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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
最終章:二人の終末の二日間
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第二百三十三話:幸福の日々は嵐の様で

 結論から言ってしまえば、決着はつかなかった。


 レインの猛攻に防戦一方になるオリヴィアと、耐え切れないレインの剣。

 サニィの巨大な魔法に為す術のないエリーと、それから守ろうとしてやはり耐えられないレインの剣。

 そして文句なしに全力をぶつけるサニィと、弟子の二人には未だ見えない隙を突いて攻撃するレイン。


 レインは一人でオリヴィア、サニィへの攻撃と、エリーの防衛を全て行っている。

 今のエリーでは、流石にこの戦いにはついて行けない。

 ドラゴン戦どころの騒ぎではない。元魔王と、それを無傷で倒した者の戦い。

 オリヴィアですら、サニィが手伝っても尚殆ど防御しきれていない。

 そうして2本持っていた両方の剣がボロボロになるのとほぼ同時、二人の弟子はサニィと共に、防御と攻撃の両方を一人でこなしている師匠の偉大さを改めてその身に刻み、その場に倒れ伏した。

 立っているのは、たった一人。


 どっちがより早かったか、なんてものは考える必要は無い。

 元々、それが目的という訳ではなかった。

 明確な目標を、その身に刻ませたかった。

 

 これが、魔王を倒した英雄の本気であると。

 これが、師であると。

 

「ふう、レインさん。ほんの一瞬だけオリヴィアが倒れるの早かったですけど、今日は追い出しちゃいます?」

「いいや、4人で寝れば良いだろう。お前達も成長したな」


 5年間の成長としては、サニィは言うまでもなく、オリヴィアもエリーも流石に文句が言えない。

 この一年の訓練でオリヴィアは既に生まれた直後のドラゴンと互角に戦えそうな程に成長しているし、エリーも初めて出会った時のディエゴよりも確実に強い。

 

 つまり、オリヴィアは歴史的な英雄に匹敵するレベルで強く、エリーは5年前までであれば最強レベルだ。

 

「はぁ、はぁ、でも、せっかく受け継いだ月光も防御にしか使えませんでしたわ……」


 右手に持つ羽の様に軽いささみ3号では攻撃を繰り出せたものの、重い月光は一度も振るえず、オリヴィアは悔しそうに言う。


「わたしもせっかく全部の武器が使える様になったのに……」


 同じくエリーも悔しそうに歯噛みする。

 なんとか必死にすべての武器を使って抵抗していたが、まだ成長途中。

 過去のディエゴよりも明らかに奮闘出来ていたものの、それでも必死に来る魔法を退けるので手一杯。サニィはおろか、オリヴィアに近づくことすら出来てはいなかった。


「ははは、でもまあ、安心したな。俺の弟子が俺の友人よりも弱かったらどうしようかと思ったところだ」


 オリヴィアは、サンダルよりも強い。

 それが分かっただけでも、満足できると言える。

 自分達がいなくなれば最強の座は二番弟子オリヴィアだ。

 それも、何年持つかは分からない。

 奪うことがあるとすれば、エリーだろう。

 それが、はっきりとした。


 まあ、友人にも頑張って欲しい気持ちはあるが、やはり可愛いのは弟子の二人に決まっている。


「全くレインさんは良い親馬鹿ですよね」

「ふふふ、ホント。なんだかんだ言って結局四人で寝てくださるなんて」

「優しい師匠に感謝しないとダメだよ、オリ姉」

「う、厳密にはわたくしの負けですものね……」


 そんなこんなで、夜は二人が普段使っている部屋で、四人で寝ることになった。

 順番はレイン、エリー、サニィ、オリヴィアだ。

 一応、オリヴィアが最初に倒れたということで、真ん中はエリーのものとなった。

 それに対して文句を言うほど、王女様もわがままではない。と言うよりも、自分からすすんでそこを選んでいた。


「レイン様、そういえば、月光の資料を探して来ましたわ」


 四人で寝転んでいると、ふとオリヴィアがそんなことを口にした。

 

「何か面白い情報があったか?」

「ええ、少し」

 

『いつか生まれる拒魔の勇者は、彼の黒剣で全てを取り戻すだろう』


「予言は不壊の直剣の資料にも記されていましたわ。何やら作った時からの予言の様で」

「そうなのか。文言も全く同じか」

「ええ。そうですわね。でも、能力は若干の違いがありましたわ」


 そんな会話をしていると、すーすーと寝息が聞こえる。

 いつの間にやら、間の二人は眠ってしまったらしい。


「能力だけ聞こうか」

「はい、不壊の月光の能力は【本来の姿を忘れない】でしたわ」

「…………なるほど、おやすみ」

「はい、おやすみなさいませ」


 最上位極宝剣【不壊の月光】

 決して壊れない、汚れすら付かないその剣の秘密は、本来の姿を忘れない。

 なるほど、確かにそれならば最上位の剣だというのも頷ける。

 レインは一人そう納得すると、意識を闇の中に落としていった。


 ――。


 朝、レインが目を覚ますと、既にオリヴィアとエリーの姿は部屋にはなかった。

 いつもは割と寝坊しがちなエリーにしては珍しいことだと思いながら、少し隙間の空いたベッドが寂しく思う。

 サニィとの距離は、手を伸ばせばちょうど届く程度だ。

 そう思い、眠っているサニィに手を伸ばしてみる。

 

「んん、レインさん。おはようございます」

「起きたか、おはよう」


 手が届く直前、目を覚ましたサニィに挨拶されるが、その手は引っ込めることなくそのまま頭を撫で付ける。


「んんん、なんですかぁ?」

「なんでもない。エリーもオリヴィアももう起きてるみたいでな」

「ふあぁ、寂しかったんですね。よしよしぃ」


 聖女は欠伸をしながら、頭の手を取って両手で包み込む。

 その手の柔らかさと寝起きの暖かさで、今日という日が少しだけ、惜しく感じる。


「よく眠れました」

「ああ、俺もだ」


 最後の朝は、そうして始まった。

不壊の月光の話は次作『武装少女』に続きます。

『武装少女』はこちら http://ncode.syosetu.com/n8163ea/


投稿時間の訂正です。

本日8月9日24時、明日12時、明日24時、そして24時10分までに一話投稿して完結となります。よろしくお願いします。

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