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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第九章:最後の魔王
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第百二十一話:あはは、英雄ジョークだ

 その地形は正に、人間にとって圧倒的に有利なものだった。

 直径約10km程の森の中にぽっかりと開いた200m四方程の空間。森自体が綺麗な平地の上にある為に足場も非常に良い。

 周囲の森は歩き易く、しかし太く真っ直ぐと伸びた木々は隠れてください、罠を張ってくださいと言わんばかり。そして黒い渦は人間達の準備を待つかの様にゆっくりゆっくりと時間をかけて形を成そうとしている様。

 

「まるで、世界の意思からの挑戦状ですわ」


 オリヴィアがそう呟くと、皆が一様にそれに頷いてみせる。

 誰しもが、それを逆に不気味に感じている。


「最後の魔王によっぽどの自信があるのか、もしくは必死な我々に魔王が倒されることすら楽しみなのか」


 遅れてきたディエゴも、考えても仕方のないことをついつい考えてしまう程度に、そこは誂え向きのフィールドだ。


「人間居住区とはまるで離れたここに魔王が出現する意味……。エレナはどう見る?」


 ルークも気になるのだろう。勇者の面々とは違い考えることが直接力に変わる可能性のある魔法使いは、先ほどからそんな会話を続けている。


「人間を滅ぼすって話がそもそも冗談だったりとか」

「ははは、最悪の冗談だね。でも、人間では考えも付かないことを考えていてもおかしくはない」


 何度も何度も人間を窮地に追い詰めた魔王。

 しかしオリヴィアの集めた情報の一つ、『強き魔王』は失敗作という狛の村の書物の一文。

 それまでをも合わせれば、確かにそんな冗談めいた考えを持っていても不思議ではない。


「レインを殺すと言っておきながら呪いに罹った不死のレインに魔王をぶつけたり、魔王よりも遥かに強いレインに魔王をぶつける。それすらも本当に理解のしようがないな」


 と、サンダル。

 彼らは世界の意思とやらが、レインを呪いではなくサニィに殺させる為にそれらの一連の行動を取ったことなど、当然ながら何一つ知らない。

 最も、それを知った所で今回の魔王誕生を阻止することなど出来はしないのだが……。


「ナディア君が欠けるのならば、僕も前線に立たせてもらうよ、皆。足でまといにはならないと約束する」

「ああ、アタシ達は力不足。二人で力を合わせて一人分の役割をしよう」


 マルスとクーリアのそんな提案を、止める者は居ない。

 ナディアを欠くということは、それほどに大きな損失だ。

 アリエルもまた、それに素直に頷いた。イリスも姉を心配そうな顔で見るが、やはりウアカリだ。戦士として戦場に立つ覚悟のある姉を止めることは、ウアカリの首長としても出来はしない。


「お姉ちゃん、今回ばかりは私も覚悟を決めるよ。でも、死なないでね」

「ああ、だがアタシもウアカリだ。もしもの時はしっかりと讃えてくれよ」

「……うん」


 そんな姉妹に対して、マルスに声をかけたのはエリーだった。


「マルスさん、なるべく死なない様にね」


 不死身の男に対して、そんな風に軽く声をかける。

 例え体がバラバラになろうと蘇るその男も、痛みは感じるらしい。

 しかしエリーはあえて軽く声をかける。

 過去の英雄は、今までに何度も何度も死に続けているにも関わらず、一切心が折れていない。

 その心の強さは最早師匠やディエゴというレベルですらなく、ある種の化物の様ですらある。

 皆は痛みを感じるということからマルスを戦わせることを避けるが、エリーだけは、本質的にマルスが戦いたがっていることを知っている。


「ああ、ありがとう。君達に負けない活躍をしてみせよう。……ま、主に囮としてかな」

「あはは、英雄ジョークだ」

「ははは、お気に召したなら良かった。僕のことは気にせず全力を振るってくれたまえよ、新しい英雄さん」

「うん、もちろん」


 そんな気楽な英雄候補達とは別に軍の他の面々達は当然緊張している。


「お前達も、少しは肩の力を抜いて良いぞ。魔王は妾とライラが見張っている。もしもの時に最大限の力を出せる準備だけをして、無駄な疲労を貯めるなよ! ……ライラもね」

「私は大丈夫です。この時の為にアリエルちゃんと一緒に走ってきたんですから。それを言うならアリエルちゃんこそですよ」

「妾も大丈夫なの!」


 魔王復活までには、まだ少々日数がある予定だ。

 それの見張りだけは欠かせないものの、常に気を張っていて本番までに疲労を貯めてしまっては仕方が無い。

 そんな少々の言い合いもありながら、適度な緊張感と適度な脱力を持って魔王の復活に備えた。

 周囲の森には罠を張り、森の周囲200km圏内にある町村の住民を全てウアカリに移動させる。移動先がウアカリなことに少々の不安はあるものの、十分な土地と家が余っている国と言えばそこだ。

 そうして面々が程よく準備を完了した頃だった。


 その女は現れた。

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