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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十章:鬼の娘
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第百三十七話:さあ、戦いを続けましょう

「さて、妖狐たまき。僕達の相手をしてもらおうか」


 前に進むエリーとレインを交互に見て溜息を吐いたたまきに向かって、ルークが宣言する。

 エリーに向かって杖を構えたたまきに対して、レインは手で制する様な動作を見せたことでたまきはその意図を理解する。


「レイン様とアリスの娘の願いなら仕方ないわね。出来れば半年待って欲しかったところだけれど」

「半年?」

「ええ、半年待てばレイン様は世界を滅ぼし始めるの。でも、それまでは私が側で抑えていてあげられるのに」


 妖艶としか言い様の無い笑みを浮かべながら、妖狐たまきは言う。

 それと同時、隣で剣戟の音が響いてくる。

 その初撃はバキッという音。最初の一撃でエリーの武器が破損したのかもしれない。

 狐のペースに乗せられて時間が無くなる前に、決着をつけなければならない。


「すまないけど少しだけ移動だ。あっちの戦闘範囲に巻き込まれたら敵わないからね」


 言うと同時、たまきの視界がブレる。

 レイン達の方向からの風の魔法の一撃で、一歩だけ足を後退させる。

 すると、突如レインとエリーから距離が離れたことに気付いて、はっとした様にルークを向き直る。


「ま、空間魔法の応用だよ。動かない人には使えないけどね」

「ふふ、流石はあのサニィの教え子ね。驚いた。それにしても、あの子、エリーだったかしら。ハリネズミみたいな戦い方で可愛らしいわね」

「心ここにあらずとは余裕だね。エレナ!」

「任せて」


 幻術で姿を眩ませているエレナが、同時に精神魔法でたまきの動きを阻害する。

 精神と肉体の分離。エレナの持つ強力なイメージが、たまきの思考と肉体の反応を送らせ、行動を一歩遅らせる。

 

「アンタが善良な魔物のままで居ればここで死なずに済んだのにな!」


 同じくエレナの魔法で姿を眩ませていたクーリアが突如現れ、ここぞとばかりに奇襲をかける。

 たまきに集中し始めたことで、エレナ自身の姿も朧気ながら見え始める。


「くぅ、流石に同じ精神系、長くは持たないかも……」


 同時に魅了の効果をも阻害しているエレナは、たまきの溢れる魔法に対していっぱいいっぱい。

 クーリアも何度も剣を繰り出すが、体は遅れて反応したせいかもつれて転んでいるにも関わらず、たまきは蔦を繰り出してそれを防いでいく。

 ヴィクトリアの再来と言われたクーリアの一撃は、今でも威力だけならば魔王討伐軍の中でもトップクラス。それを次々と防ぐたまきの周囲には、次第にジャングルの様に蔦が絡みあって防御壁を形成していく。


 しかし、ルークの狙いはそれだった。

 クーリアの攻撃を防ぐには、流石のたまきとは言え物理的な壁を作らなければ防げはしない。エレナのおかげでまともに動くことも出来ず、簡単な魔法しか扱えていない状況だ。

 蔦の魔法は聖女の得意魔法。マナを練って物質化する基礎の基礎でありながら、熟練の魔法使いが扱えば非常に強力な魔法の一つ。

 とは言え、それは一時的にとは言え実体を持つことが特徴だ。

 

 つまり、今のたまきには逃げ場がない。


 ルークはエレナを呼んだ瞬間から準備を始めていた。

 天に杖を向け、詠唱とも言えないイメージ優先のオリジナルも魔法の詠唱を開始していた。


「天から降り注ぐ巨岩、その速度は音を遥か超え、あの地に降り注ぐ。空気摩擦で高熱を持った巨岩の火球は、あの蔦もろとも破壊し尽くす。クーリアさん、一歩!」

「了解!」


 先ほどと同じ魔法でクーリアを遠ざけ、エレナは尚もたまきに阻害をかけ続け、同時にたまきが生やした蔦に干渉してそれを固定する。

 この魔法での不安要素は、威力が強すぎること。

 一度実験した時には、小山一つが消し飛んだ。しかし、今回ばかりは手加減等していられない。

 なんとか生き残って魔王組に加勢しなければいけない。

 チラッと魔王側を見ると、ちょうどライラがナディアを抱え、守ろうと間に入ったイリスが盾の上から強烈な打撃を受けて吹き飛ぶ。そこにエリーが追いついて、再び凄まじい剣戟が繰り広げられているところが見える。一瞬の出来事。余りにも魔法使い組の自分達とは戦闘の速度が違う。肉体の強度も当然ながら、余りにも違う。

 あれならなんとか耐えられるかなと確信してすぐ、ルークは叫ぶ。


「エレナ! 防御! メテオストライク!!」

「壁!」


 エレナがイメージしたのは、比較的得意な水の壁と、その背後に土で作った壁の二重の壁。

 それを、エレナが瞬時に展開出来る範囲、自分達とクーリア、そして森の中に潜む、予め集めさせておいた兵達の前に出現させた。

 これで一時的に、エレナのマナは底を尽きる。

 それを、ルークが少し強化して、衝撃に備える。


 1秒もすると、空が光り輝く。

 ルークの魔法によって出現した巨大な岩の塊が、無理やりたまきの方に撃ち出され、引っ張られ、重力と相まって凄まじく加速していく。それは次第に摩擦で燃え、光り輝くと同時に燃え削れながら、たまき目がけて突き進む。

 目に見える様になった時には、既に2m程までに小さくなった火球。しかし重力魔法で質量を強化してあるこれは、たったそれだけでも、小山一つが消し飛んだのだ。

 それが地表に到達する。


 ……。


「くそ! 失敗だ! マナを回復しろエレナ!」


 到達したはずの時間になっても衝撃は一切なく、遅れてやってきた音もゴーと言うだけで衝突音がしない。

 つまり、なんらかの手段で防がれたということ。物理的手段ではなく、他の何かしらの手段で。

 見ると、既に蔦のジャングルは無くなっている。


「ま……まさか……」


 そこに見えるのは、光の残滓。

 その光の残滓を、ルークは見た覚えがある。


「ふふ、流石は天才さんね。ちょっと死ぬかと思ったわ」


 そう微笑むたまきの周囲を取り囲む光の残滓、たまきを貫く様に線を描く光の残滓。

 それは正しく、禁忌の魔法の痕跡。


「先生の魔法を……」


 以前、聖女サニィが120mのドラゴンを消滅させた魔法。

 余りにも危険な為か、理解後に使用したところ、一切使えなかった魔法。

 『聖女の魔法書』にも載っておらず、聖女サニィが人知れず秘匿し、禁忌とした唯一の魔法。


「分解させてもらったわ。でも大丈――」


 あっけに取られるルークに対して、そんなこともあろうかと飛び出したのは三名。

 クーリア、サンダル、生き返ったマルスの三人が、たまきに斬りかかる。

 それを再び蔦で防いで、相も変わらずたまきは笑う。


「話を聞いてちょうだいよ。大丈夫。あなた達には使えないから」


 そして、少しだけ寂しそうな顔に変えると、尾を生やして言った。


「さあ、戦いを続けましょう。…………レイン様が満足するまで」

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