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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第四章:最弱の英雄と戦士達
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第四十五話:乙女の幸せを

 次の日、オルゴール博物館からほくほくと出てきた二人はちょうどその出口でマルス達と出会う。

 ぱっと見エリーの倍はあろうかという二人組だ。今は宿に預けてある武器を、普段は大量に背負っているエリーとは別の意味で、普通に目立つ。

 150cmに満たないエリーに、165cm程のオリヴィア、それに対して目の前の男女は共に190cm程。筋肉質な体付きも含めれば、質量は倍を超えるかもしれない。そんなカップル。


「クーリア姉久しぶり、元気?」

「お久しぶりですわクーリアさん」

「ああ、二人共久しぶりだな、すまないな」

「もう、開口一番謝らないでよ」

「そうですわ。クーリアさんは乙女の幸せを掴んだのですから、むしろ誇るべきですわよ」


 まずはそんな挨拶から始まる。

 クーリアは、かつての女戦士国家ウアカリ首長だ。

 女戦士国家ウアカリは女しか生まれず、他国からやってきた男と交わっては子孫を残す国。その力は皆一様に、男の強さを見抜くことだ。力の弱い者は正確には見抜けず男なら誰でも良く、強い者程詳細が分かる代わりにより強い男を求める。


 そんな中でクーリアは英雄の再来と呼ばれ、ウアカリで最も強い戦闘力を持っていた。見抜く力は平均的なものの、その戦闘力はかつてのオリヴィアに程近く、手にした大剣でドラゴンの首を一刀両断した実績も持つ。


 しかしそれも、過去のことだ。


「アタシは止まってしまった。今ではナディアどころか妹にすら歯が立たない。戦士として精一杯戦うつもりだが、足を引っ張らないかどうか」


 かつてのウアカリ最高戦力クーリアは、不意の出来事でマルスに助けられ、つい恋に落ちてしまった。

 そして、マルスが応えた瞬間、その成長は完全に停止した。誰に言われなくとも、応えられた瞬間に実感したと言う。

 ウアカリの女戦士は、恋が叶うとその成長を止めてしまう。

 だからこそ、ウアカリの女戦士達は昔から基本的に外に出ず、国内で一夜の関係を続けてきた。それを実証した者は居なかったが、本能的にだろうか、男は肉体関係前提で、恋に落ちるものではないという認識が通常だった。


 しかしクーリアは、不意の出来事からそれを叶えてしまった。

 そして、マルスは不老不死だ。


「大丈夫ですわ。その為にわたくし達が時雨流を継いでるんですもの。最終的にはわたくしとエリーさんだけでも魔王を倒せる様に訓練してますもの」

「そうそう。クーリア姉が悪い訳じゃないから」

「ありがとう。情けない限りだが」

「それにナディアさんもいるから」

「ナディアか……。あいつにも迷惑をかけて……」


 苦しそうな顔を隠そうともせず、クーリアは言う。


 クーリアは、今でも強い。成長を止めたとはいえ、隙さえ作ればドラゴンを一刀両断出来る実力者だ。

 今でこそ英雄候補達で一番弱くなってしまったものの、それでもグレーズ国王ピーテルよりは遥かに強い。


 しかしそれを遥かに超えて強くなっているウアカリ戦士が一人居た。

 かつてのウアカリナンバー2、目的の為ならなんでもするナディアという二刀流の戦士だ。

 聖女サニィに瓜二つの顔で、聖女より遥かにスタイルが良い。そんな戦士だ。


 そして、ウアカリの女戦士は恋が叶えば成長を止める。しかし逆に決して叶わぬ恋をすれば…………。

 

 ナディアはウアカリ史上最高と言われる程の強度の男を見抜く力を持っていた。

 つまり、鬼神レインに狂っていた。


 彼女はある事件の結果、気付いた時にはレインを失っていた。

 挨拶の一つも出来ずに、知らない間に消えられていたのだ。

 せめて最後に話せたのなら違ったのかもしれない。

 それが聖女のちょっとした悪戯によって、いや、本人が聖女を超えて無理やりレインを求めようとしたせいであることは分かっている。

 それでも、気がついたら居なくなっていたという事実に、絶望して、そして、強くなった。


 その心の内は誰にも分からないものの、聖女の友人にしてライバルだったライラを見る度に襲いかかってしまう程には傷付いていることを、誰もが知っている。


「私はレインさんの意志を継いで、何がなんでも魔王だけは倒します」


 そういう悲痛な覚悟を、今は誰もが知っている。


 だからこそ、クーリアはそんなナディアに後ろめたさを感じていた。

 苦しむ友人を差し置いて恋が叶ったことはともかく、強くなることを止めてしまったことを悔やんでいた。


 そうして落ち込んだクーリアを、新しく首長となったナディアはウアカリから追い出したのだった。

 

「んもう、ナディアさんの真意を私が言うのは反則だけど言っちゃうよ。せっかく本物の恋を叶えたんだから、私の分まで幸せになればかやろうって思って、ナディアさんはクーリア姉を追い出したんだよ。落ち込みっぱなしじゃナディアさんまで報われないよ」

「なんだかんだで、ナディアさんはそういう人ですわね」

「そうだ、クーリア。僕はナディア君から、クーリアをお願いと頼まれている。もちろん、イリス君からもだ」

「止められない感情があることはナディアさんが一番知ってるからね。あの人程本能に支配されてる人いないから。だからクーリア姉も安心してよ」


 前回の世界首脳英雄候補会議、参加しなかったクーリア以外はそのことを知っている。

 追い出されたからというもの後ろめたさから中々マルス以外に会えなかったクーリアだけが、それを知らなかった。

 もちろん、マルスは何度もそれを伝えていたわけだが、それでも中々上手くは届かない。


「私としては、今回の襲撃を凌いだらウアカリに帰ることをお勧めするよ。一度ナディアさんと拳交えてさ、戦士らしくずびしっと決着つけるのが良いわ」


 こういう時のエリーは、流石十年以上心を読み続けてきただけはある。

 クーリアの戦士の心を刺激しつつ、ナディアと和解するには確かにそれが一番だ。

 女戦士の国、基本的には繁殖と戦いしか考えていない馬鹿の集まりだ。

 そんな中で拳でのやり取りは、確かにウアカリの本質だと言える。


「ああ、アタシとしたら、馬鹿が何を無駄に考えていたんだろうな……。停滞したせいで戦士の本分すら忘れてしまうとは……、分かった。まずは今回を乗り切ろう」


 クーリアは強い。

 少なくとも本物と英雄の並ぶ資格がある程度には。

 それはこの場の、いや、全ての英雄候補達が知っている事実だった。

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