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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第七章:鬼の棲む山の拒魔の村
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第七十八話:狛とは拒魔。

 魔王討伐軍は、魔王やその出現前に増加する魔物に対抗する為に造られた国際組織だ。

 トップには各大陸の代表であるグレーズ王国国王ピーテル・G・グレージア、アルカナウィンド女王アリエル・エリーゼ、そしてウアカリの、魔王討伐軍発足当時の首長であったクーリア、更には実在の七英雄であるマルスが就いている。

 その下に英雄候補であるエリー、オリヴィア、ディエゴ、ルーク、エレナ、ライラ、ナディア、イリスという八人が並ぶ。

 そしてその更に下にジャム、エイミー、狛の村代表リシン、アルカナウィンド近衛隊の代表者五名と、小国家も合わせた各国の代表者達が就いている。


 これが一応の形だ。


 代表者達は勇者である場合皆がその能力を明かすことで信用を得、また方針を決める為の指針としている。

 勇者で無い者はそれだけで不利だ。

 裏切れば最悪誰にも気付かれずに始末されるという危険性を犯してまで出席することで、信用を得ている。

 つまり、形式上は誰しもが平等な発言権を持っている。


 そしてそれは決して形の上ではなく、エリーとアリエルによって強力に監査され、自国の利益ばかりを追求する様な者が現れない様に見張ることも含めて、平等とされている。


 そんな中でも、やはり自然と信用の多かった人物が七英雄マルス。逆に信用がおけないと多くの者から見られていた人物が狛の村のリシンだった。


 その理由は、『聖女の魔法書』と呼ばれる一冊の本が普及し始めたことと、狛の村の噂が理由だった。


――狛の村の人々は皆、体内に魔物と同じものを宿している。

 死の山と呼ばれる危険地帯に蔓延する魔物の元が、そこで暮らす狛の村の人々に高い身体能力という武器を与え、デーモンをも軽々屠る戦士達へと変貌させているのだ。

 彼らはとても強く、とても明るい。

 確かな強さに裏打ちされた自信がある、とても素敵な人々だ。


 『魔法書』には、その様に書かれている。

 そして、更にはその文章には続きがある。


――しかしこの魔物の元は、それに耐性の無い人物を凶暴化させる危険性がある。

 私自身がそうだった。

 狛の村の特殊な人々は、そんな環境に適応した特殊な人々だ。


『魔法書』の数が十分で無かった頃、この後半の部分が上手く伝わらず、多くの妊婦が危険を犯してまで狛の村での出産を望んだ。

 結果的に、生まれてきた子ども達は時折凶暴性を見せてしまった。

 そんな事件が、聖女達の没後には起こっていた。


 それは転移魔法の普及と共に瞬く間に世界的なニュースとなり、結果的に狛の村の人々も機嫌が悪くなれば暴れ回る危険な人物達だ、などという情報に置き換わっていった。


 それは、『聖女の魔法書』の普及と共には治らず、狛の村の人々を恐怖の対象としてみる者が、未だに少なくない。


 リシンが信用されなかった理由は、それが原因だ。


 そして狛の村の人々は当然の様にそんなことを気にせず、陽気に振舞っていた。

 英雄候補達の全員が、狛の村のことを知っていたからだ。

 狛の村は英雄レインの出身地。例え各国の代表者達はその人物を知らなくとも、英雄候補達は皆がその人物を知っている。


 たった一人で二体の魔王を倒し、幼きエリーを救い、そして死にかけだったサニィを希望の象徴に変えた影の英雄。


 狛の村の人々は、いつも言っていた。


「狛とは拒魔。魔物が拒む我らが力を貸せば、魔王も容易く倒せるだろう」


 そんな風に、明るく。


 彼らは、知らなかった。

 いや、もしかしたら知っていたのかもしれない。知っていて、蓋をしていたのかもしれない。

 それはただ、エリーすら気付かぬ程に自然と、彼等の心の奥底に根付く恐怖だったのかもしれない。


【拒魔とは、魔物が拒む者ではなく、魔を拒もうとする者のことだ】


 つまり、彼らは……。


 最後の魔王がその産声を上げる直前、グレーズ王国の不可侵領域では、絶望が産声を上げていた。


 ――。


「世界の意思、最近は随分と静かね」


 南の大陸最南端、一匹の狐は、そんなことを呟いた。

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