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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第六章:鬼神の友人と英雄候補達
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第七十一話:なら最初から一緒に死のうってお話ね

 ベラトゥーラ共和国北部、常雪地帯の手前の街で、最強の魔法使いであるルークとエレナは束の間の休暇をとっていた。

 しかし休暇とは言っても、魔法使いの二人は勇者である他の英雄候補達とは随分と違う。


 毎日の習慣の様に鍛錬をしながら休暇を取るエリーやオリヴィアと違い、ルークとエレナの休暇の基本は会話しながらのんびりと、だ。

 重要なことから下らないこと、様々なことを会話の中でイメージしながらいざという時の魔法への集中力を鍛えていく。

 魔法使いは魔法を使えること以外は肉体的にはただの人と同じ。

 継続的な戦闘を続けていれば大抵の勇者よりも早く疲労が溜まり、思考力も落ちていく。肉体的に優れた勇者よりも遥かに疲労を抑えることが重要なことになる。


 更に、たまの気分転換が思わぬ発想を生み出すこともある。


 ルークの重力魔法などは、休日にエレナがぱっと言い放った一言が元になって開発されたもの。

 魔法とはマナを支配変換して超常の現象を引き起こすこと。つまり、どんな荒唐無稽なことであっても、それを不可能だとさえ思わなければ魔法として発現できる可能性を持つ。


 ルークが重力魔法を開発する以前には、空を飛ぶ魔法は存在していなかった。

 鳥や虫、はたまた翼竜が空を飛ぶ技術を模倣して、擬似的な翼を作り出し空を飛ぼうと試みた魔法使いは多かった。しかし、翼で揚力を得られる理由が紐解かれていなかった為、地上からは飛び立てず、高所から挑戦しては墜落死、もしくは滑空が出来るのみ。

 そんな状況だったのだ。


 それを、エレナが放った一言から発想を得て全く新しい魔法技術の発現に至ることになった。


 つまりは、今日は二人のデートの日だ。


「ねえルー君。魔王ってさ、具体的にはどのくらい強いんだろうね」

「僕達が初めてレインさんに会った時が魔王くらいだったって聞いたよ」


 手を繋ぎ、そんなデートに相応しくない会話をしながら歩く。

 しかし相応しくないながらも、ルークはその質問に真剣に答える。

 エレナのどんな言葉がいつ新しい発想に繋がるか、それがルークは楽しみだ。彼女の発想力から思考を広げることで、ルークはこれまでにあった魔法の強度を増すことに何度も成功している。


 そこでふと、鬼神レインの技を思い出す。

 最強の英雄も少しの準備を必要とするものの、距離も数も関係なく、一太刀で視界上全ての魔物を無価値に帰す絶技。

 聖女サニィ曰く『次元の狭間斬り』

 絶対に壊れぬ宝剣である【不壊の月光】でしか成し得ぬ奇跡の剣術。


 それを自身の魔法としてなんとか使えないものかと考えた。

 そうして出来た霊峰マナスルで放った同じ名前の斬撃の魔法も、エレナの話した空想の様な話から発想を得ている。オリジナルとは原理こそ異なるものの、その結果はほぼ同じ。

 距離も数も、関係なくとまではいかないものの多くの敵を纏めて真っ二つに出来るその魔法は、現在では大砲の様に戦術に組み込まれる魔法使いの起こす超常現象の中で最大級のものとなっている。

 ルークは霊峰以外では一発辺り30秒の時間がかかり、2発撃つと後は1分に一発というペースでそれを放つことができる。

  

「そっか、あの時の魔人様、出してみる?」

「いやぁ、エレナの出すレインさんはちょっとトラウマだ……」


 エレナはかつて鬼神レインに指導を受けていた。

 その時に、レインの幻を生み出す幻術の魔法を覚えていた。

 ただルークを一度だけ脅すために覚えたその幻術は、完全にその恐怖のツボを押さえていた。


「ルー君はまだ魔人様苦手なんだねぇ」


 そう呟くエレナの言葉を聞いて、ふと思い出す。

 

「エレナって、レインさんに勝つこと出来る?」

「無理ね。世界が違うもの。いくら私が誰にでも勝てる可能性があるからって、魔人様は不可能」

 かつて手合わせした時のことを思い出して、エレナは身震いする。

 それを見て、次の質問に移る。

「じゃあ魔王は?」

「みんながいれば絶対勝てるわ。特にエリーちゃんは底が見えない。それに相手は所詮魔物だもの」


 先程とは打って変わってそんなことを言うエレナを見て、ルークは思う。

 

「僕も同じ意見だ。やっぱり魔法使いは個人戦に向かないね」


 勇者と違い、魔法使いは奇跡を起こせない。

 どれだけ思考を凝らしても、効率や出力が上がるだけでイメージしきれないことは現実にすることが出来ないのが魔法だ。

 つまり、勝てないかもしれないと少しでも思った時点で、勝ちの目はゼロになる。

 かつて散々泣かされた鬼神レインと戦うのであれば絶対に勝てないが、逆に魔王の強さを正確には知らないからこそ勝ちの目が見える。同じく今のところその実力を計り知れないエリーを中心とした英雄候補達となら充分に戦える。


「そう考えると、先生はやっぱり凄すぎるよね。一人で120mのドラゴンを消し去っちゃうんだもん」

「うん。先生は勇者なんだなぁと改めて実感するよ。ところでエレナ」


 先程の話を聞いて、ルークは一つの考えに至っていた。

 今までも散々それはこなしてきた。

 しかしながら、そんな考え方をしてはこなかった。

 強さが停滞気味になっている今、弱くなることがないことならば試してみることは悪いことではない。

 

「なあに? ルー君」


 いつも通りに手を繋いだまま、微笑みを向けて振り向くエレナにルークは言う。


「僕たちならではの連携を試してみようか。いや、連携というよりもむしろ、二人で一人っていう考え方で」


 レインに勝つことが出来るかという質問も、魔王に勝つことが出来るかという質問も、エレナ個人に尋ねたつもりだったが違う答えが返って来た。

 それをエレナ一人で出来るかと聞いたんだと否定せずに、何かのヒントになるかもしれないと考える。

 それがルークの強みであって、エレナと共に居る理由の一つ。

 

「ああ、ルー君が死んだら私も死ぬものね。なら最初から一緒に死のうってお話ね」

「いや、違う違う」


 ルークはエレナのことを否定しない。いつも、そのつもりではいる。

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