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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十章:鬼の娘
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第百三十六話:私の時雨流

 まったく、師匠は仕方ないな。


 そんなことを考えても何にも解決はしないけれど、今回ばかりは少しくらい文句を言っても良いと思う。

 突然居なくなってあんなにも悲しんだのに、突然現れたと思ったら世界にあだなす魔王になってる。


 オリ姉をあんなにも悲しませて、ディエゴさんや王様達を殺しちゃって、ナディアさんにもあんな思いをさせる師匠は、本当に、罪な男と言うか、なんというか、……。

 正しい表現は思い浮かばないけれど、師匠はきっとこうなることが分かってたんだよね。


 お姉ちゃんが言ってた。

 最後の方、師匠は少しずつ弱くなってるって。体内のマナが少しずつ混ざり合って消滅していって、少しずつ魔物に近づいてるって。

 相対的? 勉強は苦手だからいまいち分からなかったけれど、体内の最大マナ量が減ると、より多い陰のマナの割合が増えるから魔物に近づくんだって。

 じゃあ狛の村の人達は魔物なの? と聞いてみたら、分類としては本当は魔物、アンデッドに近いって言ってたのを、覚えてる。


 だから、師匠はあの時死んだから魔王になったんじゃなくて、きっと死んでなくても魔王にされてたんだと思う。魔王が生まれる時期が『八年後以降』だった理由は、師匠が生き残った場合、そのくらいかけて魔王よりも弱くなるって予測だろう。

 死んだ場合は、たまちゃんに色々仕込む為にそのくらいかかるんだって予測だろう。

 いい加減、世界の意思とやらの悪意はそのくらいするんだって分かってきてる。


 だから、私は師匠が魔王になったことには王様みたいに怒ったりしない。少しだけ文句は言いたいけれど。


 むしろ、師匠はどうしようもなく被害者だ。


 確かにレイニーさん? って人を殺しちゃったかもしれないけれど、救った人は私やルーク君、アリエルちゃんのお母さん、ライラさん、サンダルさん、そしてサニィお姉ちゃん。数知れない。

 魔王討伐隊のメンバーなんて、今や歴史上の誰よりも強い人ばかりが集まった過去最強の組織だ。

 そんなものを作った師匠が裏切り者とか、そんなことはあり得ない。


 世界の意思とやらに命ぜられた殺意だけは渦巻いているけれど、その本質が常に穏やかなのがその証拠だ。


 だから、私はそんな師匠に応える為に、今からみんなに咎められるかも知れないことを言う。


 私が師匠の一番弟子、最強の英雄の愛弟子にして、自称娘のエリーだ。

 動けなくなってしまったオリ姉に変わって私が止めないといけないから、私は最強にならなくちゃいけない。


 だから、私はあえてこう言う。


「ねえ、師匠。……遊ぼう?」


 最近は大人になろうとしてたけれど、やっぱり私は師匠の子だ。

 だから、思いっきり子どもっぽく、甘えた様に言う。

 背中に背負ったたくさんのプレゼントで、いや、師匠に貰ったたくさんのおもちゃで、私は師匠と全力で遊ぶ。


 それがきっと、私の最強。

 師匠すら予測出来ないらしい本能での動きに対処するのは、私が無邪気な時程難しかったらしい。

 ここ数年は色々と考えちゃってたから、強くなるのと同時に弱くもなっていたみたいだ。

 オリ姉に勝ったあの一回の偶然。

 あれはそんな、オリ姉との戦いを本気で楽しんでいた時の一撃だった。


 肉体の鍛錬は今まで考えて戦ってきたお陰で十分、とは言わないまでも、旅に出た頃よりは遥かに動く。戦法のパターンも数多く習得してきた。今までの努力は、きっと無駄にはならない。

 それらを、私の思った通りなら、私の宝剣達が本当に師匠がプレゼントしてくれたおもちゃであるなら、後は何も考えずに楽しめば最強の私になれるんだと思う。


 きっとそこまで、師匠は読んでいる。


 周囲で構えている兵士達が、私を不謹慎だと睨むのが分かる。

 でも、ここで負けるわけにはいかないから、師匠の為に、オリ姉の為に、アリエルちゃんの為に、私は魔王を倒さないといけないから、だから、今は我慢して欲しい……。


 そんな私に、相変わらず穏やかな殺意を向ける師匠。

 その顔が、少しだけ微笑んで見えた。


 まったく、師匠は仕方ないな。


「師匠がくれたおもちゃ、ちゃんと使える様になったよ。見ててね、私の時雨流」


 個々の待ち得る最大限の力を発揮する流派が時雨流。

 私の場合はきっと、日々の努力、修行を重ねた末に才能に頼ること。

 才能を使い潰すかの様に死地で努力する師匠とも、努力に特化した才能を見せるオリ姉とも違う、オリジナルの時雨流。


 たまに師匠が騎士に向かって言っていた言葉を思い出す。

「才能が無い者は努力をして才能を生み出せ。才能がある者ほど努力を重ねろ」

「それじゃ才能がある人に、無い人は追いつけないんじゃないの?」

「そう思ってる以上は追いつけないだろうな」

「んん?」

 そんなめちゃくちゃな言い分を、私はやっと理解した気がする。

 自称才能の無いオリ姉は、ただ努力だけで今までずっと最強を貫き通してきたのだから。だから私は、これでようやくオリ姉と並べるのだと思う。

 ライラさんとの決闘で試してみて理解した、自分の本質。ブロンセンで突然納得したかと思えば強くなったオリ姉の様に、私もようやく気付くことが出来た。

 私にとって最強の時雨流は、自分の才能を認めることで初めて発揮出来る類のもの。

 オリ姉に悪いと思って努力だけを重ねてきた今までの私と、今の私は、少しだけ違う。


 今の私はきっと、私史上最強の私だ。そんな私を、師匠には見てもらいたい。

 今考えるべきは、ただそれだけ。



 だから私は不謹慎を承知で、全力で師匠と遊ぶんだ。

やっとこさ一部一話のレインの考え方を弟子で回収出来ました。

半分位は今話の為に二部を始めたと言っても過言ではありません。

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