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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第四章:生の楽園を突き進む
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第二十七話:青年はまた少女を巻き込む

「何やら面白いものが居るな。一応相手はジャングルの反対側のようだが」

「分かるんですか?」

「分からん。勘だ。ただ、お前を助けたのも勘だった」

「なら信じても良さそうですね。何ですか?」

「分からん。お前よりは強そうだ」


 そこでサニィは気づく。

 あ、これはヤバいやつだ。

 レインの第六感とも言える野生の嗅覚が面白いと言っている。と言うことは、私は普通に死ぬレベルの何かが起こると言うことだ。レインは戦闘狂。間違いない。

 オーガ100匹より強いとなると……それ以上の群れか、それよりも強い個体。

 それよりも強い個体と言えば、ジャイアント、サイクロプス、タイタン、一部のゴーレム、一部のエレメンタル、ドラゴン、デーモンとか。

 どれも普通に考えたら一人では決して立ち向かえない相手だ。

 でも、デーモンは『狛の村』の村の周囲に出るらしいし、それを面白いとは言わないだろうな……。

 この辺りで何か強い魔物……。


「はっ、私箱入り娘だから何も知らない!」

「自分でそれを言うか。何を考えていたかは分からんが、心配する必要はない。お前は俺が守る。それよりも先ずはこのジャングルに入っている学生やらなんやらがいないかを確認だ。俺には全くわからん」

「は、……はい」


 思わず考えていたことが口から出てしまったことに赤面しつつ、サニィは探知の魔法を使ってみる。

 現在の探知可能範囲は半径500m程。しかし、ジャングルの地理は把握していないため、それよりも更に落ちる。200m程だろうか。体温を感知して、目視できない裏側を探せる程度のレベルだ。

 正直レインなら普通に探り当てられそうな距離しかない。


「探知では居ません。それでは、うーん。このジャングルの範囲が分かれば上空から声を降らせることもできるかも……」

「やってみようか。一先ず俺の向いている方向に相手はいる。そこまで距離はおおよそ50-80km位だろうか。そんな感じがするだけだからな……。40km程度飛ばせるか?」

「多分40kmすら無理ですけど、もうちょっと頑張ってみなくても良いんですか?」

「相手に届いてしまえば刺激してしまうかもしれん。そうなると危険だ。まあ、出来ないなら仕方ない」

「やってみます」


 サニィはそう言うと天に向かって注意喚起の声を飛ばす。声の振動を矢のように降らせるイメージ。

 一度に直線上全域に飛ばすのではなく、できる限り遠くから近くへ向かって何度にも分けて飛ばしていく。

 現状無限のマナを持つサニィにしか出来ない芸当だ。


「最高30km位でした。10km先まで200m置きに飛ばしました」

「十分だ。ありがとう」

 

 よし、これであとはレインさんさえたどり着けばみんな助かる。

 そう思ったところで、気づくことがあった。

 レインさんさえたどり着けばみんな助かる?


「あ、あの、レインさん」

「なんだ? 良い方法でも見つかったか?」

「レインさん一人で行って倒してくる、なんてことはできないんですか……?」

「…………」

「ここの魔物って、私なら楽勝なんですよね?」

「……行ってくる」


 レインはそう言って、凄まじい勢いでジャングルの中を駆けていった。

 なんとか直前でレインだけを探知してみたので、その影だけが凄まじい勢いで遠ざかっている。

 20km程でそれも見えなくなってしまったけれど、帰ってきた時に合流することはきっとできるだろう。

 そんな風に考えて。

 

(しかし、やっぱりレインさんって天然なのかな。私を心配してくれてるのは分かるけれど、こんな簡単な方法に気づかないなんて)


 そんなことを思う。

 サニィはその後、いつもの様に花を咲かせながら、一人のんびりと歩いた。

 やっぱりなんだかんだでいなくなると寂しい。

 でも、彼が負けるなんてことは有り得ない。それが分かっているから、安心して送り出せた。

 自分の中で今朝から少しずつ思い始めていた感覚を頼りに、サニィは歩き続ける。

 一人で捉えられていた時のことを思い出さないように、この鮮やかな花を想って、青い青年の向かった方向へと。


 ――。


「ふう、ただいま」

 

 少しばかり歩き疲れた夕方、レインは何事も無かったかの様に高速で戻ってきた。

 そんな中、サニィは久しぶりに歩き疲れていた。

 理由ははっきりとしている。一人だったからだ。

 二人で歩いていた時には全くなかった感覚。一人で歩けば、青年の重要性を思い出させる。


「おかえりなさい。どうでした?」

「何やら寂しそうな顔をしているな。抱っこでもしてやろうか?」

「い、いえ。良いですから! それよりどうでした?」

 正直少しして貰っても良いかもなんて思ってはいない。そんな風にサニィは心の中で強がる。


「して欲しくなったらいつでも言え。そして、相手は何やら緑色のドラゴンだった。殺しても持ってくることも出来ないから追い払ってきた」

「ド……、え? それって人間が追い払えるものなんですか?」


 ドラゴンと言えば、最上級の魔物。とにかくでかくて強くて賢い。

 というより、一国の騎士団総出でようやく防衛できるレベルだ。


「強かったぞ。騎士団長より遥かにな」

 それは当然ですよね……。

「えーと……、どうなったんですか?」

「特に言う程の内容でも無かったが、最後には「覚えておけ!」とか言いながら尻尾巻いて逃げていったな。あいつら言葉話せるんだな」

「……」


 青年は人外の中の人外。分かってはいたけれど……。

 ドラゴンなんて当然見たことはないけれど、彼らは極々稀に人間の領域の近くにやってくる。基本的には散歩、らしいが、それが与える被害は甚大だ。

 言葉は魔法だろう。ドラゴンは魔法のエキスパートでもある。賢いと言うことは、事象をイメージ出来るということ。マナタンクも人間とは比べ物にならない容量だと言う。

 そのブレスは一息で林を焼き、風を起こせば突風が吹く。地面を叩けば家々は崩れ、雨を降らせば洪水が起こる。

 極々稀にやってくるドラゴンを追い払うため、各国の騎士団は常にそれに対する準備は怠らない。

 『死の山』に入山するのも、強敵を相手にするのに慣れる為だ。

 サニィは頭の中にあるドラゴンの知識を引き出しながら絶句する。

 

「……あの、覚えてろって言ったんですか?」

「ああ。次に会った時にはしっかりと始末しよう」

「へぅあぁ……」 


 そういう問題ではない。

 巻き込まれたら絶対死ぬ。レインは無事かもしれないが、自分は無事ではない。

 いや、死なないけれど、死ぬものは死ぬんだ。それは嫌だ。

 ドラゴンが本当に襲ってくるかは分からないけれど、きっとレインはマーキングされただろう。

 そうなったら、この男のところに今度は直接飛んでくるだろう。

 そのタイミングは今回の様に選ぶことはできない。

 レインの勘を信じれば50km位で気づくみたいだから街中で戦闘になることはないかもしれないけれど、きっと自分はその巻き添えを喰らう。

 そんなことを走馬灯の様に思いながら、サニィは気絶した。


 その日はそのままその場所でキャンプをする。

 不幸なことに、サニィはあまりの衝撃でせっかくの目的地だったジャングルにたどり着いたことなど完全に忘れていた。

 ついでに、一人の寂しさで思い出しそうだった捉えられていた時のことすら忘れられたことが、彼女にとっては唯一幸運だったことだろう。


 残り【1810→1809日】

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