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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第二章:聖女を継ぐ者達
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第三十二話:エイミー先生……

 無限に魔法が使える環境下に於いては、ルークの強さはオリヴィアにも匹敵する。

 エイミーの異常な魔法以外は全ての魔法が扱え、その出力も大きい。

 呪文を唱え大砲の様に大魔法を発動するわけではなく、杖を使いイメージだけで大魔法を乱発する。

 そんなルークの戦いは、全く面白みに欠けていた。


「次元の狭間斬り」


 そんな最強の英雄の奥義を独自解釈して発動した魔法は、有象無象の魔物の群れの五分の一を速やかに切り刻む。ある視点によって距離を無意味にし、ある視点によって数を無意味にする。

 流石に想像力と出力の限界上一撃で全てを倒すことは出来ないが、充分に集中したその魔法は数百匹のオークやらオーガやらを瞬時に肉塊へと変えていく。


「一発使うのに10秒以上かかるか、威力も何もかもが及ばないな」


 そんなことを呟きながらも至極あっさりと魔物達を討伐していく。

 本家には及ばないその魔法で残ったデーモン数匹は重力魔法で適当に押しつぶした上に岩を落として、他の二人の様子を見てみると、エレナは問題なく戦っている。

 きっと彼女ならそのまま何かしらをして勝つのだろう。

 そしてエイミーの方は……。


 首を掴まれて気絶している。


 まずいと思って咄嗟にそちらに駆け出すと、すぐに目を覚まして何やら会話をしている様だ。

 彼女のことだから、きっと自分が向かっているのを気付いて時間を稼いでいるのだろう。

 通常の戦い方であればそこそこは戦えるのだろうが、ヴァンパイアロードはかなりの規格外だ。

 ロードと付く魔物は、何かしら異常があると考えて問題ない。

 デーモンロードであれば圧倒的な格闘能力、オーガロードであれば怪力、そしてヴァンパイアロードは心臓を粉々にしなければ死なない肉体の上に圧倒的な魔法の知識。

 現在であれば魔法は『聖女の魔法書』によってその知識を多くの者が知ることとなっているが、ヴァンパイアロードはその『魔法書』に記されていることを生来の知識として知っている様なもの。

 つまり、マナスルで戦うことが一切の優位に働かないのがこのヴァンパイアロード戦である。


 かつて最後の魔王と言われ呪いを世界に振りまいた『黒の魔王』も、このヴァンパイアロード亜種のプリンセスだとされている。


 つまり、ヴァンパイアロードに一番有効な対応は奇襲だ。

 パニックに陥れば魔法は使えないという聖女やドラゴンすら逆らえないルールがある以上、それは魔法の知識に長けたヴァンパイアロードであっても例外ではない。

 何故か微笑み合っている二人を相手に、追いついたルークは直ぐさま重力魔法を発動した。


 ビタンともグチャとも取れる音が響く中、ルークは高らかに宣言する。


「エイミー先生!! 僕が来たからにはもう大丈夫です!!」

「でかしたわルーク! 流石は聖女様の教え子ね!!」


 やはり彼女は自分の到着を待っていたらしいと推測が当たったことを喜びつつ、ヴァンパイアロードの微細な動きにも気を払う。

 エイミーは運良く助けが来たことに邪悪な笑みを浮かべつつ、自分の心臓に杭を打つが如くナイフを構える。

 そして若干の食い違いがあることなど知らず、ヴァンパイアロードは倒れたまま静かなものだった。


「先生、念の為頭を潰します。先生はその隙に心臓を砕いてください」


 ルークの提案に、自分の心臓に狙いを定めていたエイミーは思い直し正面に構えると、その心臓の位置を見定めえぐり出すイメージを固める。

 そうしたところで、ヴァンパイアロードはゴキゴキと手足の骨を押しつぶされ折りながらも無理に顔を起こすと、邪悪な笑みを湛えてこう言ったのだった。


「ふはは、無粋な輩め。魔王の娘の様には行かぬが貴様に『呪い』をくれてやるぞ小娘。精々苦しむが良い」


 そう言った瞬間、魔物の頭はルークの魔法によって弾け飛んだ。


 そして、真っ赤な血だけを残して黒い霧になったかと思うと、近づいたエイミーへとまとわりついて消滅した。

 しかしちょうどエレナからの念話を受けていたルークは、その一連の様子には気づかず無事に心臓を破壊したのだと勘違いしてしまっていた。

 心臓を破壊したヴァンパイアは倒れると血飛沫と共に霧散する。そんないつもの様子だと……。


 ――。


「キャアアアアァァアァァァァアアア!!!」

 

 そんな声と共に、山頂から真っ白な雪が襲いかかる。

 直前のエイミーの念話によって、これは声の振動を増幅したエレナの魔法が引き起こしたものだと直ぐさま理解したルークは、側の青い顔をしているエイミーを抱えて宙に飛ぶ。北はともかく、南はそのまま村へと向かっていくのが見えるので、エイミーを抱えたままにそれを防ぎに行く。

 八の字の防雪提を岩で作り出し、村へ向かわないように雪崩を誘導して、村は一件落着だ。


「さて、エレナは……、そういうことか。先生、降ろしますね」

「待って、ゆっくり、ゆっくりね」

 そう言った所、エイミーは青い顔をしっぱなしで動揺する。

「へ? どうしたんですか?」

「は、ははははは、これが呪いね」

 青い顔のまま笑う彼女は、絶望に濡れているように見える。

 諦めの笑いだ。

 呪いと聞いて、先程少しばかり意識をそらしたことを後悔して、尋ねる。

「まさか、魔王の……」

「いえ、そんな上等なものなら聖女様と同じと喜ぶわ」

「エイミー先生……」

 違うようで安心すれば良いのか、がっかりしたその言葉に呆れたら良いのかも分からない。


「私にかけられたのは劣化品も劣化品、ただ死ぬのが怖い。それだけよ……」


 それを聞いて、ルークは心配事がひとつ減ったと一安心、山頂に運んでエレナの元へと向かうのだった。

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