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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第五章:白の女王と緑の怪物
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第六十五話:エリーは容赦ないところもレイン様そっくりね

 世界に知られたランキング上位三人の勇者による武闘会、その結果には誰もが驚愕した。

 もちろんアルカナウィンドの首都、アストラルヴェインの民衆達はライラが優勝すると信じていた。

 オリヴィアが勝つ可能性も大いにあると思ってはいたものの、素手同士であればライラ優勢。

 とは言えオリヴィアが勝ってもおかしくはない。

 そんな風に考えていた。


 常に世界一の大国に所属して強敵を屠ってきたライラは公式の戦績では一番だ。


 だからこそ、民衆達はライラの働きに期待していた。


 結果は、ライラの二敗。

 オリヴィアが二勝で、エリーが一勝一敗。


 まず最初に戦ったオリヴィアとライラは皆の期待通りの接戦を見せた。

 オリヴィアの動きを正確に捉えられた者などおらず、ライラの怪力をもってしてもあれには勝てないのは仕方が無い。

 そんな風に誰しもが納得する結果となった。

 オリヴィアは肌を狙わず服の上から攻撃を重ねることでライラの強靭な肉体を徐々に削っていく戦い。

 強敵を倒すには完全に王道で、その素早さでもってライラの攻撃は完全に回避していた。

 踏み込みで地面を穿つ程のライラの怪力にも一切臆さず華麗な立ち回りを見せるオリヴィアには、新たにファンが出来るほどの魅力があった。


 次いで行われたオリヴィア対エリー。

 これがまた実に2時間にも及ぶ戦いだった。いつもの様にと言えばその通りだったものの、最後に地面に叩きつけられたエリーが参ったと言うまで、観衆は釘付けだった。

 正に一進一退の攻防。

 オリヴィアの圧倒的な速度にも、心を読む彼女は先回りで対応する。

 どちらが勝ってもおかしくないと思わせるその戦いに、得体の知れない6位の、鬼神の弟子と呼ばれる小さな女の子がこれほどまでに強いのかと沸いたものだった。


 そしてしばらくの休憩の後行われた問題のライラ対エリー。

 接戦だった前二戦があって、1位から6位に殆ど実力差など無いと思われて期待されたこの試合。

 当然ながら、観衆は白熱した戦いが見られるのだと思っていた。

 ライラの力は今では国の皆が知っている。

 だからこそオリヴィアも服のある部分にしか攻撃を加えなかったし、この武闘会そのものがライラ優勢だと思われていたのだ。

 

 ところが、第三試合はたったの1分程で決着が着いた。

 

 ライラは170cm程の長身でスタイルも良い。

 細身なわけでもなければウアカリの様に筋肉質な見た目という訳でもないものの凄まじい怪力で、150cmも無い小柄のエリーを相手にするのは少し可哀想だとすら思う程の体格差がある。

 武器を持たずに立ち会えばその差は尚更。


 だからこそ、”鬼神の弟子は一体どんな風に接戦を見せるのか”を皆が期待した。


 蓋を開けてみれば、エリーはカスリ傷の一つも負わずライラを組み伏せて終了。

 全てを跳ね返す筈のライラの肌に平然と触れ、彼女を投げ飛ばしてしまったのだ。


 そして、その戦闘を見ていたオリヴィアも、実際に対峙していたライラも、全く同じ感想を抱いていた。


「レイン様……」


 ダメージを移し替えるその力の特性上、ライラの肌には添えるように優しく触れれば触れられる。

 エリーはかつて力に目覚めたライラに対して鬼神レインがそうやった様に、ライラには拳で一切のダメージを与えずに優しく優しく組み伏せた。

 対策はしていたつもりだった。

 レインには腕や足を伸ばした瞬間を狙われ様々な投げられ方をされた。ところが、エリーは少し違う。突然抱きつかれたかの様に間合いを狭められて頬に手を当てられかと思えば足を取られて転んでいた。

 きっと、レインが男だったからこそやらなかった戦法。

 しかしそれでも、唯一隙だったはずの方法。

 それを見事に見抜かれて、倒れた後には頭に手を置かれ、いつでも地面に叩きつけられるという状況を作り出され、降参をするしかなくなった。


 ライラの猛攻を心を読む力で回避する方法も、そして隙を見抜かれ一瞬にして決着を付けられるその戦法も、正に師匠の如しだと二人ともが思わず思ってしまうほどに、今回のエリーは洗練されていた。


「オリ姉と戦いまくってたせいか、今日は凄く良く見えた。ライラさんありがとう」


 私はまた強くなった。

 そう続くように、エリーは倒れたライラに手を差し伸べる。

 オリヴィアと比べれば、確かに速くはない。

 しかしそれでも、レインに並べる様に、サニィから奪える様にと鍛錬を続けてきたはずだった。


「全く、流石は一番弟子と言った所ね。エリー、今日のあなたは正しくレイン様だったわ」


 そんな風に少し悔しそうに、少し懐かしそうに、更には呆れた様に言いながら、その手を取る。


「ありがとう。でも、ライラさんは私達に本気の反射をしたら怪我すると思って少しだけ力抜いてたでしょ?」

「あなた達相手にそんなことを考える余裕はないつもりなんだけどな」

「私にはなんとなく分かるから。ライラさんは優しいって」

「ははは、エリーは容赦ないところもレイン様そっくりね」


 そうして互いが健闘を称え合った頃、会場もようやくその状況を把握し始める。

 大きな歓声が巻き起こったのは、その少し後からだった。


 ――。


『鬼神レインの一番弟子、小さな守護神エリー。怪物ライラを討伐する』


 次の日、そんな見出しと共に新聞の一面を飾った少女は一躍有名となり、その新聞社はその日の内に潰れてなくなった。

 それ以降、その少女と親交のある者を面白おかしく書くのはタブーとされたのが、この世界の新聞社では有名な話だ。

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