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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第三章:王国最強の騎士と王
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第四十三話:何言ってるのかよく分からない

 討伐軍の試験が終わり、アルカナウィンドから次の報告を受けた二人は隣の大陸にやってきていた。

 現在では大国アルカナウィンドがその7割を占めるこの大陸は、ドラゴンと名の付くいくつかの固有の魔物が住んでいる。

 そんな奴らが大発生する為に手が足りないらしい。


 それはともかく、転移ですぐに移動してきた為に二人はまだ試験のことを引きずっていた。


「いやぁ、オリ姉の目は割と節穴だと昔から思ってたけど、まさか実の父親が分からないとはね」

「お恥ずかしい限りですわ……」

エリーも今回は決闘の遺恨はなく、それよりもオリヴィアの失態が面白い様子。


「あっはっはっは。あれでバレないと思ってる王様も面白かったけどオリ姉以外の騎士達は全員気付いてたからね」

 そう言われてハッとする。試験中は王の剣がかなり鋭敏で集中していたせいで周りの反応までは覚えていない。

「ぜ、全員?」

「うん、あの剣筋は王様だって」

 腰の長剣をとって王の真似をする。

 流石にあらゆる武器を使いこなすだけあって、その動きは瓜二つだ。


「うう、お父様の剣をあれほど知らないとはわたくしは……」

 改めて見れば、その動きには、見覚えがある。

「レイン様レイン様ぁー」

 がっくりと項垂れるオリヴィアに、エリーは口を突き出して挑発する。

「な、なんですのそれは……」

「オリ姉の真似」

「くぅ、でも確かにレイン様とお姉様にかまけて、いや、でもレイン様はわたくしの命ですしお姉様はわたくしの……。それは変えられませんわ!」

 否定したいけれど、その言い方すら似ている。結局何も言い返せずアイデンティティで返すしかないオリヴィアには無慈悲に追い討ちがかけられた。


「何言ってるのかよく分からない」

「あなたから言ってきたのでしょう!?」


 はあ、と溜息っぽく息を吐きながら、叫んだオリヴィアを制すると、エリーは突然オリヴィアの頭を撫で始める。

 突然のことに戸惑っていると、エリーは続ける。


「いや、思想的な話をしてるんじゃなくてね、師匠の剣を追いかけるだけ追いかけてちゃんと家族の時間を過ごせてるのかなって不安になっただけ」


 エリーにとって、本当の家族は母親しかいない。父と姉の様に慕ったレインとサニィはもういないし、姉にしても良いと思っているオリヴィアには、血の繋がった本当の家族がいる。


「……まあ、確かに家に帰る時間は短いですけれど、先程の闘いで家族の絆を再確認しましたわ」

 苦し紛れにそんなことを言うも、エリーは優しげな顔を崩さない。

「最後まで気付いてなかったけどね……。まあ、王様はオリ姉に自分の力を見せたかったみたい。鍛錬を 再開した理由、オリ姉が強くなったからみたいだからさ」

「そうですの?」

「そうなのよ。だから、魔王討伐終わったらちゃんと家族団欒しないとね」

「その時は『漣』の皆さんとエリーさんも一緒にお願いしますわね」

【あなたも家族だと思ってますからね】

「ん、わかった」


 心の声まで使って言われてしまえば、エリーも頷くしかない。

 エリーの答えに満足したのか、オリヴィアは少しだけ晴れやかな顔で言う。


「それにしてもお父様、強かったですわ」

「そうね。騎士団の中でも確実にディエゴさんの次に強い」

「ええ、あんなに強かったんですのね」

「ははは、オリ姉は自分のお父さんがどれだけ弱いと思ってたのよ」


 先程とは違う笑い。

 しみじみと言うオリヴィアに、エリーも優しげに答える。


「それは、……わたくしなら最初の一手で確実に勝てると思ってましたわ」

「無理だったね、でも、王様も満足してたよ。本気でやっても勝てないって。流石は俺の娘だって。師匠の所に預けるのは寂しかったけど、それだけの価値はあったって」


 エリーの心を読む力に秘匿は出来ても、嘘は吐けない。彼女の言葉は、いつでも本物だ。


「ふふ、色々と心配かけてしまったんですのね。今度ちゃんと親孝行しないといけませんわね」

「そうだね、良いお父さんだね」

「ええ、ほんとに」


 そんな風にしみじみしていると、エリーが不意に立ち止まる。


「……私寂しくなったからお母さんの所に帰って良い?」

「お待ちなさいな。これが終わったら一旦帰りましょう。わたくしも久しぶりに女将さんとアリスさんのお料理食べたいですもの」

「ふぐ獲って行こうね」

「そうですわね」


 エリーの母親アリスは、フグを調理出来る。

 かつて聖女サニィが振る舞ったフグ料理に感動して、修行に行ったのだ。

 半年程、ルークに転移してもらって、極西の島国に。


 ――。


「それでは皆さん。今までお世話になりました」

「ああ、たまちゃんが居なくなると寂しくなるね」

「やらなきゃならないこと、上手くいくよう応援してるね」

「いつでも戻っておいでね」


 河豚料理『海豚亭』の店先で、妖狐たまきは皆に見送られて旅立った。

 かつてエリーの母親アリスとも共に働いて慣れ親しんだこの店を旅立って、一冊の魔法書を手に入れた狐は、すべきことをする為に、南へと向かう。


 ――。


「お母さんがたまちゃんたまちゃんって言ってた人がお姉ちゃんが言ってた妖狐たまきだって知った時は連れてったルーク君ぼこぼこにしてやろうと思ったけど」


「いや、あなた……」

 思いっきり殴りかかって、エレナと全力で止めたことを思い出す。

 

「まあ、でも、アリスさんも無事で良かったですわ」

「たまちゃん良い子って言った時は魅了されてると思ってびっくりしたよ」

「違って良かったですわね。ま、お姉様とレイン様が見逃したんですもの。何かあるんですわ」


 そんな話をしながら、二人は歩く。

 もう少し進んだ所で、仲間が待っている。

 不変の英雄と、もう一人。


 久しぶりの再会を少しだけ楽しみにして、二人は進む。

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