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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第五章:白の女王と緑の怪物
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第六十二話:時雨流格闘術『怪物ライラ』、出ます

「あ、アリエルちゃん、なんか魔物出るよ。西ね」


 四人できゃっきゃと姦しく話していると、不意にエリーが言う。


「了解だエリー、出るぞライラ!」


 断片的な情報さえ得ることが出来ればアリエルの力はすぐに発動する。

 今回の敵はライラさえ出れば対処出来るというのがアリエルの判断。


「はいはい、アリエル様はお留守番ですよ」


 いつもの様に自身も出撃しようとした所で、ライラに制される。

 普段はライラが戦場に出る時にもアリエルは付いていく。ライラの力の関係上、そして強さの関係上、どんな危険な土地に行くとしても、アリエルにとって一番安全な場所はライラの側だ。

 しかし、それはそもそもライラ以上に護衛の力に優れた者がアルカナウィンドには存在しない為。


 ところが、今はそうではなかった。

 守ることに関しては既に誰よりも上の可能性があるエリーが居るし、今や全ての勇者の頂点に立つオリヴィアが居る。

 この二人の護衛を突破してアリエルを暗殺することなど、例え二位と三位のライラ、ナディアが組んだとしてもまず不可能だ。


 つまり、ライラが戦場に出向く以上世界で最も安全な場所はエリーとオリヴィアの側という事になる。


 ついいつもの流れで言ってしまったものの、すぐにそれを理解したアリエルは少しばかりしゅんとする。

 例え大丈夫だとしても、姉の様なライラを一人で戦場に出す事は気が引ける。

 女王の命のストックという大変な役割を押し付けて、レインが現れるまでは苦しんでいた彼女を知っているアリエルはどうしてもせめて側に居たかった。

 とはいえ、戦場で自身が危険に晒されれば逆にライラが危険に陥ってしまう。

 エリーとオリヴィアが居なければ女王の安全の為という名目上付いていけるのだが、今は二人がいる。

 複雑な状況にアリエルは、何も言えずに黙り込んでしまった。


 女王である以上、安全に越したことはない。


「私達も行く。久しぶりにライラさんの戦いが見たいし」


 しかし二人の心を読んだエリーはすぐにそう提案する。

 正しい道が見えてしまうが故に自身の心を押し殺してしまうことのあるアリエルを、エリーはよく分かっていた。こういう時に客人に戦場で護衛してくれなどど言えない彼女には、別の理由を用意してやれば良い。


 女王を危険な目に合わせることになるのは一先ず置いておいて、友達として我儘を言うという名目で。


「わたくしも見たいですわ。エリーさん、敵はなんですの?」

「多分巨人系!」

「おお、それなら是非! エリーゼ様、お守り致しますわ!」


 そんな風にあえてテンションを上げて話す二人に、アリエルも目を輝かせる。

 

「ちょっとロベルトに言ってくる!」


 そう言って駆け出すアリエルを見送って、ライラは逆に苦笑いだ。


「エリーにオリヴィア様、あんまりうちのアリエルちゃんを甘やかさないで下さいよ」


 とは言え、呆れているだけで嫌がっているわけではない。


「いやいや、私が守るのはアリエルちゃんだけじゃなくてライラさんもだよ」

 エリーはにかっと笑ってライラを向く。

「ははは、甘やかされるのはアリエルちゃんだけじゃなくて私もってことね」

 その笑顔の理由をすぐに理解したライラもまた笑いながら納得する。

「そういうこと。助け合ってこその未熟者達だって師匠も言ってた気がする」


 アリエルが怪我をすれば、結局はそれをライラが請け負うことになる。

 しかしライラ自身も強大な敵と戦えば当然無傷とはいかない。


 物心付いた時から王城に連れてこられた女王の命のストックとして仕えてきたライラには、常に側に優しかった前女王やアリエルが居た。

 その為、彼女はいつしか孤独を僅かに苦手としている。


 完全に一人で戦えば無意識にのめり込み過ぎて怪我をしているのに気付かないことがあるし、逆にアリエルを連れていればそちらに意識が行ってしまって隙が出来てしまうこともある。

 誰かに守ってもらっているアリエルが近くにいるという状況が、ライラにとっては最良のコンディションを作り出す為の環境だ。


 かつてのレインと今のエリーだけは、それを見抜いている。


「まだ私の方が強い筈なのに、敵わないなぁ」


 笑いながら、ライラは言う。

 エリーの洞察力は、流石に師匠譲り。

 正統派な強さを引き継いだオリヴィアとは、また違った意味でそれらしい。

 二人が二人とも、頼りになる。


 そんな風に思いながら、ライラはストレッチを始める。

 本気の戦いの前の、充分に心を落ち着かせる為のルーティーン。

 まだ鬼神と聖女が生きていた頃にした大怪我から学んだ柔軟性の重要さ。

 ドラゴンを蹴り飛ばしたレインの真似をして浅はかなことをしたものだと何度も反省したことを思い出す。

 相手が巨人であるならば、また同じ怪我をしないとも限らない。

 他の英雄候補と違って武器を使わないライラならではの時間をかけた準備を、今日はいつもよりも入念に行った。


 ……。


 ばんっとドアが開くのと同時、いよいよとアリエルが叫ぶ。


「みんな! 敵はタイタンだ! 打って出るぞ!」


 それに答えるライラは、いつにも増して生き生きとしていた。


「時雨流格闘術『怪物ライラ』、出ます。見ていて下さいね、エリー、オリヴィア様。正統後継者ではないですけれど、ようやくその技をモノにした私の戦い」

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