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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第四章:生の楽園を突き進む
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第二十九話:落ち着けばここは生の楽園

 さて、ジャングルに入り三日目。

 いきなりトラブルはあったものの、次の日にはショック療法により一応の解決を見せた二人。サニィは壊れないと言うだけの理由で宝剣になっている名も無き剣が、何故勇者の剣なのか、その理由を今更ながらに思い知らされた。確かにあれならば、ほぼ全ての剣は振るった瞬間に柄と刀身が分離するだろう。

 そしてこの日からサニィにある異変が起き始める。

 恐らくショック療法の影響だろう。

最初は殆ど違和感だった。 

 

「あの、レインさん。何やら蛇口の感覚が不思議です」

「どういうことだ?」

「何やら出力が大きすぎるような……。微妙に制御できてない感じというか」


 レインが見てみても、その原因は掴めない。それは欠点ではないと言うことだろうか。

 しかしながら、サニィの咲かせる花の量はは、確かに昨日までよりも大きく増えている様だ。意識せずとも量が増えている。

 それは魔法の常識としては不思議なことだとサニィは言う。


「普通はなるとしたらイメージよりも小規模になりますからね。イメージよりも大きく咲くってのは少しおかしいですね」

「なるほど。しかし俺が見ても全く分からん。アドバイスのしようがない」

「ってことは、少なくとも悪いことではないってことですよね。なら受け入れてみますね」


 レインの力は隙を見つけること。これで何かデメリットが発生するならそれが見えるはずだが、何も分からないと言う。

 それならば、非常識も受け入れる準備が、ここまでの道中でサニィには出来ていた。

 蛇口の口径が広がったと言うよりも、溢れ出てしまう感じではあるものの、魔法の出力が増えることは好ましい。


 二人はジャングルの中、レインの切り開いた道を進みながら、その感覚の正体を見極める為にのんびりと進むことにした。


 そうなってやっとのこと、サニィにはジャングルに突入したんだと言う実感が湧いてくる。

 初日は突然の展開と一人で寂しく歩いたことで、楽しむことなど全く出来なかった。

 二日目はドラゴン怖いと思っていたらレインが理解の外にある行動を起こして殆ど何も覚えて居ない。

 三日目にしてようやく、周囲で動物がキーキーミャーミャーと鳴き、見たこともない七色の鳥がバサバサと飛び立ったかと思うと、体長30cmはあるかと言うトンボが音もなく羽ばたいている。そんな状況に気付く。


「ここが、ジャングルですか……」


 そんな間抜けな発言が口をついてしまう。

 周囲をよく見ると、本当に様々な生き物がいる。真っ青で手のひらよりも大きい蝶。握りこぶし程の真っ赤なテントウムシ。足元には

 巨大なビリジアンの胴と赤い頭を持つムカデ「ひゃっ」それは怖いけれど、本当に生き物がいっぱいだ。

 遠くを見ると猿、だろうか。胴に対して異常に手足と尻尾の長い黒い毛むくじゃらが樹から樹へと飛び移っていた。

 よく見ると、木々の高さも優に30mは超えるだろう。陽の光は差し込むものの、なかなかに湿っぽい空気の中、木々の葉っぱがエメラルドの様に輝いている。

 サニィはそんな環境を改めて、瞳をキラキラと輝かせ始めた。


「ようやく楽しそうになってきたな。俺の目的は旅だったから、お前も楽しんでくれると嬉しい」

「半分はレインさんのせいで楽しめなかったんです!ところで、ここで出来る良い修行ってないでしょうか!!?」


 サニィはレインにそんな軽い文句を言いつつも、瞳は輝かせたままに問う。

 楽しくなってきたら、やるべきことも捗る感じがしてきたと言うわけだ。

 魔法はあくまでもイメージが重要な以上、やる気のある時の努力は身になり易い。

 出来ると思えば出来る。そんな状況も起こり得るのが魔法だった。


「ならば探知はどうだ?あらゆる生き物をそれで観察出来たら面白いだろう」

「なるほど! やってみます! みんな私に姿を見せてね!!」


 サニィは子どもの様にはしゃぎ出す。

 昨日一昨日とのあまりのテンションの差に、レインも流石に苦笑いが漏れるが、ジャングルに連れてきて良かった。

 やっとのこと、そんなことを思うことが出来た。

 一方、意気揚々と探知を使い始めたサニィは、本人はテンションの上がり過ぎで全く気付いていないが、大幅に成長していた。


「レインさん! 500m位先にマルタガニが居ますよ!! 沢があるみたいです! あ! あれはフォレストウルフの群れ!? わー!レインさんレインさん!! フォレストウルフですよ! 可愛い!! あの赤茶色の毛並みが良いんですよね。それにくりっとした目。体は大きいけれど優しそうな、あ、ストライプタイガータマリン!? はあぁぁぁああ、本物を見られるなんて!! レインさんレインさん!! ストライプタイガーたまらん!! たまらん!!!」

「何やら一瞬にして随分と成長したみたいだな。俺には分からないから一緒に行ってみようか」

「はいっ!!」


 はしゃぐサニィを見て、なんとも可愛らしいと思いつつ、レインもジャングルを楽しむ。どちらかといえば気になるのはサニィの方になっているが、はしゃぐ彼女に手を引っ張られて進むと言うのも旅の醍醐味だ。

 そんなことを考えながら、二人はジャングル突入三日目にして、ようやく観光を楽しみ始めることが出来た。

 何気に二人の趣味は似ている、と言えなくもないかもしれない。

 ストライプタイガータマリンとはどんな強い生き物なのだろう。タイガーと付くからには虎の様などう猛な性格や奇襲戦法が得意なのだろうか、と的外れな期待しつつ、レインも歩みを進めた。

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