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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第五章:白の女王と緑の怪物
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第六十七話:漣に帰ろう

「良いかアーツ、王とは決断する者だ。俺は元々平民の生まれ。偶然が重なって王となったが、お前は生まれながらにして王となることが義務付けられている。一子で繋いでいくこの国に於いてはオリヴィアに次ぐ第二子として異例の王子だ――」


 グレーズ王国王城のとある一室で、現グレーズ王ピーテル・G・グレージアは8歳の王子に王としての在り方を説いていた。

 王とは決断する者。それが最近の王の口癖だ。

 彼にとって二人の子どものどちらがより可愛いという事はない。

 しかしながら国を続けていかなければならない以上、苦渋の決断として子どもを作れないオリヴィアを自らの後継者から下ろし、アーツを次期国王として立てることを決断した。

 もちろん、オリヴィアがこのまま活躍して魔王を無事に討伐すれば次期国王はアーツではなくオリヴィアが相応しいという声は大きくなることだろう。

 もしかしたら王城内ですらもオリヴィア派とアーツ派といった二つの派閥に分かれてしまうかもしれない。

 個を重視するグレーズ王国に於いてはそんな対立も一方的に片方を排除すれば解決ということはない。

 民衆の支持を集められなければこの国そのものが続かなくなってしまう。

 国民から王と認められているからこその王制。それがこのグレーズ王国だ。


 だからこそ、王は説く。


「俺はお前とエリーが結婚してくれれば嬉しい」


 決して強制するわけではないけれど、それでも二人の子どもを苦難の道に晒さない方法として、それを推奨する。

 英雄となったオリヴィアが推されることを防ぐには、同じく英雄となったエリーがアーツと結婚すれば解決する。立場上オリヴィアの姉弟子でもあるエリーが王妃となるならば、誰もが納得することだろう。

 更に、もしも二人を対立させようとする者が現れようものならば、あの二人は容赦等しない。

 今や本物の姉弟であるアーツよりも、エリーとの絆の方が深いほどだ。

 だからこそ、これからの道を上手く進んでいく為には、アーツとエリーが結ばれてくれるのが最も好ましい。


 そんな風に考えて。


「もちろん、これから先のグレーズをつくっていくのはアーツ、お前だ。お前は戦ってばかりだった俺よりも随分と頭が良い。もっと良い方法も思いつくだろう」


 そう続けた。


 ――。


「ふああ、おはよ、オリ姉」


 アリエルの所に居着いてからしばらくの時間が経った。

 魔物以外の問題がいくつか出てきてそれに対応していくうち、いつしか魔物討伐にはない疲れが溜まっていた様で昼寝をしていたエリーはもぞもぞと起きだして同室の、本を読んでいたオリヴィアを見て欠伸をしながら目をこする。

 

「あらおはようございます。初代エリーゼ様の伝記、面白いですわよ」


 ちょうど読み終わったのか、パタンと本を閉じてエリーの方を振り返りながら言う。


「それって、私達が師匠から聴いた話と何か違うの?」


 エリーは少しだけ興味ありげに問いかける。

 彼女の師匠レインは世界を巡る旅をする傍ら、七英雄と呼ばれる魔王討伐に大きく貢献した七人の英雄達について調べていた。

 エリーの持つ八本の武器には彼ら七英雄と師匠であるレインの名を冠した名前がそれぞれの得意とした武器に付けられており、その話をよく聞いていた。


 その中でも、エリーが好きでよくねだっていたのがアリエルの祖先である『白の女王エリーゼ』の話だ。

 魔王に滅ぼされた亡国の王女であった彼女が捨て駒の様に何度も魔王戦に駆り出される内、最初の魔王の弱点を見事に看破して討伐し、彼女を讃えた周囲の勇者達が亡国のあった位置に国を建てた。

 そんな悲しくも美しい英雄譚だ。


「流石は当国の文献だけあって、詳細が細かに書かれていますわ。エリーゼ様の言葉も載っていて、とても勉強になりますわ」

「おお、読んで読んで!」

「はいはい、座りなさいな」


 飛びつく勢いで興味を示し始めたエリーを宥めて、オリヴィアは興味深かった部分を音読していく。

 見た目だけでなく声も透き通る様なオリヴィアの口から紡がれる話がエリーは好きだ。

 師匠が居なくなって落ち込んだ日々、彼女は毎夜の様にエリーに師匠の英雄譚を話して聞かせた。

 母親とも、宿屋の女将ともまた違う、オリヴィアならではの心から愛の篭ったその物語に没頭していくうち、次第に元気を取り戻していったことを思い出す。


「……ねえオリ姉、やっぱりちょっと漣に帰ろう」


 思い出して、故郷が恋しくなる。

 以前母親に会いたくなった時よりも更に、単純に、あの場所へと帰りたい。

 師匠と、お姉ちゃんと、お母さんと女将さんと大将と、護衛兵の人達と、そしてオリ姉と過ごしたあの場所へ。

 そんな風に思って。


「ええ、そうしましょうか」


 友達であるアリエルも当然大好きだが、故郷もまた何ものにも代えられない。

 そんな思い出の詰まったその宿に久しぶりに帰るという提案は、オリヴィアにとってもまた願ってもないものだった。


 ……。


「そういうことで、一回漣に帰るけどアリエルちゃんも来る?」

「行きたいのは山々だがな、妾はまだお預けだ。世界が平和になったら必ず行く。アリスさんと女将さんにもよろしくな」

「はい、了解。それじゃね、アリエルちゃん、ライラさん」

 大きく手を振るエリーと、華麗にお辞儀をするオリヴィア。

「はい、お二人によろしくお願いしますね」

「あ、今お前たちが向かうのは吉だ。何か出るぞ。気をつけろよ」

 軽く手を振るライラと最後にそう言い残すアリエル。


 二人は長年修行を重ねた地、今や世界でも有数のつわもの達を揃える港町ブロンセンへと旅立つ。

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