第四十一話:ディエゴさんが倒した時には感謝してた、ました
「魔法使いが強くなったっつっても流石にあの化け物は俺たちにゃ無理だなぁ」
「ああ、流石は騎士団長様って所だ。やっぱすげえよ鬼神様のライバルはよ」
「で、どうですか騎士団長様。体の具合は」
負傷したディエゴは、門前に待機していた魔法師団の所へ運ばれて行き、そこで治療を受けていた。
今回は王の指示により戦闘に参加しなかったが、この国の魔法師団には世界トップクラスであるとされる四人の魔法使いが在籍している。
通称『ジャム』と呼ばれる四人組の魔法使いだ。命名は聖女。
というより聖女が冗談で言った所チーム名として名乗り始めたのが『ジャム』である。
ちなみにメンバーはジョン、ジョニー、ジョージ、サムだ。
「ああ、随分と良いようだ。流石だなジョセフ」
「俺はジョンですが」
「これはすまない、ジョン」
「面倒だから『ジャム』で良いですよ。あんな化け物を倒した英雄に名前を覚えて貰おうなんて恐れ多い」
「やめてくれ……。今回は私のわがままで単独討伐しただけなんだ。君達の助けがあれば怪我一つなかっただろうさ」
「ま、それはそうっすね」
こんな風な軽口を叩きながらも実力は確かなのが『ジャム』の四人。
より効率的な呪文の研究で名を馳せたこの四人が放つ魔法は、詠唱の時間はかかるものの一撃の威力だけで言えばルークに匹敵する。
今回はキマイラを見たディエゴの覚悟した表情と、「うっひょー」等とテンションを上げていたジャムを見てディエゴに討伐を一任した王だったが、キマイラが悲劇の存在でなければ彼らの魔法で随分と楽になっていたことだろう。
それをディエゴ自身がわがままと言う辺り、王との信頼関係が伺える。
「さて、骨もくっついたことだし俺らは後片付け行ってきますから騎士団長様はもうちょっとゆっくりしててください」
「ああ、すまないな、ジョセフ」
「ええ、ちなみに俺はジョニーです」
「……助かった、『ジャム』」
名前が覚えられないから『ジャム』で統一する。
それが、彼らがジャムと名乗り始めた悲しい理由だった。
何故か一人だけ名前にジョが付かないサムも名前を覚えられない。いや、何故かではなくそれはサムが全く喋らないからなのだが、それは今回は置いておこう。
ともかく、ジャムの四人は騎士団や他の魔法師団に混ざって片付けを始めたのだった。
――。
討伐から三時間後、ディエゴが感知してババ様の部屋に戻った皆は今回の総括を始める。
「さて、報告を聞こう」
「わたくしとエリーさんはデーモンロードを一体ずつ討伐。他の危険は特になく、多少の雑魚を片付けた程度ですわ」
端的に答えるオリヴィア。
「デーモンロードはどうだった?」
「動きが速くて一撃が重くて堅いから強いですよ。魔法も詠唱する余裕ないだろうし、基本的には単独で強い人だったり、狛の村の人達みたいな素早い人向けかも。ともかくシンプルな魔物の強さを突き詰めた感じかなぁ」
敵の情報はエリーが答える。最速で倒すことを得意とするオリヴィアよりも、観察して奇を衒うエリーの方が魔物の分析は得意だ。今回は誰が答えても同じような気もするが、これが恒例となっている。
「そうか。勝てて何よりだ。見てないかもしれんが、キマイラはどうだ、エリー?」
爆音を響かせながら周囲で動く全てを打ち付けるそれは、凄まじい強さだったことに間違いはない。少なくとも、地形が変わっている。
「私達が戦ったデーモンロードよりは大分強いかな。70mのドラゴンと変わらないレベルな気がしました」
敬語の苦手なエリーはいつもの様に報告を続ける。これを咎める者は誰もいない。
「悲哀の塊。世界の全てを恨んでいて、ディエゴさんが倒した時には感謝してた、ました」
「そうか」
答えたのはディエゴだ。少しだけ安堵したように。
「じゃあ、『ジャム』を出さなかったのはある意味で正解だったってことだな」
「そうですね。あの人達のテンションで倒す相手じゃなかったかな。まあ、魔物だから結局は倒すしかないんだけど」
「複雑な気持ちですわね。ディエゴはどうやって倒したんですの?」
「首を全部斬り落とした」
「…………」
結局どうするのが一番良いのかは分からないままだったが、一先ずエリーの言葉通りディエゴが倒したのが良かったことだとまとめて、今回の襲撃は終わりを告げた。
死者はゼロ。怪我人はディエゴ、三箇所を骨折したが既に完治済み。
大勝利ではあったものの、今一すっとしないキマイラという魔物を討伐して王都を守った面々は、更に鍛錬に励むことを心に決めた。
特に、少しの雑魚を倒しただけで殆ど何も出来なかった騎士団は強くそれを誓った。
明日からは冒険者からも魔王討伐軍への志願者を募るのだ。
その連中の誰にも負けることは許されない。
そしてもちろんそれは、王ピーテルも同じだった。
あのキマイラを相手に自分も戦えたのなら。
誰よりも強くそう思っていたことを、その場の誰もが理解していた。




