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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第二部第一章:鬼神を継ぐ二人
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第二十三話: オリねぇ

 しばらく歩くと、町が見えてきた。

 相変わらず、何処かは全く分からない。

 見ず知らずの森から、開けた場所に出て少し歩いた場所。

 地形の勉強はしていなかったから、海のある南か東以外のどこか、ということしか分からない。


 町に近付くと門番が二人、入り口に立っているのが分かる。

 何を聞こうか考えていると、二人もこちらに気付いたらしく、ひそひそと会話を始める。

 その内容は、全て力を通して直接理解出来てしまう。


【おい、あんな所に子どもがいるぞ】

【ボロボロの服に、剣には血と油がべっとりだな……】

【目付きもただ者ではない、子どものフリをした盗賊か?】

【魔物だという線もあるな、どちらにせよ、警戒は怠るな】

【抜き身の剣を持っている以上、最悪は……】


 そんな言葉が直接に聞こえてくる。

 それは初めて体験した疑いの心だった。

 以前、生まれた村では似たような経験がある。あの時は、どちらかというとその感覚が母親に向いていたけれど、今回は違う。

 直に、わたしへと向いている。


 そんな声が聞こえてきて、慌てて剣を鞘にしまう。

 能力の関係上奇襲の心配は殆ど無いけれど、素早く戦う為に剣は常に抜き身で持っていた。

 ほんの少しだけ刃も傷んできている。

 特殊な準宝剣なので、耐久力は高いけれど、そろそろ手入れをしないとまずい状況だ。

 それを、あの門番の二人は250m程あるこの距離から見極めている。

 そこそこの実力者であろうことは容易に理解出来た。


 相手は魔物ではなく人だ。

 むやみに争ってはいけない。いちいちそう自分に確認しなければいけない程に、疲れていた。

 つまり、今得た情報以外の殆どに気付いていなかった。


 わたしは両手を挙げて、敵意がないことを示すと、二人の門番に近付いて行く。


【近付いて来たな。敵意の有無は、まだ分からない】

 と向かって右の門番の心は呟く。

【少女の目ではない。あれは人を殺した者の……】

 とは左の門番。


 警戒すべきは左の門番。どんな力を持っているかは分からないけれど、酷くわたしを疑っている。

 そうして左の門番を見据える。出来る限り子どもであることを装って。

 今は10歳であっても8歳に間違われる自分だ。ちゃんとやれば上手くいく。

 そんな自分の目が、懐疑心に満ちていることにすら気づかずに。

 

「おい、止まれ!」


 150m程まで近づいたところで、左が叫ぶ。

 

「敵意はありません。や、宿を、貸して欲しいんです」


 だから純粋にそう答える。

 単純な願いだ。少しだけ休みたい。

 わたしを疑うこの人は疑ってしまうけれど、お金も無いけれど、少しだけなら魔物の素材も取ってきた。

 だけど、そんな願いは、左を疑っている時点で、届きなどしなかった。


「私の目は誤魔化されん。敵意を見抜く私に、そんな嘘は通用しない」

「え?」

【私を疑う時点で論外だ。何故やましいことも無いのに門番を疑う必要がある】

「あ、あの、わたしは、心を読めちゃうので」

 思わず、素直にそう答えると、次は右が反応した。

「な、そんな危険な力を持つ者を町に入れるわけにはいかん!」

【犯罪組織のスパイか? 他国か? それとも、魔物の言い訳か】

 右の心が読めてしまう。だから思わず、言ってしまう。

 どこまで思考出来ていないのか、少し考えれば分かることなのに、それでも止まらなかった。


「スパイでも魔物でもない。本当に、疲れて……」


 それが引き金だった。

 瞬時に敵意をむき出しにした二人はわたしに襲いかかってきて、わたしは逃げ出した。

【同情させる気なら少し知能が足らなかったな】

 そんな風に思う二人に、もう言葉など通じないと悟ってしまったのだ。


 それから二日程経って、また町が見えたから今度は川で綺麗にしてからこっそり入ると、宿屋で再び心を読めること恐れられ、追い出された。

 そこまで来て、ようやく気づいた。


 心を読まれるということは、そんなにも恐ろしいことなのだ。と。


 門番とは致命的に噛み合わなくて、一方的に疑いをかけられた。

 少し休んでから帰る道を探そうとしただけなのに、それすらも少し間違えただけで許されない。

 宿の人には無条件に恐れられ、わたしの力の衆目に向かって吹聴された。

 心を読んだところで、それを悪用することなんてないのに……。

 それでも、町の人々はわたしを追い出そうとした。


 なんでこんな力を……。

 そういえば、なんで今更こんなことを思うんだろう。


 そう思いながら暗い森の中、木の幹にもたれ掛かって眠ろうとした。


【見つけた!!!!】


 突然そんな声が聞こえたかと、構える間もなく何かに突進された。

 鈍い衝撃と、柔らかい感触と、汗のにおいと、花のような匂い。そして。


【無事で良かった……。無事で良かった……。無事で良かった……。無事で良かった……。無事で良かった……。無事で良かった……。無事で良かった……。無事で良かった……。無事で良かった……。無事で良かった……。無事で良かった……。無事で良かった……。無事で良かった……。無事で良かった……。無事で良かった……】


 そんな、余りにも丸見えの心の声。

 そんな、どうしようもなく安心する心の声。

 そんな、本当は大好きな人の心の声だった。


「ふ、あ、ぁあ、あああああぁぁぁあああぁぁぁぁぁあああああああん!!」

 抑えられない。もう、理屈ではない。

「オリねぇ、オリねぇえええ!!!!」

 力強く自分を抱きしめるこの人の名前を、ただ、ひたすらに泣きながら叫び続けた。

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