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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第四章:最弱の英雄と戦士達
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第四十四話:流石本当の英雄は格好良い!

 マルスという英雄がいる。

 160年前、赤の魔王と呼ばれるイフリートの魔王を討伐した際の功労者。

 エリーがよく先制攻撃をする際に投げる槍の名前にもなっている英雄だ。


 七英雄が一人、『不屈のマルス』


 何千何万人もの勇者の命の上になんとか討伐する魔王戦に於いて、全死者数が100を切ったのは表の歴史上二度のみ。

 鬼神レインのただ一人の犠牲者も出さず二人の魔王を討伐した記録に比べたら大したことはない様に思えてしまうが、本来は多くの屍を乗り越えて達成するのが魔王討伐だ。

 その中で、最も少ない死者数の記録を作った英雄がこのマルスである。


 そしてこの英雄は、歴史上圧倒的に最弱の英雄としても知られている。


 ――。


「お、いたいた、マル、えーと……」

「アレス様、お久しぶりですわ」

「そうそう、アレスさん、お久しぶり」


 夕方、ある街で二人は、今はアレスと名乗っている英雄に挨拶する。

 街は平和そのもの。もうすぐ近くに魔物が出るのに、魔王が生まれると言うのに緊張感の欠片もない。

 そして160年前の英雄は、今も尚好青年だ。

 不老不死の力を持っている彼は、相変わらず人好きのする笑顔で返事をする。


「おお、オリヴィア君エリー君、久しぶりだね。呼び方はどっちでも良いけれど、元気だったかい?」


 190cm程の長身に引き締まった肉体。

 自身の身長よりも遥かに長い槍を持って、かつての英雄は手を振る。


「ええ、一昨日国家の危機を救った所ですわ」

「ははは、相変わらず最強を継ぐわけだ」

「ディエゴさんも凄かったんですよー。キマイラ倒して」


 エリーが自然と敬語になるのは、本気の師匠の前とマルスの前のみ。それ程に、この英雄は英雄然としている。

 マルスに関しては、特にその精神が英雄だ。


「キマイラか……あれは怖いね」

「キマイラの魔王だったら私全く役に立たないですよぉ……」

「その時は僕に頑張らせてくれよ」


 この調子だ。

 マルスはその強力な力、不老不死の影響か、英雄としては余りにも弱い。デーモンと同程度だ。

 ぎりぎり一流といった所。

 つまり、魔王を前に一人で死に続けることによって隙を作ったというわけで、……普通であれば心が折れるどころの話ではない。

 それをまた魔王が現れるのならと名乗り出る程の精神力だ。

 鬼神レインも認めざるを得ない程のその心の強さこそが、最弱の英雄が最も少ない犠牲者で魔王を倒せた理由である。


「そうじゃないことを祈りますわ」

「ははは、頼もしい」

「ところで、もう一人は?」

「ああ、彼女は少し買い物さ」


 現在マルスにはパートナーがいる。

 3年前の各国首脳、英雄候補会議からの帰り、たまたま真横に生まれた巨大なワームから助けた時以来の関係だという。


「様子はどう?」

「最近は元気だよ。ただ、やっぱり変わらないね」

「そうですのね。やはりあの力は、そういうことなのですね……」

「心配かけてすまないね。何があっても、彼女は必ず僕が守るよ」

「流石本当の英雄は格好良い!」

「ははは、茶化すのはよしてくれよ。僕に出来るのは精々犠牲になるくらいのことさ。実際は彼女の方が遥かに強いんだから」

「それが出来るのがマルスさんくらいなんですよー」


 不意に襲いかかる巨大な両の顎にいち早く気付いたマルスは、相手を押し退け食べられたのだと言う。

 この世界には、魔物が生まれない場所がいくつも存在する。そこに街や村が出来人が生活するわけだが、そこを一歩出れば何が起こるか分からない。

 不意に起こったそんな出来事に、相手は大きな感動を覚えたらしい。

 完全に油断していた自分も悪いのだけれど、それ以上に身を呈して守ってくれたことが嬉しかったのだと。


 その人物はワームを一撃の下に真っ二つにすると、その感動のままに告白して、マルスもそれに応えたのだと。


「んー、まだ嫌な感じはしないし、今日はこんな時間だけど観光にしようよオリ姉」

「そうですわね。そういうことですので、マルス様達もごゆっくり」

「もう、オリ姉はすぐ変な想像して……万年発情期」

「はは、ここは良い街だ。明日も大丈夫そうならオルゴールの博物館なんかに行ってみると良い」


 そうして、三人は一旦別れることにした。

 目的地付近に早く着くに越したことは無いが、正確に何処にいつ出るのかが分からない以上、細かいことはエリーの勘が最も正確だ。

 ここはアルカナウィンド国内。一先ず顔合わせが済んだので、後はいつでも連絡が着く。

 最悪放送してもらえば良い。


「オルゴール博物館かー。そう言えば、お姉ちゃん何故かタンバリン持ってたよね。あれなんだったんだろ」

「オルゴールからタンバリンってどう繋がるんですの……」

「両方音出るから。私はこの国ではぬいぐるみ博物館には行きたいな」

「あ、それはわたくしも。今度行きましょうね」

「……なんかオリ姉と合うのはちょっと抵抗あるのはなんでなんだろう」

「わたくしは嬉しいですわー」

「あ、今さらだけどアーツに稽古付けるの忘れてた!」

「ああ、大問題ですわ!」


 そんなまとまりもない他愛ない会話をしながら、黄昏時の街中を二人で歩く。

 世界の危機に瀕して尚、この国は平和そのものだった。


 ――。


「待たせたねマルス」

「ちょうど今オリヴィア君達と会ってね。まだ魔物は出ないそうだから観光してくるみたいだ」

「入れ違いだったか。そういうことならアタシ達も散歩しようか」

「そうだね。450年以上昔、初代英雄エリーゼが今も尚影響を与え続ける国。やっぱりここも良い国だ」

「ああ、……守らないとな」


 一方こちらの二人は覚悟を決めた様子で、そんな会話をしながら歩き始めた。

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