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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第二章:美少女魔法使いを育てる
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第四話:陽と雨は花を咲かす

まさかのレビュー、そしてブックマークと評価もありがとうございます!

「あの、レインさん。私の町に行っても良いですか? あ、あの、迷惑かけちゃうかもしれないですけど、見ておきたくて」


 次の日の朝、サニィは勇気を振り絞ってレインに告げる。本当は今すぐにでも逃げ出してしまいたい。無かったことにしてしまいたい。そんなことを思ってしまっている。

 それは酷いことだと分かっていながらも、弱いサニィには勇気を振り絞らなければ立ち向かえない程に嫌なことだった。辛いことと言うよりも、嫌なこと。


「サニィ、お前は強いな。惚れ直したぞ」

「え? なんで……?」


 聞けばレインは、このままサニィを連れて遠くまで行くつもりだったと言う。

 辛いことを思い出させない為に。なるべく楽しいことだけを考えさせる為に。 

 彼女のトラウマは町が滅んだことだけではない。連れ去られ、無限の食糧として弄ばれ続けたのだ。町に戻ることは、そのトラウマを呼び覚ます引き金になってしまう、リスクが高すぎる。

 その様に考えていたと言う。


「だから、お前は強い。だが安心しろ。お前がそんな目にあうことはもう二度と無い。例え魔王が復活しても俺が守ってやる。俺を頼ってくれて良い」


「は、はい。お願いします」


 レインの真剣な眼差しに少し体温が上がるのを感じると、サニィは改めて覚悟を決める。

 そうだ。目の前の青年は人外の中の人外。元々旅に出る目的の中に、”ついでに魔王を倒す”というものがあったと言う程の達人だ。

 自分自身が好かれているうちは最強のボディガード。

 少なくとも、また連れ去られるかも、なんてことは考えなくて良いんだ。

 実際は今既にレインに連れ去られていることは忘れている。何せ嫌な相手ではない。

 そんな風に考えて、ふと、思い出す事がある。


「あの、私の杖って見ませんでしたか? えーと、白樺とルビーで作られた6尺位のものなんですけど」


 魔法使いが魔法を使うには三つの条件がある。

 一つ、起こしたい事象を正確に思い浮かべること。

 一つ、事象に応じたマナを触媒とすること。

 一つ、想いを込めた道具を持つこと。


 その三つの条件が揃った時に、魔法は発動する。

 正確なイメージを持っていても、それに応じたマナを使えなければ一切の魔法は生じない。

 そして、敵の威圧感に圧されてしまえば正確に事象を思い浮かべることすらままならない。

 何より武器として各々が定めた道具がいる。

 よって魔法は万能ではない。

 

 サニィの持っていた杖は、両親から10歳の誕生日にプレゼントされた物だった。魔法使いは杖を好む事が多い。狙いを澄ますのにも使えるし、攻撃を受ける事にも使える。

 刃物であれば切るというイメージになりがちだが、杖であればどの様なイメージを思い描いても違和感が出にくい。

 サニィの持っていた杖はそんな機能的な杖だった。両親からのプレゼントだ。十分な想いが詰まっている。

 白樺で出来ており、仄かな赤みを持つ白系の綺麗な木材で作られたそれは、高原の爽やかなイメージを持ちまず最初に回復のイメージをし易い。上部にあしらった球状の飾りには巨大なルビーが埋め込まれており、その球体を正面に向ければそこから円形の盾を広げるイメージが容易だ。そして、何より身長よりも遥かに大きい6尺≒182cmという大きさは、サニィの持つマナの大きさに応じた魔法の出力をイメージするのに役立っていた。


 ただ、オーガが攻めて来た時にはそれに勝つイメージを一切持つことができず、一方的に嬲られることになったのだが……。


「これか? オーガの宝物庫に置いてあった。奴らは村を滅ぼすと一つだけ戦利品を持ち帰る。それが”運良く”お前のものだったのかもしれない」


 そう言ってレインはテントの中から一本の巨大な杖を取り出す。

 一見すると槍にも見える程の長さの淡い色をした木の杖は、上部に20cm程の複雑にくり抜かれた網目状の球体が彫刻してあり、内部には相応に大きいルビーが一つが輝いている。

 160cmも無い程度のサニィと比べるとかなりアンバランスな感じがするものだが、その取り扱いは慣れたものの様で、軽く振り回すと口を開く。


「これです。ありがとうございます。これで、町の皆を供養できる……」

「ああ、良かった。……そうだ、少し魔法を見せてくれ。俺の村にはマナを持つ人間は居ないんだ」


 少し暗いサニィに向かってレインはそんなことを告げる。恐らく気分転換をしろと言いたいのだろう。

 せっかく両親の残してくれた思い出の品も、確かにサニィが暗いままでは浮かばれないだろう。

 この人は優しいな。そんな風に思う。

 しかし、本当のところはレイン自身はただ純粋に魔法に興味があるだけだった。

 もちろん騙しているわけではないが……。

 サニィは純粋な青年の発言をそんな都合良く解釈して魔法を披露することにする。


「では私の得意な開花の魔法を」


 サニィはそう言うと6尺もある杖を地面へと突き刺す。

 なるほど、その杖は確かにその時点で既に花の様だ。背の高い、白い葉に守られた真っ赤な花。

 イメージすると言うことはこういうことかと感心するレインをよそに、周囲の地面が淡く輝く。

 すると杖を中心にして地面から草木が伸び始め、色とりどりの花が咲き乱れる。

 中央にそびえる白と赤の花を中心にして咲き乱れたそれらは朝の空気を一層爽やかなものへと変え、サニィは自分自身の心を少しずつ洗い流していく。

 レインは「おおー」等と無邪気に喜んでいるが、サニィの頬を伝うのは温かい液体だった。

 

(そういえば、これは大好きなお父さんとお母さんが私に最初に教えてくれた魔法だ)


 そんなことを思い出してしまえば、もう流れる涙を止めることなど出来なかった。

「ありがとう」

 そう言いながら背中をさするレインに少しばかり身を委ねると、サニィは深く涙を流す。

 もう両親は居ない。育った町も、誰も居ない。それを今から確認して、供養しなければならない。

 それを成すのには、とても勇気がいる。

 でも、形見の杖とこの青年が支えてくれるのならば逃げることは出来ない。逃げてはならない。


 サニィは決意を新たに旅をする。両親と、あと少しだけだけれど、本当に少しだけ、と自分に言い聞かせながら一人の青年に守られるのを感じ、育った町へと歩き始めた。


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