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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第七章:鬼の棲む山の拒魔の村
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第八十二話:やっぱり正解だったね

※残酷な表現が続きます。ご注意ください。

本日は20時、22時、24時に投稿します。

 全員が漣に集まった翌日、アルカナウィンドのロベルトとグレーズ王国のババ様と呼ばれる占い師から緊急の連絡として、狛の村が全滅したとの連絡が入った。

 前日はこれからについての編成等と、狛の村の最悪の事態についての会議を行っていたが、予想よりも早くその時は来てしまった。


 しかし皮肉なことに、一度こうなってしまえばアリエルの力は最大の効力を発揮する。

 相手の感情を抜きにして考えるのならば、つまり、狛の村の人々が物言わぬ状態になってしまっているのならば、その力の導くとおりに動けば良い。

 正しき道を示す等とは言うものの、それはアリエルにとって正しいものとも、狛の住人にとって正しいものとも限らない。

 以前、アリエルはこの能力に頼った結果母親を失った。

 それはきっと、母親にとっては最も苦しまずに済んだ死に方だったのだろうが、アリエルにとっては凄惨の一言。死が決まっていたとはいえ、納得ができるかといえばそれはまた別だ。

 その際には宰相ロベルトが確実に母親の味方だと分かっていた為に、なんとか母親が恐怖を感じずに逝けたのなら仕方が無いと諦めることは出来た。


 しかしながら、今回はその過去があった為にアリエルは躊躇してしまった所に、この訃報だ。


 だからこそ、アリエルは贖罪の様に素早く動いた。

 その連絡を受けた10分後には、全てのメンバーを集めて指示を出す。

 会議は省略、始めから力の示す通りの作戦を皆へと伝える。

 

 その作戦はシンプルなものだ。

 狛の村周辺に出現した新種の魔物を、エリー、オリヴィア、イリスの三名でそれを討伐。

 残るディエゴ、ルーク、エレナ、マルス、クーリア、ナディア、サンダルの7名は抑止力となっていた狛の村の住人が全滅した為に死の山から溢れ出すと予想される魔物達の討伐に当たる。

 山の周囲を囲うように七名が配置され、魔物達を殲滅する作戦となる。

 メンバー構成は力の示す通り、周囲への配置はもう少し少人数、自国へと帰還しても良いと出ていたが、万全を期する為に、そして改めてこの部隊の結束力を高めるという名目の上、ほぼ全員を配置することにした。


 その過程で『死の山』の魔物は弱体化する、とのこと。


 そしてアリエル自身も自ら狛の村へと付いていくと言い始めたので、そこはエリーが無理やり心に介入して押さえ付ける。

 ライラが付き、『漣』にて待機。それがアリエルの役割となった。


「アリエルちゃんだけは狛の村の人達が魔物化したって知らせてないって言ってたけど、やっぱり正解だったね」


 死の山、狛の村への道中、力を最大限に駆使して隠密行動を取りつつも、エリーはオリヴィアにアリエルへの心配を語る。

 会議を省略した時点から、彼女の心は穏やかなものではなかった。

 他国のことでありながら、オリヴィアにすら勝りそうな程の後悔を胸に、一同に対して指示を出していた。

 ロベルト曰く、もうどうやっても止められない為に、女王の力は上手く働いていない。

 もしかしたら暴走してしまうかもしれないので注意をしてくれと、そう言われていなければ、その動揺そのものがエリーにも伝わってしまっていただろう。


 逆に一週間悩み続け、その末に狛の村の人達の魔物化を聞かされたオリヴィアは覚悟を決めていた。

【こんな時、レイン様ならば迷わず楽にしてあげるでしょう】

 そんな心の声と共に、『心優しい王女様』から『血濡れの鬼姫』へとその心を変えていた。

 

「彼女はとても優しい女王様ですもの。自国の国民だった人々に刃を向けられるわたくしとは、……違いますわ」


 オリヴィアはそう答える。

 死は決してネガティヴなものだけではない。かつて師匠であるレインが、聖女サニィが死ぬのが分かっていてもドラゴン戦を見守り続けていた様に、逆にそれによって楽にしてやることも出来る。

 それがオリヴィアが、レインから言葉ではない場所から学んでいたことだった。

 僅か6歳から常に死と隣り合わせで生き続けてきた師から学んだ、オリヴィアなりの考え方。


 もちろんそれが正しいとは限らない。

 王女としては正解の部分と間違っている部分とが混在している考え方だろう。

 だが今回に限っては、それは正解だったらしい。


「オリ姉は優しい。必ず自分で全員に止めを、苦しまないように一突きでって、考えてるでしょう?」

 心を読んだのか、そう言うエリーに、隣で聞いていたイリスも頷く。

「うん、オリヴィアさんは優しいよ。でも、今回私が付いて来たのには理由があると思う」

【もしかしたらだけど、私の力で元に戻せる可能性もゼロではないかも】


 イリスは限りなくゼロに近い考えを、口には出さずに思い描く。

 エリーにだけは伝わるかもしれない可能性。

 しかし、未だ前例のない試み。希望を言葉に出せば、あっけなくそれが敗れ去った時、大きなダメージを受けてしまう。何よりもこの国を愛しているオリヴィアならば尚更だ。

 だから、これだけを伝える。


「オリヴィアさん、三人で行くんだから、早まらないでね」


 そんな真剣な言葉をオリヴィアは正面から受け止め、大きく頷いた。


「お二人の存在が今はとても心強いですわ。もしも早まりそうになったら止めてくださいね」

「ん、暴走したら【月光】貰うからね」

「ははは、さて、気を引き締めよう。狛の村の人達とは言え新種の魔物。何をしてくるかは分からないよ」


 そうイリスが言った瞬間だった。


「うっ、……う、ぷ……」


 突如、エリーの表情が青ざめ吐き気を抑えるように苦しみだした。

 強烈な感情に酔った時の典型的な状態だ。普段なら慣れるまで数秒、しかし、今回は今までのどの感情よりも強烈なものだったらしく。


「おえぇ……」


 吐き気を抑えられずにその場で戻してしまう。

 確実に近くにいると、残る二人は剣を構えた。

 オリヴィアは右手に【宝剣:ささみ3号】を、左手には【不壊の月光】。

 イリスは右手に剣を、左手に盾を。共にウアカリの極上品。


 耳を澄ますと、苦しそうなエリーの声と、前方から落ち葉を踏み分けるざっざっという音が聞こえる。

 

 狛の村の少し手前、それは現れた。


「リシンさん……」


 右手に狛の村で作られたらしい宝剣を持ち、左手には村長夫人であるリンの首を持った、狛の村村長リシンの姿。血脂に塗れた、そんな男の姿。

 その瞳は最早、三人を人ととらえてはいなかった。

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