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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第三章:王妃と幼馴染
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第五十五話:闘いの前に

「どう、驚いた?」


 エレナはにやりと笑う。

 流石にサラの母親と言えるその表情は、歳よりは幾分若く妖艶に見えて、クラウスはぎくりとする。

 別にそれに見惚れるわけではないが、完全に掌の上で遊ばれている感覚を覚えて、あのやんちゃの母親は流石だと改めて思ってしまったに過ぎない。

 今までエリー叔母さんに弄られてたのとはまた別の方面からの全く逆らえないという感覚と言えば良いのだろうか。

 言葉にしても半分力技と言える叔母さんと比べて、エレナは言い訳でもしようものなら軽くカウンターが飛んできて即負けといった、そんな雰囲気だ。


「最強かー、私は興味無いし、うちの国はパパで決まってるからね。私はそんなことよりのんびりしたいかな」


 かつてサラは、クラウスに向かってそんなことを言っていた。

 今までその大会を見ることが出来なかったクラウスと違い、サラは今まで全ての大会を父の応援で観に行っている。

 英雄に憧れているクラウスとしては、是非その大会のことを聞かせて欲しいと毎年サラに頼んで話してもらっていた。

 そのついでに、将来はサラも出るのかと聞いてみたところに返ってきた答えが、それだった。

 性格的にのんびり出来る人間ではないことは置いておくとしても、サラが勝ちたいのはクラウスにだけ、という姿勢を見てきた身としてはこの大会にサラが出て来ることは驚くべきことだ。

 

 エレナはしてやったりといった表情でクラウスを見ると、マナの方にも優しい目を向けて言う。


「そんなわけだから、是非サラを応援してあげてね」


 そんな言葉に、クラウスは仕方ないと頷いて、マナは目を輝かせた。


「うん! さらのおうえんする!」


 すると、ブリジット姫がマナの方を見て若干の抗議の視線を向けた。


「マナ、お母さまのおうえんは?」

「ん? するよ?」


 何を当然のことと答えるマナに、ブリジット姫は続ける。


「お母さまとサラさんは4かいせんで戦うのよ?」

「なら、そのときはさらのおうえんする」


 きっぱりと言い切るマナに、ブリジットは随分とショックを受けた様な表情をした。

 目尻には涙を滲ませ、まるで心から信じていた親友に裏切られたかの様な、そんな表情だ。

 クラウスは呆然と、彼女達のぼうけんは、それ程に身があるものだったのだろうかと驚いていると、それを見ていたエレナが補足する。


「ブリジットちゃん、サラはマナちゃんのママになるかもしれないの。ブリジットちゃんもママは大切よね?」


 そう言われれば流石に歳の甲、と言うには若過ぎるので、王家の教育を受けているブリジット姫だ。

 ママになるかもしれない人が出るのなら応援するのは当然だと、目尻に溜めていた涙を拭ってマナに向き直った。


「そういうことならマナ、4かいせんまでは一緒に両方をおうえんしましょう。4かいせんでは私はお母さま、マナはサラさんをおうえんする。

 それで勝っても負けてもうらみっこ無しよ」

「うん!」


 そんな微笑ましいやりとりをして、二人はまた仲良くきゃいきゃいとし始めた。

 それを見て、もう外堀なんてあってない様な程に埋められているのだなと思ってエレナの方を見ると、エレナは既にいつもの表情で微笑んでいた。

 悪夢の一端を垣間見えながらも、この人の娘のサラが苦手だった理由はこういう部分を継いだのかな、と苦笑いをするしかない。


 さて、もうすぐ始まるという所で、エレナの隣に座っていたクーリアが立ち上がった。


「さて、アタシはあっちで観戦するよ。エレナ、アーツ、ブリジット、クラウス、そしてマナ、また後でな」


 クーリアが指差す方向には、クラウス達がいる様な開けた観戦席では無く、部屋の様に囲まれている観戦席がある。

 席とアリーナはガラスで仕切られており、静かに観戦するにはもってこいの場所。

 案内図ではVIP席と書かれていたそこは、各国の要人や参加者の親族が見る為の席がある筈だ。

 本来ならエレナやアーツもあちらで観るべきらしいが、エレナは今大会では救護役を兼ねており、一瞬でアリーナに飛び降りられるこちら側の一般指定席の一部。

 アーツ王はまるで違って、妻が出るのだから命懸けで応援しなければならないと同じく一般指定席を取ったらしい。

 とは言え流石に席の場所は配慮されているらしく、周囲は似た様な者達だけが固められている。


 クーリアは、そう告げると同じくこちらで観戦するらしいマルスを残して立ち去って行った。

 ウアカリらしく豪快で細かいことは気にしない性格のクーリアは、クラウスにとって分かりやすい英雄像の一人で、あまり多く漣に来ることは無かったが、好きな英雄の一人だった。

 明らかにVIP席で大人しく観戦するよりは、一般席で一般人と混ざって騒いでいるという印象が強い人物だ。

 そんな彼女が静かなVIP席に行くのは珍しい。

 そう思って、何故か残っているマルスに尋ねてみることにした。


「クーリアさんが静かな所に行くのは珍しい気がしますが、何か理由があるんでしょうか?」


 マルスはマルスで超が付く大物だ。

 不老不死、実年齢では180歳程になるこの英雄もまた、細かいことは気にしない。

 一人残されてしまっても何食わぬ顔で佇んでいたが、クラウスの質問を受けて何やら優しげな表情になる。


「クーリアはね、大切な親友の所に行ったのさ。彼女の親友は騒がしい所を好まないからね」


 その言葉を聞いて、クラウスは大いに納得した。

 見方によっては、先の魔王戦で最大の功労者、魔王が一人の一般人も殺さなかった理由の一つ。魔女と呼ばれる英雄が、ここに来ているのだと。


「なるほど、いつかお会いしてみたい方です」


 そう告げると、マルスとエレナは同様に難しい顔をした。


「いやー、どうだろうね。彼女は気難しいから、聞いてみないと分からないな」

「まあ、気に入られることは間違いないだろうけれど、同時に嫌われる可能性も無くはないかも」


 気に入られながら嫌われるとはどういうことだろうと思いながらも、マルスの言葉で納得することにする。

 サンダルの暗殺を何度も試みたと言われる英雄だ。

 気に入ったから殺してあげると言われないことも無いのかも、と想像しながら、それはエレナよりも危ないのではと身を震わせると、エレナに見透かされたかの様な微笑みを向けられて背筋に寒気が走る。


 そんな緊張感のあるやら無いやらなやりとりをしていると、遂に大会は始まった。

 銅鑼の音が鳴り響き、一人の皮の鎧に身を包んだ男と、一人の女性が姿を現した。


 男の方は魔法使いだからなのだろう、動きやすさを重視した皮鎧に、金属製の1.5m程の先端が丸まった装飾の少ない杖を持っている。

 その杖が魔法の増幅器である道具であり、魔法を使っても良し、殴っても良しというものなのだろう。肉弾戦にも、多少の心得はある様に見える。

 

 女性の方は何処かで見たことがある様な体型で金髪、身長は165cm程。

 左手には40cm程、手の甲から肘までを覆うラウンドシールドを括り付け、右手にはガントレット、左の腰鎧に二本の剣の鞘をがっちりと固定した、二本の角がある竜の仮面で顔の全てを覆うという奇妙な風貌の人物だった。


「まるで、腰の剣は抜く気が無い様な固定方法ですね」


 戦闘の最適化を求める三代目のクラウスが、その人物を見て最初に漏らした感想はそれだった。

竜の仮面を被ったストームハートって一体誰ナンダー……。


ちなみにトーナメント自体にはストーリー上は大した意味はありませんが、後のサラには関係してくることなのです。

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