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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第三章:王国最強の騎士と王
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第三十七話:エリーさんも姉上も、僕はどちらも応援してます

 次の日、訓練場では朝一で模擬戦が行われていた。

 この二人が戦うと決着まで毎回1時間程の時間がかかる。互いに防御は徹底しているし、攻撃力が特別高い部類でも無い為に、観戦者も単純に世界最高峰の攻防を分析的に楽しめる。

 エリーの様に誰にも真似出来ない暴れ方をするわけでもなく、王国式の最高峰と個人技の最高峰と言った戦いだ。


「くっ、私の負けか」

「ふう、ディエゴも本当に強くてわたくしも大変ですわ」


 勝者はオリヴィア。

 勇者の力は必中。単純に、如何な状況であっても攻撃を命中させられる。ただそれだけ。

 勇者の素質はそれ以外の全てが身体能力に振られている為に、単純に世界でトップクラスに身体能力が高い。その初撃は特に洗練されていて、雷姫の雷の部分はそこから来ている。一筋の閃光。それを知っていて待ち構えているのならば、それを単純な身体能力で回避してあらゆる体勢で必中の攻撃を見舞う。

 それがオリヴィアの戦闘スタイルだ。

 王国式を基本に置いた形を、時雨流で大幅に改変した戦闘スタイルだ。

 

 対してディエゴの能力は絶対回避と二重の斬撃。その力の真相は平行世界に体を移動させる、そして平行世界の自分の斬撃をこの世界に顕現する。つまり平行世界への干渉だと言われている。

 平行世界が確認されていない以上、恐らくという他ない能力だが、当たっている様に見えて当たらない、逆に当たらないと思った攻撃が当たるのだからそれで納得するしかない、絶対回避と二重の斬撃の方が分かり易い。そんな力だ。

 強力な力と引き換えにその身体能力は勇者の平均より少し上でしかないものの、その力を使わずとも騎士団の全員を圧倒する程の達人だ。

 

 レインの弟子になる以前は、オリヴィアがディエゴに勝利することは有り得なかった。

 単純に鍛錬の差でディエゴの方が上だったし、その特殊な力もディエゴの方が遥かに上だ。

 いくら身体能力で優っていても本物の達人には通用しなかったし、必中も世界を跨ぐディエゴには届かない。

 

「しかし、レインに続き姫様にも私の回避が効かなくなるなんてな」

「レイン様直伝の時雨流奥義ですわ」


 最初は、絶対回避をたまたま超えられたのが勝因だった。

 その時のディエゴの力は絶対回避だけだったし、ディエゴの攻撃さえ当たらなければいつかは勝てる戦いとなっていた。

 その内、ディエゴが二重の斬撃を使える様になると、負けがかさみ始めた。

 避けたつもりの攻撃が平気で追撃してくるその攻撃は、レインすら驚いていたレベルだ。

 その時になって、再び壁が出来たのだと複雑な感情になった。

 ちょうどその頃ドラゴンをエリーが一撃で倒して、自分には才能がないのではないかと思い始めて落ち込んでいると、師匠は言った。

「お前は次代の最強であれ」

 そんな一言だった。

 それはつまり、圧倒的に強い師匠から見て、自分は最強で居られるということに他ならない。


 それを認めると、それからのオリヴィアは、強かった。

 よくよく観察してみると、ディエゴの能力には隙がある。

 圧倒的な身体能力を持つ自分でなければ見えない程の僅かな隙。

 それこそ、光が届くよりも短いのではないかと思うような、そんな僅かな隙だ。

 その隙を突いてみると、攻撃が命中した。相変わらず二重の斬撃を躱すのは難しかったが、託された宝剣月光を使って防御とも組み合わせればなんとか防ぐことが出来る。

 そうなると、あとは単純に練度と身体能力を複合した肉弾戦の強さの差。

 

「ほう、その奥義は是非知りたいな」

「ふふふ、内緒ですわ。ディエゴもその域ですもの」


 そう言って誤魔化す。

 技としての奥義など、存在しない。

 レインに対する想いや王女として国を守る覚悟、月光を継いだことに対する重圧、そしてエリーを任された責任感。その他色々な感情が、オリヴィアにとっては負けられない理由だ。

 それが言い換えれば奥義。


 だからこそ、ディエゴもそれは持っている。


 今回は勝てたけれど、ディエゴもエリーの様に戦うほどに強くなっている。

 日々差が縮まっていく恐怖とも戦いながら、オリヴィアは今日も勝利を掴んだのだった。


 ――。


 そんな様子をわくわくしながら見ていた14歳と8歳がいた。

 隣には王もいて、愛娘と親友の戦いを固唾を飲んで見守っていた。愛娘が勝つのは嬉しいが、最早どうやっても勝てない親友が負けるのはやはり釈然としない気持ちも少しだけある。

 しかしそんなことを知ってか知らずか、エリーははしゃいでいた。


「よっしアーツ、明日は私がオリ姉を叩き潰すから見てなさいよ!」

 王族を前に王女を叩き潰す等と言える人間は、ここグレーズ王国で最早彼女だけだ。

「エリーさんも姉上も、僕はどちらも応援してます」

「ぐはっ」


 エリーはアーツの純粋な心に打ちのめされる。

 本当にこの王族は純粋過ぎてたまに眩しい。


「はっはっは、俺はもちろん……、どっちも応援してるぞ!」

「王様は何言ってるんですか」


 王は自分の娘を応援しろよとツッコミを入れつつ、エリーは分かっている。

 自分を娘にしたいだけでなく、王はエリーの戦闘スタイルのファンなのだ。一瞬の迷いがある辺り、どちらに傾きそうになったかは明白。

 今回はどんな奇想天外な戦いを見せてくれるのだろうかとわくわくしていた。

 

 そんな時だ。


「あ、嫌な感じがする。ドラゴン並みかも。しかも東西だ、ごめんねアーツ、オリ姉ディエゴさん、会議」


 グレーズ騎士団だけでは対処出来ない災厄が王都を襲う。

 ルークとエレナからそう伝言を受けていた二人とババ様と呼ばれる預言者から伝えられていた王とディエゴはすぐにそれに対応する。


「アーツ、今回はお前も来い。騎士団、今日は倒れる様な鍛錬は禁止だ。いつでも出られるように準備をしておけ」


 素早く指示を出す王が、初めて王に見えたエリーだった。

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