴れやかだった。

 ノックもしないジョンに嫌な顔もせずに答える。


「そうか。お前はまだ強くなる。魔法使いの頂点はよく見とけよ。……それと、俺の強さを知りたければ四人のタッグマッチでもすれば分かるぞ。個人戦はどうにも苦手なんだ」

「はい。帰ったら是非お願いします」

「そもそも魔法使いは個人戦に向かない。それも分かったか?」

「ええ、痛感しました。……世界ってのは広いですね」


 エリックは王妃を抜くグレーズ最速の勇者を相手にストームハートを想定していた。

 しかしグレーズ最速よりも、むしろ瞬発力はそれほどでも無いと言われるストームハートの方が遥かに速かった。

 ならば、過去最速の踏み込みと言われたオリヴィアは、この後出てくるサンダルは一体どれだけの速度なのだろうと身を震わせる。

 肉体が通常の人と変わらない魔法使いでも、予め相手が速いことが分かっていれば対応出来る。

 そんなことを思っていたエリックが、初めて知った勇者の恐ろしさ。

 魔法使いは勇者と共に出て最大の強さを発揮するという意味を、ようやく真に理解することが出来たのだった。


 そんなエリックはこの後に出てくる二人の魔法使いを見て、再びこの時に植えつけられた常識を破壊されるのだけれど、それでもなんとか折れることなく一流への道を進むことになる。

 魔法使いは単独では充分にその力を発揮出来ない。ただし、極々一部の例外を除いて。

 それを理解したことが、この大会でエリックがその身に刻んだ経験値だった。

エリから始まる名前多くね?


名前が出た以上ある程度キャラを立てないと気がすまない症候群です。

結果がわかりきっているトーナメントももう少しお付き合い下さい。

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