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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第二部第一章:鬼神を継ぐ二人
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第二十話:オリ姉エレナ姉にも負けてるじゃん

「そういえばアリエルちゃん、あ、女王」


 気を抜いた拍子にルークは失言をする。

 いつもエレナと二人の時はついそう呼んでしまっている為に、うっかり出てしまった。


「もう、良いよもう。みんなそうやって呼ぶし」


 白髪の少女は諦め気味にそんなこと言う。

 世界に散らばる仲間達の多くは、既に彼女を親しみを込めてちゃん付けで呼んでいる。

 今でも律儀に女王と呼んでいたのは正直なところ、ルークと最強の騎士位のものだ。


「おお、寛大になられましたねアリエルちゃん」


 すると、隣に立つ侍女、ライラも喜び始める。彼女はあくまで侍女だ。


「お前はダメー!」


 当然の様にそんな叱責が飛ぶが、侍女ライラはいつものことの様に女王の頭をよしよしと撫で回す。

 それが気持ち良いのか、女王はそれっきり大人しくなり、そうなところで再び怒り出す。


「もう、こんなことで騙されないもん! よしよしじゃないし! 妾女王だよ、ライラ侍女だよ!? 他の国の勇者はともかくお前はダメだよ!!」


 そうまくし立てる。

 これも、いつものことだった。

 二人は女王と侍女とはいえ、姉妹の様な関係。

 仲間内でだけは、時折こんな姿を見せるのだ。


 それが、他の仲間達にとっても癒しとなっていることを知っているので、彼女達はあえてこんな姿を見せているのだろう。


 女王アリエルの力は、正しき道を示すこと。


 最近はそれに、過去の悪を暴く様な力も付いたらしい。

 戦闘能力は一般人に毛が生えた様なものであっても、必死に努力してきた成果なのだろう。


「……あ、で、なんだっけルーク」


 不意に思い出したのか、女王はルークを向き直る。

 この女王、完全なプライベートタイムに入ると口調なんかも完全にそこらの少女と変わらない。そこがまた、親しみを誘う。

 自分のことを妾と呼ぶのだけは変わらないが。


「あ、あぁ、ウアカリなんか最近どうなのかなって思って」


 仲の良い姉妹の様な二人の様子を見てすっかりまったりしていたルークは、思い出しながら答える。


「ウアカリかー」


 女戦士の国ウアカリ。

 何故か女しか生まれず、皆が美人で、優秀な戦士となる不思議な国。

 そして皆が男好き。それはともかく。

 ウアカリは国を挙げて魔王討伐軍に参加してくれているが、現在ウアカリにはその要となる三人の大戦士がいる。


「イリスは順調に成長、ナディアはいつも通り、そしてやっぱり、クーリアも変わらないかな」


 嬉しそうに、面倒そうに、そして少しだけ同情した様に言う。

 

「そっか」


 それっきり、黙り込んでしまう。

 イリス、ウアカリの現在ナンバー2の成長は素直に喜ぶべきだ。彼女は魔王戦の中でも恐らく最重要な人物の一人。

 現在最前線で治療を行えるのは、恐らくルークとイリスの二人だけ。

 エレナも出来るには出来るが、彼女は極端に攻撃に特化した思想の持ち主なので丸っきり向いていない。

 その中でも、勇者由来の身体能力を持つイリスは、ルークよりも更にそれに向いている。


「ナディアも相変わらずだからね、相変わらず私を見るなり襲いかかってくる」


 とライラ。

 ナディアは、聖女サニィと瓜二つな顔をしている。そして、ライラのライバルで、聖女にとっては最大の天敵だった。

 彼女はレインに異常な執着を見せた上で、聖女サニィよりもスタイルが良い。

 単純な見た目で、聖女サニィの色違いで上位互換だと、聖女自身が思っていた。


 その為毎回聖女にぼこぼこにされていたのだが……。


「変わりませんか……」

「まあ、彼女からしたら、気付いたらレイン様が居なかったわけだしね。どこに怒りをぶつければ良いのか分からないんだろうけど」

 ライラははぁ、と溜息をついて。

「毎回挨拶もする前から襲いかかられるのは疲れるよ」

「「お疲れ様です」」


 心底、ルークもエレナもそう思う。

 ナディアは強い。流石自分達の先生と同じ顔をしているだけあってと言うべきか、現在最強の勇者を選べと言われたら、きっと四人で割れることになる。その内の一人が、間違いなく彼女だ。

 恐らく、本当の最強はオリヴィアで間違いないだろうけれど、それでもかなりの戦いをするはずだ。


 ――。


「ねえオリ姉、魔法使いで最強って結局どっちなんだろうね」


 時をほぼ同じくして、こちらはそんな会話をしていた。

 現在魔法使いは、凄まじい勢いでその強さを増している。以前はオーガを20体も倒せれば超一流と言われていた魔法使いだが、今では勇者の少しだけ下、イフリートを一人で倒せれば一流だ。

 とは言え、魔法使いが無茶をすることは少ない。

 勇者は先天的に魔物を倒したいという本能がその身に根付いているものの、魔法使いはそうでもない。そして、パニックに陥ったり、至近距離まで近づいてしまえばただの人という場合が非常に多い。

 よって、極一部を除けば、一人で魔物と対峙すること自体がないのだ。


 そんな中で、別格と呼ばれる七人の魔法使いがいる。


『天才ルーク』

『悪夢のエレナ』

『殉教者エイミー』

『ジャム』


 という七人。ちなみにジャムは四人組である。

 その内、エイミーを除いた全員が聖女サニィの生徒。


 そんな中で、絶対に戦いたくないと言われる二人の魔法使いと、最強と呼ばれる二人の魔法使いがいる。


 絶対に戦いたくないと呼ばれる二人は、勿論二つ名の禍々しい『悪夢』と『殉教者』だ。

 そして最強は。

 

「私は普通にルークさんかと思いますわ。王道ですもの」

 とオリヴィア。彼女自身が王道の戦い方をする為、どうしても応援してしまうのはルークだ。

「私もそうは思うけど、でもオリ姉もエレナ姉に負けたことあるじゃん」

「はぅ……」


 自信を持って答えた所、不意に痛い所を突かれる。普通に私はエレナ派、と言うだけならまだしも、前例を出されては反論のしようがない。


「オリ姉はルーク君に全勝で、私はエレナ姉に全勝。そしてオリ姉はエレナ姉に負けたことがあって、私はオリ姉に勝ってる。つまり」


 胸を押さえて上目遣いでエリーを見つめるオリヴィアに向かって、エリーは人差し指を一本立てる。


「私が一番ってことで良いよね」


 それを聞いて、ぽかんとオリヴィア。

 最強の魔法使いの話から、いつの間にそんな話になったのだろうか。


「えーと、エリーさん。65戦64勝。わたくしの圧勝ですわ」

「でもオリ姉エレナ姉にも負けてるじゃん」

「ふぐっ……」


 オリヴィアは、負けという言葉に弱い。

 エリーがルークに今のところは負け越しているという事など気付きもせずに、もっと精進せねばと鼻息を荒くするのだった。


「まあ、エレナ姉は誰にでも勝てる可能性があるからね……。順当なら普通にルーク君だよ」


 エレナは、一度だけならエリー以外の全員に勝った実績がある。

 そんなエリーの呟きも、オリヴィアには聞こえなかった。

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